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アトラス初めての戦の巻き




 アトラスは常人には考えられない素晴らしい耳をもって、自分を呼ぶ悲鳴交じりの声に振り返った。


 先ほど頼まれた人に害をもたらす花は地面ごと掘り返せば、根っこごと駆除できるのでもう終わった。


 さて自分の畑に手入れしようと、自分の家の井戸で手の汚れをとっていた。


 普通の人間ならば井戸の水を汲むのに、何回も桶についている紐を引っ張らないと無理だがアトラスは、片手で簡単に水をくみ上げて土のついた手を洗える。


 目を閉じて耳をすますと、聞きなれない大きな生き物の足音が何十体と地面をかけている。


 アトラスは手を拭いていたタオルを放り投げて、全速力で呼ばれた方向へと駆けていった。


 全力で走る経験は少ない、なんていったって地面が陥没するからだ。


 蹴った堅い地面に人の足の裏の大きさ程度へっこむので、自らの意思で自粛していたが今はそんなの言っている場合じゃない。


 アトラスがその場所につくと、半人半獣のモンスターが群れで村を襲っている光景に目を鋭くして近くにいるモンスターへ向かう。


 実際にはモンスターは襲っているというより、馬鹿をやっているだけだが。


 例えば収穫して集めた大根をとって、走りながら食ったり。逃げ惑う村人を半分歩きながら追いかけたり。


 冷静な第三者から見るとまるでコメディのように、家の中で震えている人にわざと覗き、たまにノックなんかしちゃったりしては怖がらせている。


 脅しているモンスターも楽しそうな事、彼らはどんな形であれ自分を認識して反応が返ってくるのが数百年ぶり。とても楽しいだろう。


 そして駆けつけたアトラスの近くでおばちゃんが、狼の顔をしたモンスターに追いかけられてお約束のように転ぶ。


 これまたお約束で狼男がおばちゃんを狙うのを見て、風のように速く走って助走をつけると全身の筋肉を使い、狼男の腹を狙ってドロップキックを決めた。


 アトラスのドロップキックは狼男の腹にめり込み、骨は砕け内臓は弾けつぶれた。


 腹を押さえた狼男は大量の血を吐きよろめきながら、地面に背中から倒れる。


 でも勘違いしないで欲しい、狼男に痛覚はない。よってこれは演技だ、モンスター担当のミラジーノにしっかりと薔薇のように美しく散ってこそ舞台は華やかになるのよ!


 と、鬼のシゴキをモンスター(生前人間)相手にレッスンを組んだ。


 成果は確かにあった、痛覚がないとは誰も気付かないだろう。


 一体を片付けたアトラスは周囲を窺う、まだ敵の数は多そうだ。


 次に近くにいた熊の顔をしたモンスターが、牛の耳についているタグを(迷子になったら判別つくように)地味にはずしている。これは中々に後で飼い主が困る行為だ。なんて卑劣な!


 それでも人間には牛を襲っているにしか見えない。


 徹底的な悪の象徴として教えられているからだ、魔族は即悪であり存在を許されない。完全な邪悪な化身。


 魔族の悪口を神官に言わせたら、お疲れ様!といいたくなるほどベラベラと喋ってくれるだろう。実際のところ人間は都合の悪いことは魔族に押し付ける風潮がある。


 魔がさしたとか、心の隙間につけ込まれたとかね。そんなんハイゼットの前で言ったら、そいつは正座をさせられて泣くまで説教を受けるだろう。


 しかし人間は今のモンスターがしている姿が正しい魔族の姿だと思っている。


 話をきいた魔族の人たちは失笑を溢す、無理やりでしょう?……と。


 だが、今は過剰なほどの悪行として人間に映ってくれるのは好都合。本当に人を傷つけずにすむ。


 アトラスは狼男を倒すと休む暇なく、次に標的を移し続いて走り寄り、熊の頭をしたモンスターの後頭部を殴り潰す。


 ビチャッと地面に飛ぶ頭の一部、こりゃグロイ映像だ。


 だけど暫くするとモンスターの死体は乾燥した砂となって風に吹かれて消えていく。


 元は魔力を練りこんだ泥だ、一定の強さを与えたとはいえ許容外のダメージを食らうと生き物みたいに死に、ただの土に還っていく。


 それがさ迷う魂への報酬なので、当然だが。


 さて、アトラスに最初にやられた狼男だけど、砂となって形のなくなった体からカットされていない宝石の原石のような石が転がった。

 

