43.祭りの後の片付けでひと騒動
一万年目の即位記念祭は、想定より多くの魔族が集まった。各種族の代表のみならず、大勢が詰めかけて祝いの言葉を交わす。飲んで食べて騒いで、これ以上ないほど盛り上がった。
「でもって、祭りの後はいつも寂しいもんだ」
「そうですか? ご安心ください。まだ祭りの余韻が残っておりますよ……」
「あ、うん……頑張るか」
人数が集まり、さまざまな種族が盛り上がれば、当然……汚れる。あちこちに散乱したゴミは、魔王自ら出向いて回収していた。一応、ゴミ捨て場は用意されていたのだ。酔っ払ったドラゴンが竜巻を起こすまでは……ゴミは捨て場の中に収まっていた。
当事者に責任を取らせようにも、怒ったベールに叩きのめされて重傷だ。ルシファー様や我々のように、自己回復力に優れた者ばかりではない。今後のために、他者へ治療を施せる魔法を開発するべきだろう。
一つ解決すれば、また新しい問題が発見される。よく言えば発展途上で未来は明るい。悪く表現するなら……キリがなかった。それでも、まだ発展する余地が残っているのは、良いことだ。民のためにも、私達のためにも。
長寿とは退屈と同意語だった。長く生きれば、退屈が付きまとう。
「うわっ、ちょ……あーあ」
風の精霊が協力すると言うので任せたようだが、あっという間にゴミが再び散乱した。誰が協力するかで揉めて、精霊同士が争った結果だ。ルシファー様は苦笑いして許すでしょうが、私はそうはいきませんよ。
「整列しなさい。いいですか? まず……」
長い説教が始まる。並んだ精霊が居心地悪そうにしながら、一族の長であるベルゼビュートに助けを求めた。だが彼女も、さきほど騒動を起こして反省中だった。
酔っ払いドラゴンを運ぶよう伝えたところ、途中で落としたらしい。風に乗せてふらふらしていたら、ドラゴンが消えていた。平然とそう報告できる単純さが羨ましくなります。
「上の空ですね」
びくっと怯えを露わに固まる精霊達に、条件を一つだした。
「すべてのゴミを一箇所に集めて、燃やすことができるなら……許して差し上げましょう」
こくこくと何度も頷き、精霊達は慌ただしく作業を始めた。数匹……いえ、数人逃げたようですが。仲間が苛立ちを募らせているので、放置しても罰を受けるでしょうね。
魔王城前の広場は、徐々に片付いていく。小さな竜巻があちこちで発生し、上に巻き上げたゴミを器用に積み上げた。炎の精霊が踊りながら、火を灯す。わっと燃え上がるゴミが、黒い灰となって重なった。
「終わったようですね。ご苦労でした」
用意しておいた褒美の蜜を渡し、解散を許す。先ほどの説教で震えたのが嘘のように、精霊達は大喜びで蜜を運んでいった。
「あの子達、あたくしを見捨てたの?」
「おや、同族をそのように疑うのは失礼でしょう。単純に蜜に気を取られて忘れただけですよ」
「もっと悪いじゃない!!」
文句を言うが、大人しく罰を受けている辺り……精霊族は騙されやすい種族に分類すべきですね。こういった知識の蓄積は、魔族を治める上で役立つでしょう。
燃やした灰が飛び散らないよう、周囲に結界を張る魔王が振り返った。ルシファー様が笑顔で手を振る。
「アスタロト、これを埋めてくれ」
「人使いが荒いですね」
「お前ほどじゃないが」
いつも一言多いルシファー様の頬を摘まむ。騒ぎが大きかった分だけ、祭りの終わった広場は寂しく感じられた。昆虫系の魔族も増え、新しい街が作られている。城から伸びる大通り沿いの街は、城下町と名付けられた。
今後この魔王城を中心に、大陸と魔族が発展していくはず。腕の振るい甲斐があります。にやりと笑った私に、ルシファー様は「悪い顔して」と余計な一言を放つ。振り返った私は、当初の目的を忘れて動きを止めた。
「アスタロト?」
「ルシファー様、あれは……」
魔の森の木が何本か、根っこを引き抜いて歩いていた。目を疑う光景に、ルシファー様も目を見開く。なんでしょう、あれは。




