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33.忠義ではない感情を盾に

 段階的に魔力を解放する方が負荷は少ない。反動を減らせるのだが、そんな余裕はなかった。激痛より、呑み込めると侮られた怒りで、目の前が赤く染まるほど腹が立つ。


 千々に引き裂き、泣いて許しを乞う姿を見ても……この怒りは収まらないだろう。圧倒的な力の差で吹き飛ばしてやる。背中の羽が大きく広がり、コウモリの羽の先に爪が生まれた。まだだ、まだ足りない。


 練って高めて密度を上げる。夢中になって引き摺り出す魔力に、何かが干渉した。


「邪魔するぞ……周囲の被害を計算して動けって、お前から教わったと思うんだが? なあ、アスタロト」


 にやりと笑う。ルシファー様の魔力が私ごと周囲を隔離し、別空間のように隔ててしまった。見えるし聞こえるが、届かない。結界による見事な分離に、考えるより早く声が出た。


「邪魔をするなっ! これから」


「敵を殺すために、味方も全滅させるのか? ったく、お前らしくもない。落ち着け」


 呆れたと声に滲ませ、魔王は力を振るう。簡単そうに強大な魔力を使い、私を拘束した。手足を縛るのではなく、現状のまま硬直状態に持ち込まれる。


「……うわぁ、悪食だな。これは、なんだ? すごく黒くて必死な感情だが……」


 ぶつぶつ独り言を声に出すルシファー様は、私の腹に手を突っ込んだ。言葉通り、貫く形で体を通り抜ける。


「ん? やり過ぎた」


 ぶつぶつ言いながら腕を引き、体内で何かを探る。手で掻き回される不快さに、ぺっと唾を吐いた。


「ああ、気持ち悪いだろ。もうすぐ終わるから……厄介そうな……っ、すまん! 後で説教でもなんでも聞く!!」


 叫んで手を引いたルシファー様だが、その後を追う形で黒い霧が噴き出す。掴んだまま、ずるりと引っ張る様子は、霧ではなく形があるように思われた。


 無理やり引っ張り出したのは、真っ黒な炎だった。内臓を焼いていたのは、これらしい。赤い石を核にして燃える炎は、初めて見る色をしていた。漆黒が揺らめくように、向こう側は透けない。ただただ闇と同じく、すべてを吸収する色だった。


「いけるか?」


 何かと戦っているルシファー様が一瞬、気を緩めた。ああ、この人はこんな時にまで。何度も注意したでしょう。戦う相手の力量差に関係なく、油断はするなと――。


 黒い炎を生み出す赤い石は、ルシファー様の腕を侵食しようと試みる。より強い獲物を見つけ、歓喜するように炎が踊った。ひどく腹立たしく、呑み込めない黒い感情が湧き出る。


 私を格下扱いする気なら、いい度胸です。確実に葬って差し上げましょう。


 ルシファー様の結界をじわじわと溶かす赤い石を奪い、にやりと笑う。


「やめろっ、アスタロト……これは森が生んだ子じゃない!」


 どこかから入り込んだ異分子だ。世界が異なるか、理が違うか。取り込めば変質する。警告する響きに、私は穏やかな気持ちで答えた。


「だからこそ、あなたに飲ませるわけにいかないでしょう」


 魔の森が誰より愛情を注ぐ魔王。きっとルシファー様が傷付けば、森は助けようと動く。その結果引き起こされる未来は、凄惨そのもの。


 ああ、そういうことですか。だから大公が必要だった。魔の森は最愛の息子を創る前に、様々な実験をしたのだ。生み出された副産物である我々三人は、魔王ルシファーの別の形だった。もしかしたら、私達の誰かが「魔王」の器だったかもしれない。


 知らないはずの知識が流れ込み、私は覚悟を決めた。この人を守る盾となり、鋭い剣となって敵を倒す。魔王ルシファーの粗悪品、練習台であった。だからこそ抜きん出た能力と魔力を与えられ、今も恩恵を受けている。


 赤い石が皮膚を溶かし、腕に侵食した。受け止め、黒い炎に焼かれる手を眺める。これでいい。私以外の手であの人が変質するのは、許せなかった。それくらいなら、我が身を差し出せるほどに。忠義ではない感情に従い、私は黒い炎を己の裡に宿した。

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― 新着の感想 ―
アスタロト様(´;ω;`)小人達も赤い石に攻撃します。飲み込んじゃだめぇ(´;ω;`)!!猫作者さんGO!!噛み砕くのです!!
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