 これは人間の世界ではアホみたいに高値で売れる、魔力を含んだ石だ。様々な魔法の道具に使われるので希少価値が高い。


 エッセの計らいで、アトラスが旅で金に困らないように仕込んだ。魔界では常に魔力が漂っているので、そこらに転がっている石に過ぎないけど、人間ならば欲しいだろう。

 

 その原石にさ迷う魂の寄り代にして、泥の中に埋めればモンスターの出来上がり。デザインと強さはその時に自由に操作できるから便利。


 とにかく、先ほど倒したさ狼男からさ迷う魂そのものが出てきた。それが狼男を演じた魂の持ち主にとって二度目の死である。


 すると人間の目には見えない光りの一本の道が、狼男に入っていた魂に差す。


 姿形はないけど、さ迷う魂に声が届く。


 魂回収は天界の末神である第15神の仕事であり、狼男に入っていた魂の死を体験したので再び迎えに来た。


 前回はこの時に拒絶をして逃げ出したけど、今は両手を広げて大歓迎だ。


 「まったく、190年前に素直に私と来れば苦労しなかったのですよ?」

 「はい、すんません」


 狼男の魂は、たった一人の娘を残して死ぬのが心残りで、天界に連れて行かれるのを拒否したのだ。


 「貴方の娘さん、カンカンに怒って待っていますよ?こっちに来たのにお父さんがいないの!何処でほっつき歩いているのかしら!!って私、詰め寄られたんですからね」


 苦笑いの声でそう伝えられ、さ迷う魂は申し訳なく思う。


 娘が死んだ時には一緒に逝きたくても、どうやって成仏したらいいのか分からなくなってしまっていたのだから。


 「さあ、逝きましょう」


 優しい光りにさ迷う魂は、懐かしい感じを覚える。


 そして一つの魂が天に昇っていった、それをミラジーノは見て「お疲れ様」と心で呟く。


 一つ昇っていくと、アトラスに倒された魂たちが次々と上がっていく。


 中には悪行が過ぎ、黒い靄に包まれ地獄に落とされる魂もある、ミラジーノは一つ自分の仕事が増えた。と、ため息をこぼす。


 でも終わりがある、地獄には。長い懲罰だが確かに終わりがあるのだ。


 さ迷う魂のままでは終わりはない、それだけも大分違う。


 さ迷う魂の結末はアトラスには知らない事だったが、アトラスにとって大切なのはモンスターから村を守ることだ。


 モンスターもアトラスと特別許しが出たものには攻撃可能なので臨場感を出すためと、自分を殺してもらうために、アトラスにモンスターが集まる。


 虎の顔をしたモンスターは鋭いつめをアトラスに向け、振り下ろす。

 

 しかしアトラスは爪が皮膚に当たる前に、虎男の太い腕を掴み逆の方向へ曲げて腕を折り、虎男の顔面までアトラスからしたらスキップする感覚でジャンプをして、横面に周り蹴りをいれた。


 脳と頬骨を壊された虎男は死んだ、アトラスが地上に着地した瞬間を狙ったもう一体の牛男が殴りかかってきたので、上半身を屈みながら走り。


 殴ってきた拳を避けて腕の下を通って、相手の懐に入り込むと無防備な腹に渾身の力で殴った。


 さ迷う魂~天昇一名様追加~ご案内、喜んで!


