表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】魔王様、逃がすわけないでしょう?  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/67

14.説明が下手すぎて伝わらない

「あっ、その卵出しちゃったんだ」


 ふらりと現れた魔王ルシファーは、助け出した八つの卵に顔を顰める。まるで持ち出してはいけなかったように聞こえた。整い過ぎた顔の少年は、理由も語らず結果を突きつける。


「きちんと話してください。どうして持ち出してはいけないのか」


「ん? 説明してなかったか。それは新種の魔族だろう。おそらく翼のある鳥のような……火口ぐらいの高温じゃないと孵らないと思ってな。オレが放り込んだ」


「は?」


「……何を仰ったのか、理解したくありません」


 この少年は頭の中が沸いているのか。間抜けな声が漏れた隣で、ベールが溜め息を吐いた。理解できないのではなく、したくない。そう告げたベールの気持ちが痛いほど伝わる。


「ですから、結果ではなく……」


「悪い。えっと……高温じゃないと生まれないんだ。だから戻していいか?」


「死んでしまいます」


「それくらいで死ぬなら、もう死んでるぞ」


 ルシファー様は説明が下手だ。ある種の勘というか、閃きで生きている。ほとんどは正しい方向へ導くため、我々も問題視してこなかった。だが……我々でさえ結界がなければ溶ける高温のマグマに、鳥類らしき卵を放り込む? 勘で判断していい話ではない。


「卵の温度が……」


 冷たくなっていく。心音も弱っていくようです。心配そうにベールが卵を手で包んだ。覗き込んだルシファー様が指先で卵をつつく。


「やっぱり温度が足りないな」


 言うが早いか、実力行使に出た。指先が触れた卵から消えていく。転移に気づいたベールが、最後の卵を背に隠した。


「こら、死んでしまうから渡せ」


「できません」


 攻防を繰り返す二人の様子に、私は額を抑えた。原因は不明だが、確かに卵の心音が弱くなった。蝙蝠の聴覚は、他の種族より格段に優れている。その私がほとんど聴き取れないのだから、いつ止まってもおかしくなかった。


「失礼しますよ」


 ベールの手から卵を奪い、にやりと笑う。ルシファー様はすぐに隣へ現れ、卵を火口へ転移させた。


「アスタロト、あなたは!」


「あのままにしても死んでいました。ならば、賭けてみるのも一つでは? ルシファー様の勘は侮れませんからね」


 詰め寄って首元を掴むベールに、肩をすくめて無抵抗を示した。義理堅い彼のこと、私が抵抗しなければそれ以上は何もできない。この世界に現れてから、長く争った相手だからよく知っていた。敵には強いが、害意のない相手を攻撃するのは、彼の信条に反するのだ。


「……嫌な男です」


「お互い様でしょう」


 言い返して、話を終える。振り払う前に、ベールは掴んでいた手の力を緩めた。乱暴でもなく、唐突に解放される。


「……仲がいいなぁ、羨ましくなる」


 的外れな感想を口にするルシファー様だが、その視線は火口に向けられていた。噴煙で遮られる視界をものともせず、何を見通しているのだろう。同じ視点に立ち、同じものを見たい。足りないのは魔力、経験、それともまったく違う何かだろうか。


「あ、生まれる」


 火口が大きく爆発した。噴火と見間違うマグマの噴出、同時に炎の塊が飛び出す。火の玉が空で広がり……鳥の形をとった。噴煙が吹き飛ばされる。熱風が肌を焼き、すぐに結界で遮られた。


「アスタロトもベールも、結界は常時張るものだ」


 戦闘経験も少ないガキに、こんな指摘をされるなど。腹立たしいような、悔しさの混じる複雑な感情が湧き起こった。言われた内容は、正論なのだが。


 多少魔力を喰われるとしても、意識外の攻撃で傷つくよりマシ。今回のような自然現象による熱風なら、危害を加える意図がないため察知しづらい。言いたいことを呑み込み、全身を覆う結界を張った。隣のベールも渋々、結界を張るのがわかる。


「新種の魔族だ。歓迎しなくちゃな」


「魔力はともかく、言語が通じるかは試す必要がありますよ」


 わざと憎まれ口を叩くも、頭では理解していた。あれほどの存在が、魔物であるはずはない。溢れる魔力で火口の噴火すら操る。幻獣の中でも最上位の力を誇る存在だった。炎の翼を広げる鳥は、滑空して我々に近づく。その暑さに辟易しながら、ルシファー様の斜め後ろに控えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