67.逃しませんよ(最終話)
長寿ゆえか、ゆったりと変化する魔の森の住人。逆に外で暮らす人族は、驚く速度で進化した。ぎこちなかった言語を操り、さまざまな道具や魔法を駆使する。足りない魔力を補うため、魔物を喰らう実験も行った。
あの熱心さと狂気には、感心するものがありますね。多数の死者を出す失敗すら、繁殖力でカバーする。いつからでしょうか、魔の森に住む我々に敵対し始めたのは。
「勇者が出てからでしょうね」
ローゼリッタと名乗った彼女は、最初の勇者と呼ばれ崇められている。魔王と互角に戦った? それは我々が都合よく書き換えた歴史でしょう。現実と幻想の区別がつかず、あっという間に本当の歴史を忘れてしまう。
害虫のような生き物に、なぜルシファー様が肩入れするのか。ずっと不思議で、観察を続けるたびに心囚われていく。この魔王の片腕と呼ばれることに、誇りを抱くようになった。
「アスタロト、どうだ? 可愛いだろう」
見たことのない種族を連れてきては、すぐに私やベールに預ける。繰り返す行動を叱っても、あの人は拾い続けた。エルフだったり、鳳凰だったり、虹蛇の卵もありましたね。生きづらい子を見つけると、すぐに連れ帰る。
「もう面倒を見ませんからね」
「わかった。気をつける」
返事をしてわずか数年後、またエルフを拾ってきた。数千年も経たぬうちに、今度はフェンリル……。
「拾わないでください、と言ったでしょう!」
「いや、面倒みないと言われただけだ」
書類や仕事の予定は忘れるくせに、こういった部分は絶対に覚えている。腹立たしい返事を寄越す主君を睨み、フェンリルの子に小屋を与え、肉を食べさせた。乳離れしていたのがせめてもの救いでしょうか。
その前に拾ったエルフは、色の薄いハイエルフとなった。本来の妖精族との違いは、色素の薄さと魔力量だった。森との親和性が高いハイエルフは、本来のエルフに馴染めずに困っていたらしい。
フェンリルの子も、他の魔獣を圧倒する魔力を持っていた。もちろん魔法は使えないが、毛皮の色や強さになって現れる。ハイエルフもフェンリルも、既存の同族とかけ離れた能力を誇る。だが、それゆえに生きづらさを抱えていた。
拾ってきた理由は理解するが……世話を私に丸投げするのは、間違っています。竜族の子に関しては、ベールが引き取ったので、私はさほど苦労せずに済みましたが。
「また勇者ですか」
魔王と対の存在、いつの間にか浸透した考えは、疑問を挟む余地もなく我々に面倒を増やした。緩衝地帯の森に接するエルフやフェンリルの負担が大きいため、見つけても魔王城まで放置するよう命じる。これもまた森の管理の一つだ。
我々も役割分担して、対処するようになった。増えた貴族や魔王軍の管理をベール、広い魔の森の監視と精霊を使った手入れをベルゼビュートが担当する。私は魔王陛下の補佐、尻拭いとも呼びますが……様々な面倒ごとを処理する係が近いでしょうか。
それぞれに得意な方向へ能力を発揮した結果なので、役割分担に不満はありません。ただ、もう少し自重してくれると助かりますね。
「あとは頼む」
「逃すはずがないでしょう! 待ちなさい! ルシファー様」
魔力を込めて名を呼び、縛るも窓から逃走された。ベールに嫌味を言われるのは御免です。絶対に逃しませんよ!
拾われた竜族の子、ルキフェルが使えるようになった頃、あの人はまた騒動を拾ってきました。もう朝の散歩も禁止しましょうかね。黒髪に金瞳、白い肌の赤子? これ、人族の血が入っていませんか? 大きく溜め息を吐く。まだまだ騒動は続きそうだった。
それでも、逃す気も逃げる気もありませんので……覚悟してくださいね、我が君。
終わり
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このシリーズは、本当に楽しく書けます_( _*´ ꒳ `*)_いつもお読みいただき、応援もありがとうございます。アスタロト視点、思ったより面倒臭いw 久々のルシファー様と愉快な仲間達でした。また別作品でもお会いできることを祈りつつ。