 酒屋のノリでドンドン行きましょう。


***   


 ハイゼットはアトラスの戦いに対して怯まない様子に満足そうに頷く。


 どんなに強くても、チキンでは話にならない。ここで逃げ出すような青年に育ってくれていなくてよかった。


 そろそろ、加勢……しなくてもいいけど、今後の自分たちのためにハイゼットは森の木の影から飛び出た。


 ハイゼットの前にはアトラスがもう一体の熊男のパンチを掌で受け止めた、アトラスと熊男の体格差は大人と子供ほどに離れているのだが、受け止めたアトラスは痛みも感じずびくともしない。


 逆に熊男の腕を掴んで一本背負いの要領で投げたが、投げた先に近寄ったハイゼットがいた。


 (おい!周りをよく見ろ!!)


 心の中でアトラスに小言を言う、戦い慣れていないから基本的なスペックは素晴らしくともやはり素人だ。


 飛んできた熊男を自分の製作した剣を抜き、流れる動作で綺麗に真っ二つにする。


 熊男は体をハイゼットに切られ、左右に分かれてハイゼットの横を通り、アトラスに投げられた勢いのまま地面に叩きつけられた。


 「そのままじゃ、キリが無い。これを使え」


 ハイゼットは自分の作ったもう一つの剣を、アトラスに投げて渡した。


 「君は?」


 突然に森から出てきた見知らぬ男にアトラスは驚き、思わず警戒を解いてしまった。


 旅人に変装しているハイゼットはマントで口元を隠して、余り顔を見せないようにしている。


 しかも其れでなくても、黒がベースの色になっているのでまるで暗殺者みたいな雰囲気をだしてた。


 「話は後だ、死にたくないなら戦え!」

  

 そう言い捨てると、旅人に変装しているハイゼットは走り近くの半人半獣モンスターの首を落とす。


 無駄のない、流れるような剣の動きにアトラスはハイゼットに見とれた。


 この村には剣を教えられるような人物はいない、国王のいる兵士くらいしか武器をもっていないのだ。


 アトラスは生まれて初めて握る剣の柄を握ると、抜剣してみた。


 見て楽しむ品ではなく、使って戦う剣だ。飾りはないが銀色をした刃は太陽に反射して美しかった。


 見よう見まねで剣を振舞ってみる、ハイゼットに気をそらしている豹の顔をしたモンスターに向かって横一線に剣を振った。


 まるで熟した果物を切る感触で、モンスターの体は切断された。


 これはとても効率がいい、殴るよりも断然自分にあっている気がする。殴るのもいいがそれでは剣よりずっと相手に近づかなくてはいけない、一対一ならいいが群れている相手をするには早く倒さないと被害が広がる。


 ハイゼットは横目でアトラスを見ると、まだ出ていない二人に念で話しかけた。


 ≪モンスターの数が少ない、追加頼む≫


 それにミラジーノが答えた。


 ≪私の出番まだ?≫

 

 ちょっと不満そうな声にハイゼットはため息混じりに。


 ≪召喚したら好きなタイミングで二人とも出てくれ≫

 ≪キャーどんなシチュエーションにしちゃおうかしら!!≫


 楽しそうな声で答えたミラジーノがいる方向から、もう数十体の魔物が飛び出してきた。


 追加したモンスターたちは四本足の完全な獣型、見ため狼がベースの牙が以上にでかく体もライオンほどある。


 旅人に変装したハイゼットとアトラスに走り牙をむいて襲いかかってくる、狼たちにアトラスとハイゼットは剣を構えなおし、群れに向かって突っ込んだ。


 走りながらアトラスに向かって先頭の一匹が涎をたらし、口を大きく開き唸る。


 アトラスは眉を顰め、牙が届く前に狼の額を剣で突き刺した。アトラスにとっては狼の動きなど物足りないくらいに遅い。


 そして超人的な力をもって、綿を裂く程度の力で簡単にモンスターは死ぬ。


 ハイゼットは経験をもう少し積めば、もっと無駄のない戦いが直ぐに出来ると思う。そして自分も飛び掛ってきた狼の首を真横に避け、刎ねた。


 「数が多いね、時間がかかりそう」

 

 アトラスがゆっくりと辺りを見渡して、ハイゼットに言う。


 「そうだな、戦闘力はそんなに高くないが」


 内心でハイゼットは舌を出す、シリアスな顔しているけどね。全部演技。


 ジリジリと囲まれて二人を中心に、狼の輪が出来る。


 ここが村ではなかったら思う存分戦えるアトラスも、的として村人や家畜が逃げ切るまで引き付けなくてならない分、厄介だ。


 でもハイゼットは別の意味で厄介な相手と戦っている。


 ≪ちょっと!もうちょっとピンチになってよ!!≫


 ミラジーノの高い声がハイゼットの頭に響く、アトラスの戦闘力を考えたら今この状態が最高の見せ場だろう!!


