45.王冠を嫌がる理由は
大粒の宝石をカットし、バランスよく配置した王冠を前に、三大公は顔を見合わせた。ルシファー様はドライアドと交流中で留守にしている。
「何が気に入らないのかしら。立派で素敵じゃない」
ベルゼビュートの意見に、ベールも付け足した。
「財力より威厳を重視した、このデザインは文句のつけようがありません。小人族の腕も素晴らしいですし、何が気に入らないのかわかりません」
「……強いて言えば、重かったかもしれませんね」
その程度の問題、魔法で片付く。ルシファー様とベルゼビュートが開発した魔法陣は、だいぶ規則性が絞れてきた。研究は順調で、あと数百年程度で日常利用できそうだ。それでなくとも、魔法を常時発動すれば、ルシファー様なら重さなど関係ない。
三人の真ん中にふわふわと浮くのは、拳大の宝石を飾った王冠だった。大地から生み出される宝石は、魔力を帯びている。魔族ではないし、魔物とも違った。生き物ではないため、その美しい輝きは装飾品として人気が高い。
数が少なく希少価値があり、高額で取引されることも珍しくない。これほど大粒で濁りもない宝石は珍しく、今回はほぼ無色透明だった。硬さも素晴らしく、金属を削り取るほどだ。強さの象徴として申し分ない。
最強を意味する魔王ルシファー様を思い起こさせる色を中心に、周囲に鮮やかな色の宝石を散らした。赤、青、黄、緑、紫、黒……これは魔族を表している。硬度も色も違う宝石は、さまざまな特性を持つ魔族そのものだった。
ルシファー様も一度は頭に載せたのだが……すぐに外してしまった。その後は見向きもしない。時間をかけてデザインを吟味し、宝石や金属を選び、苦労して仕上げさせた王冠だ。少なくとも数千年単位で大事にしてほしい。
「それほど、無茶な願いを口にしたつもりはないのですが」
気に入らないのなら、そう口にする人だ。何か別の理由があって、外した。三人で顔を突き合わせて悩むも、すぐに私は放り出した。
「あの人に聞いた方が早いですね。失礼します」
ベルゼビュートも逃げ出すだろう。最後まで悩むのはベールか。理由を聞いて教えれば、解決する。この時はそう考えた。
数時間後、口を噤んでダンマリのルシファー様を前に、私は苛立っていた。何度聞いても答えない上、二度と被りたくないと言い切る。人の苦労や手配を無駄にする人ではないのに、今回はなぜか頑なだった。
「ルシファー様、せめて理由を言ってください」
「……特にないが、被りたくない」
「話すまで、毎日書類を増やしてあげましょうか?」
「……その方がいい」
珍しい回答、いや、世界が滅びるのでは? と失礼な感想に至る答えに、額を押さえてしまった。
「理由を口にしないのは、誰かを傷つけるから……それとも言えない理由が?」
どちらにも反応しない。引っ掛けようと思ったのに、見事にスルーされた。普段が素直で飄々としているだけに、こうなると口を割らせる方法が思いつかない。宥めすかしても怒っても効果がなかった。
「わかりました。では、あれは飾ることにいたしましょう」
「どこへ?」
「決まっています。魔王陛下の玉座の上です」
玉座を作っていることも知らないルシファー様は、きょとんとした顔で首を傾げた。以前からベールとの間で議題に上がっていた。王と貴族が同じ高さでは示しがつかない。魔族には、背の高い巨人などもいる。見下ろされないために考えた仕組みだった。
「ぎょくざ……」
「ええ。目に見える権威は必要ですから」
嫌そうな顔をしても無駄です。もう三大公の間で議決は終わっていますし、貴族達の賛同も取り付けました。こちらは譲りませんよ。にやりと笑って、王冠を置く場所を考え始めた。




