21.即位記念祭は騒がしい
騒動があったことを公表し、即位記念祭は七日ほど遅れて開催した。竜族、神龍族、精霊、吸血種、魔獣が一堂に集う。そのほかに新しく加わった幻獣や妖精、鳳凰と名付け分類された火の鳥が顔を見せた。
「毎回同じセリフで悪いが、オレが魔王である限り、このルールだけは守ってほしい。弱肉強食が世の常だが、自分より弱い者を見捨てるな。生きるため、食べるために殺すのは仕方ないが、無駄に命を散らすな。行いを認めれば褒美を、罪を犯せば罰を与える。くれぐれも、忘れないでくれ」
穏やかな表現で告げるが、ドラゴン達は神妙な顔で頷いた。神龍も脛に傷を持つ身だった。両種族とも、強者に分類される。魔王ルシファー様に刃向かい、殺された同族の話は覚えているだろう。
純白の長い髪を結い、幼いが美しい顔で微笑む少年が、その全身に血を浴びて笑いながら敵を引き裂く姿は壮絶だった。あの美しさと残酷さ、それでいて苦しみを長引かせない優しさに惹かれる。
私がベールやベルゼビュートと共謀して戦っても、互角かそれ以下。全力を振り絞っても届かない高みで、ルシファー様は助けの手を差し伸べるのだ。あの余裕は、我々にない部分だった。
集まった魔族は総勢一万前後。全員で逆らっても勝てない、圧倒的な魔力を秘めた魔王は彼らの歓声に笑顔で応えた。
本能的に強者を崇め従う魔族にとって、ルシファー様はわかりやすい象徴だ。誰より強く美しく、薄い色を纏う人。
「アスタロト、あれでいいか?」
「ええ、ご立派でした」
褒められ、へらりと笑う姿に威厳はない。普段から仰々しい話し方を教え、民の前で使うよう伝えてきた。オレという一人称も、いずれ変更した方がよさそうだ。何かいい表現がないか、ベールと相談するべきだろう。
「あっちで皆と飯を食いたい」
「やり直し!」
「えっと、オレは民と交流したい……?」
最後が疑問系でなければ満点ですが、この人らしいかもしれません。及第点だと伝えながら、許可を出した。祭と銘打った以上、飲んで食べて楽しむ場だ。吸血種の一族も、捕らえた獲物の血を楽しんでいる頃だ。血抜きが終わった獲物は、魔獣達が受け取る手筈だった。
無駄なく酒も料理も行き渡るよう手配した。歩き出せば、しゃらんと髪飾りが鳴る。領地とした魔王城の北、我が城がある丘で赤黒い鉱石が出た。見た目の色から柘榴石と名付け、一族の飾り物を作らせる。
同じものを身につけたがるのが、吸血種の特徴だった。強者である王と同じ宝石や装飾品を身につけることで、その力を得て眷属となる。信仰に似た考えが彼らの中に存在した。私にとって利用しやすいので、今回の柘榴石も分け与えている。
得意げに飾りを揺らす同族の丁寧な挨拶を受け、魔王城前の草原を見渡した。城がボロボロになったため、中庭より外へ会場を移している。木陰に陣取る者もいれば、燦々と陽の光を浴びる種族もいた。思い思いに宴会が始まっている。
さまざまな種族の交流会も兼ねているため、同種だけで固まるのは御法度だった。通達に従い、魔獣の隣にドラゴンが寝そべり、人型を取った年配の神龍がまだ若い精霊と語り合う。
「鳳凰達も問題ないようですし……」
確認しながら、ふと足を止めた。鱗のある巨大トカゲに似た種族が、すくっと両足で立つ姿に驚く。今までは四つ足だったが、ついに立ったのか。世代交代する間に骨格に変化が出たと聞いた。
「おめでとうございます。こうしてみると体格も立派です」
「ありがとうございます! 先日進化したばかりで」
まだ長くは立っていられない。そんな雑談を交わし、リザードマンと別れた。広場のあちらこちらに、許可された屋台が出ている。その一角で、わっと声が上がった。
魔王ルシファーに喧嘩をふっかけ、その地位を簒奪しようとする若者が現れる。どうせ叩きのめされるのに……。見慣れた光景だった。私達にも勝てない者が、あの人を負かせるはずがない。
「即位記念祭のたびに起きるなら、いっそ恒例行事として組み込んでもよさそうですね」
眉根を寄せて呟いた。これもベールと相談しておきましょう。




