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【完結】魔王様、逃がすわけないでしょう?  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!


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24.敵わないと思い知らされた

 言い訳も追いつかない、天地ほどの実力差だった。私の首を落とした剣を収納へ放り込み、両手で頬を包む。


「ベール、用意できたか?」


「はい、こちらに」


 ぴちゃんと水音がする。芳醇な香りが漂う桶が運ばれ、ルシファー様は私の頭を放り込んだ。金髪が赤く濡れ、飲んでしまった甘い血に喉が鳴る。


「これも一緒に、と」


 手が触れ、足がはみ出した状態の体も放り込まれた。折りたたむように、ルシファー様が私を押し込む。なんともシュールな光景だった。


 血を満たした桶へ吸血鬼王の頭を入れ、後から体も詰め込むなど。もし私が復活可能な吸血種でなければ、惨殺現場でしょうに。やれやれと呆れる私を上から覗き、ルシファー様は楽しそうに話しかける。


「やっと戻ったな。さっきまで黒くて重い感じだったが、今はいつものアスタロトだ」


「お世話をおかけしました」


 謝る気はないが、お礼くらいは伝えるべきだ。そう思っての発言だが、ルシファー様は大きく目を見開き飛び退った。


「うわっ、生首が話すのって気持ち悪いな」


 前言撤回だ。この人にお礼も謝罪も不要でした。元に戻ったら、ただでは置きませんよ。黒い霧になりかけたのは、暴走したためでしょう。忙しさや血の不足で揺らいだ理性を、本能が上回った。


 傷つけられると暴走する癖を利用し、私を絡め取ろうなどと。事前にベールに血を用意させたことも、手回しが良すぎます。その能力をどうして執務に活かしてくれないのか。


 文句がぶくぶくと血の泡を作り、それがおかしくて力が抜けた。アホらしい。真剣に生きるより、ある程度力を抜いて自由にした方が楽だ。


 桶の丸い形に切り抜かれた空を見上げ、ねっとりと甘い血を味わった。こんな時間は久しぶりですね。


「ゆっくり休んでくれ、アスタロト。その間にオレは酒を楽しんでくる」


 いけませんよ! 実年齢はともかく、その少年姿ではダメだと言ったでしょう。叫ぶ前に蓋を閉められ、慌てて再生にかかる。しかし組み立てが面倒になり、魔力で体を霧状態にした。そこから新しく作り直す。


 上の蓋をのけて、ふわりと舞い上がれば……なぜか拍手で迎えられた。


「これは?」


「余興の一つだな。体を張った奇術と思っているはずだ」


 これなら暴走の事実は隠せるだろう。身内にも知られない方がいいはず。そう囁いて笑う主君に、これは敵わないと感じた。


 敵であれ味方であれ、これほど器の大きな人を知らない。暴走の気配を察知し、処分するなら私にもできる。だが、暴走を止めようと体を張って戦い、無理だと判断した途端に切り替えた。綺麗に事を収めた後で、さらにこちらの体面を気遣う。


 勝てない。そう感じることが、悔しくなかった。レベルが違いすぎると、嫉妬すら起きないようです。くすっと笑い、同族に手を振って応えた。


「お気遣いに感謝しますが……さきほど、私の手足を折った件については」


「おっと、あっちで呼ばれているようだ」


 逃げ出したルシファー様を見送り、呆れ顔のベールにも会釈する。彼は意味ありげに首を撫でて笑った。唇が弧を描くベールは、青い目を細める。


「ちょっと、さっきのすごいじゃない! あたくしも出来るかしら」


 ベルゼビュートは、本当に余興だと思ったらしい。どんな魔法を使ったのか知りたい、と興奮気味だった。


「本当に首を落とせばいいのですよ」


「秘密にする気ね? ずるいわ」


 きちんと事実を教えたのに、彼女は信じなかった。その様子がおかしくて、大笑いする。声を上げて笑ったのは、どのくらい振りか。


 悪くない。あの人を支えて過ごす時間は、きっと欠伸をする間もないくらい……騒がしくて賑やかでしょうね。

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― 新着の感想 ―
小人は魔王様の剣を軽く掴んで、魔王陛下の前を走ります。次の瞬間、防犯機能が発動。小人の泣き声が響きました( *´艸`)
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