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03.犬の世話は任せる、ですか

 いつも同じだ。拾ってきては騒ぎを起こし、後始末を私に投げる。悪いと口にしながら、まったく反省せずに同じことを繰り返した。


 もしルシファー様が同族だったなら、とっくに命を刈り取っていただろう。面倒臭いが、彼は興味深い。強者ほど寿命が長い魔族において、我々の寿命はうんざりするほど長いはずだ。退屈を紛らわす相手として、ルシファー様は最高だった。


 予想外の言動も、ある程度想定できる騒動も、何もかもが飽きさせない。またかと思う状況でも、苦笑いで済ませるくらいには……ルシファー様のもたらす変化は心地よかった。


「アスタロト、いいか? この犬は初めて見る種類だ。それにツノが刺さっている」


 ぷっと吹き出してしまい、その瞬間、負けたと感じた。にやりと笑う若い主君は、得意げに犬の子の背中を撫でる。犬の方は気が立っているようで、ルシファー様の腕を齧っていた。常時発動の結界が覆う肌は、何もなく綺麗なままだ。


「噛まれていますよ」


「結界があるから、噛まれたうちに入らないさ」


 ……普通の魔族の結界なら破りそうな牙ですが。顎の力もさることながら、それなりに魔力もあるようだ。がじがじと齧る犬の子は、太い尻尾を揺らした。振っているのではなく、叩きつける動きで苛立ちを露わにする。


「きちんと面倒を見られるなら構いません」


「何を言う。オレが犬の世話なんて知るわけないだろ」


 それは私も同じです。むっとした。得意げに胸を張って言い放つところが、ルシファー様らしい。この先の展開は、前回の蛇と同じだろうか。


「私は無理ですよ。今は忙しいので」


「書類なら片付けておくから、頼んだ」


 ベールは腕を組んでルシファー様を睨むが、そのとばっちりが私にも向けられた。お前も犬を連れ込む気かと責める。私も被害者で、冤罪ですよ。


「ルシファー様、拾うなら面倒を見る。そうでなければ、拾った場所に戻してきなさい」


 見た目通り、子供の主君に言い聞かせる。一千年を生きても、中身は変化しなかった。戦う私とベールの間に立ち、平然と両方の攻撃を受け止めた姿も。何かを拾っては私に押し付ける行動も。長い寿命を持つ種族ほど、変化が少ない。


「まあ、文句ばかり言わずに抱いてみろ」


 無邪気な主君は、苛立つベールを無視して私に犬を渡した。灰色の毛皮は柔らかく、ふかふかしている。唸る声が小さくなり、私に尻尾を振った。ルシファー様に対する態度と違う。


 吸血種の長として一大勢力を誇る、このアスタロトを捕まえて、犬の世話を命じる。こんな主君は二度と現れないでしょうね。皮肉げに胸のうちで呟き、犬を魔力で浮かせた。黒衣についた灰色の毛が目立つ。


 魔法の風で吹き飛ばす間に、ベールはルシファー様の首根っこを掴んでいた。どうやら逃げ出そうとしたらしい。


「陛下、何度も申し上げておりますが……魔王らしく振舞ってください」


「魔王らしく、新しい配下を増やしたぞ」


「そうではありません」


 ベールは無駄が嫌いだ。なのに、子供の姿をした主君を、一人前にしようと努力する。それこそが一番の無駄なのに。この人が、真面目に書類整理をする王になるわけがない。


 それに、いつの間にやら犬の件が曖昧になっていますね。獣に関しては、ベールが統括していたはず。彼に任せればいいものを、私に投げて寄越した。この二人の関係は、まだぎこちないようです。


 主君が私を呼び出したことも気に入らないのだろう。ベールは人に厳しく、それ以上に自分に厳しい男だ。幻獣を配下に持つ実力者であり、魔王城の良心と呼ばれる存在だった。逃げ回る王を捕まえ、仕事をさせる手腕は見習うべき部分も多い。


 何より、私を警戒しているところが……この男が有能な証だった。ベルゼビュートは戦って負けた時点で、ルシファー様に忠誠を誓った。ベールはもっと複雑だが、最終的に主君と認めている。口では同意しながらも、私が一番裏切りに近かった。


 ルシファー様を殺し、美しい器から血を吸う日を夢見る。諦めていない。危険だと知りながら、私を側に置く酔狂な魔王――。


 睨みつけるベールの鋭い視線を受けながら、任された犬に魔力で首輪をつけた。

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