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【完結】魔王様、逃がすわけないでしょう?  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!


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20.人には誰しも欠点がある

「私も見たかったわ」


 一人だけ見そびれた、と不満を漏らすベルゼビュートは溜め息をついた。魔の森がどこまで広がっているか。確認するために大陸を調べている。今まで確認されなかった土地も描かれ、地図は一回り大きくなった。


 功績を褒められても、ベルゼビュートは不貞腐れたままだ。


「再現してあげましょうか?」


 にやりと笑い、ベルゼビュートへ持ちかける。親切な私の提案を、彼女は全力で拒否した。ルシファー様も同じですが、失礼な態度でしょう。


「最終的に、種族は何でしょうか」


「うーん、そうね。精霊に近い能力を持っているけれど、明らかに違うわ。妖精とかどう? 近いけど違う感じが出てると思うの」


 対話の中で答えを導き出す。彼女らしい手法だ。基本的に名付けのセンスはあるようですね。ルシファー様など、ひどいものですが……。鳥の卵にヒナと名付けようとするくらいですから。過去のやり取りを思い出すと、がくりと力が抜ける。


「ベールには話を通しておきます。精霊に近いなら、あなたの管轄ですね」


「え? あ、そうかも」


 こういう阿呆な答えが返ってくるのは、いかにも彼女らしい。直感は鋭いし、さまざまな面で実力も確かだった。魔法も剣術も、それ以外の特殊な能力も。認める反面、この単純で騙されやすい一面が気になる。誰でも一つは欠点が必要、ということでしょうか。


 それなら、文字が汚い時点で欠点は二つ。計算が得意なので一つは帳消しか。現実逃避するように考えを巡らせ、緑の髪色の子供達をベルゼビュートに押し付けた。嫌がることもなく、精霊が住む森の奥へ連れて行く。


 見送って振り返れば、ひどい有様の中庭が見えた。執務室の窓から見える景色とは思えない、散々な状態だ。針を引き抜こうと頑張る小人族を、魔狼も手伝っていた。人海戦術より、魔法の使える私が手を貸した方が早い。


 机の上に残る書類の山は、この騒動で倍に増えた。破損した資材調達に関する申請書、城や庭の損害報告書、新しい城の材料となる石材の候補など。さまざまな書類が重なっていた。ケガ人の報告書がないのが、逆に不思議なほどだ。


「あの人の仕業でしょうね」


 お陰と表現するのが(しゃく)で、つい「仕業」と言い換えた。結界で弾き、勢いを殺し、地面へ突き立てた策は見事だ。できるなら、大切な祭の資材も結界で覆ってほしかった。


「片付けを先行させます」


「お願いします。この書類は……私も手伝いましょう」


 ベールとの間で話をつけ、廊下へ出る。右手の壁から、木漏れ日のように光が差し込んでいた。言うまでもなく、刺さった針を引き抜いた穴だ。さっと手をかざして塞ぎ、すぐに苦笑いが浮かんだ。


 この平屋の木造建築は解体予定であり、修繕する必要はない。わかっているのに、つい手を加えてしまった。中庭へ降り立ち、まだ手付かずの針を抜いて庭の隅に積み上げる。魔狼や小人族が苦労する針もすべて、同じ場所に重ねた。


 素材としては硬く、鋭い。削って矢にするのはどうか。他にも使い道があるかもしれない。小人族にそんな話をしたら、彼らは目を輝かせた。加工作業や細工するのが得意な小人達は、数本担いで帰っていく。


「あなた方も、ご苦労様でした」


 大きめの肉を渡し、手伝いの報酬とした。魔族は互いに得意な分野で能力を活かし、足りない部分を補い合う。労働には対価をもって労い、罪を犯せば罰を与えた。


 弱肉強食の掟があるため、魔王や大公の決めたルールは強制権があった。尻尾を振り、喜んで肉を持ち帰る魔狼の群れを見送る。見えなくなる頃、後ろからルシファー様が顔を出した。


「これ、意外としなやかで使えるぞ」


 針を一本、振り回した。危ないですよと注意する前に、私の腕を掠める。


「悪いっ!」


「……信賞必罰の原則、ご存知ですよね?」


 知らないと言いながら針を放り出して逃げる背中に、特大の風の刃を飛ばした。まあ、どうせ傷は一瞬で塞がるので、怒ってはいませんが。刃を避けずに当たるくらいの誠意を見せてほしいものです。

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― 新着の感想 ―
仲間の小人達が針を持って帰って来ました。ふむふむ、この針を加工して槍を作ると?猫作者さんと小人は早速針のデザインを練ります。魔王様に献上せねば!!斬新な髪飾りも良いですね。
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