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【完結】魔王様、逃がすわけないでしょう?  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!


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44.長所と短所は表裏一体ですか

 ひょこひょこ、そんな擬音が似合う歩き方だ。根を引き抜いて進む木を追いかけ、じっくり観察した。木の形の生き物……魔力はある。繁殖は複製や枝分けの可能性もありますが、一応複数の個体でクリアした。最後に残るのは、意思疎通だけ。


「失礼ですが、我々の言葉が理解できますか?」


 外から見ると不思議な光景だろう。歩く樹木に話しかける私は、どう映るのか。木がぴたりと足を止めた。葉をざわりと揺らし、一本がぶるぶると身震いし始める。


 ぽんっ。


 間抜けな音がして、樹木が化けた。かろうじて人型だが、枝で作った腕は長い。足も根のままで、頭部分に顔らしき模様が生まれた。


「りかい、する」


 ぼんやりした声だが、きちんと返ってきた。尋ねておいて失礼かもしれないが、まさか返事をするとは……。


「なんだ、話せるのか。よかった! いつから歩いているんだ?」


 言葉を探す私と違い、ルシファー様はからりと笑って話しかける。葉を揺らしながら、木は「ひが、にかいのぼる……まえ」と返す。子供のように片言でぎこちないが、先日発見した人族よりマシだった。


「樹木の人……樹人族かな。ドライアドと呼ぼう。それで、どこへ行く予定だった?」


 美貌に笑みを浮かべ、人懐こく話しかける魔王は、あっさりと名付けまで行った。勝手にあれこれ決めるなと叱ったのは、数えきれないというのに。物覚えは悪くないのに、どうして覚えないのでしょうね。


 苦笑いしながら見守る。木同士が顔を見合わせるように集まり、ざわざわと揺れた。相談する人のようで、ユーモラスな動きが多い。これは魔族認定確実ですね。


 報告書にはどう纏めるか。頭の中で文章を作り始めた。


「いく、ない」


「行き先決めてないのか。だったら、そうだな。この先にある湖の近くがいいと思うぞ。日当たりも抜群で、水もある。興味があれば案内しようか」


 木達がざわっと枝を振った。興奮した様子で同意を示す。なるほど、ルシファー様の誰にでも話しかけ会話を成立させる性格は、統治者として有益なのかもしれまんね。私やベールにはない能力ですし、ベルゼビュートは論外ですから。


 書類もそれなりに処理し、コミュニケーションは得意で、記憶力や行動力も高い。これであと少し真面目なら……。まあ欠点の一つもなければ、可愛げが……そこではっとした。どの種族もわかりやすい欠点がある。


 闇で活動する吸血種は耳がいいのに、視力が弱い。エルフは瞬発性のある種族だが、持続性はなく疲れやすい。鱗の防御に加え近接戦闘に強いリザードマンも、水がない乾いた場所では動けなかった。


 どの種族も何かが欠けている。互いに補うように複雑に組み合わさり、魔族の括りで守られているが……何か意図があるのか。魔の森がこのドライアドを生み出したのも、特別な理由があるのだろう。


「ドライアドを連れて、湖に行ってくる」


「承知しました。早いお戻りを。何かあれば、お呼びください」


 一礼して見送る姿勢を見せる私に、ルシファー様は「こわっ、早く行こう」とドライアドを促した。にっこり笑ってやれば、慌てて目を逸らす。そういうわかりやすい態度が、揶揄われる要因なのですよ。気づいていないみたいですね。


 わざわざ教えてやることもないので、歩いて去る樹木の一団を見送った。踵を返して歩く間に、作り上げた報告書の文章をさらさらと記す。空中で筆記した文字を確認し、最後に署名を足してから送った。


 執務室を目指す報告書は、途中で小鳥を避けながら飛んでいく。城門前の片付けも一段落ついた。あとは……先ほどの仮説を記録しましょう。いつか役に立つ日も来るでしょうから。

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