 ≪どうでもいいが早く来い!タイミングなくなるぞ!≫

 ≪もっと私が華々しく登場できないの?この大根役者!≫

 ≪言ってくれるね~だったら、お前には完全に裏方をやらすぞ!≫


 念話での会話を戦中にもかかわらず続ける2人に、時間がかかりそうだと判断してエッセは立ち上がり。


 無言でミラジーノの首辺りの服を掴む。


 「ちょっ!」


 レディに何すんのよ!と叫ぼうとした瞬間、狼に囲まれている輪に向かって放り投げられた。


 森から出てきたミラジーノにハイゼットが、折角かっこよく登場しようとしてたのにザマ~っと心で呟いた。


 動くのに邪魔になるフリフリの魔導師の服であるに関わらず、くるっと1回転をして無事着地。


 可愛くウィンク一つして。


 「お待たせ」


 ハイゼットの仲間の1人というのを、一応アトラスにアピールをしてこれまた可愛い飾りの沢山ついた杖を掲げた。


 「えい!」


 っと緊張の無い声で杖を一振りする。


 すると炎に包まれた風の矢が無数に狼に向かって放たれ。当然、直撃した狼たちは抵抗むなしく丸焼けになっていく。


 「いえ~い、流石ミラジーノちゃんつよ~い!」


 ハイゼットは呆れ顔でミラジーノを見る。コイツはアトラスの前ではぶりっ子のキャラで行くらしい。


 気持ちわる…。


 確かに心で呟き、念話ですらなかったはずのハイゼットのわき腹に、凄い勢いでミラジーノの杖がめり込んだ。


 「ぐふっ!」


 結構ハイゼットとミラジーノの間には距離があったのに、高速の速さをもって一直線でハイゼットのわき腹にヒットした。


 一瞬だけミラジーノと目が合う、目は殺すぞ?と語っている。


 これには溜まらず、その場にしゃがんだハイゼットに向かって白々しくミラジーノが「大丈夫?」なんて訊ねてくた。


 し、信じられねぇぜ…この女。


 しかしハイゼットはミラジーノとの長い付き合いで、こんな理不尽は今に始まったことじゃない。諦めが肝心です。


 この隙に数体の狼が一斉に3人向かって飛び掛ってきた、アトラスが切ろうと動く前に、真横から強い突風を感じた。


 よく見れば風ではなく、大柄の男が槍を一振りして狼を粉砕していた光景だった。


 「遊ぶなら後にしろ」


 ちょっと低音のエッセの声が一言諌める。


 アトラスには自己紹介してはいない為にアトラスからしたら謎の男が増えたという感じで、少しだけ戸惑が。


 そんなのお構いなしに、エッセが飛び出し大きな槍でまだいる数頭の狼をなぎ払った。


 ドンっと地面に、槍の刃の付いていない柄の先端のある石つきを置くと、重い音が周囲に響く。その音でアトラスは気持ちを引き締めなおした。


 普段旅の人すら通らないのに、今日に限ってなんでだろう。なんてつまらない考えは捨てた。


 ミラジーノの魔法にやられて数十体はいた狼は、数えるのが簡単なほどに少なく数分で全滅させられる。


 狼の体に入っているさ迷う魂も、演技に力が入り唸っているがアトラスは真っ直ぐ敵を視界に入れた。

 

 「さて……早く終わらせるぞ」


 戦い慣れていないアトラスに向かって言った、アトラスも無言で頷く。


 ハイゼットが視線でエッセとミラジーノに合図を送ると、視線で返事を返した。


 もう村にモンスターを連れてくるのは十分だ、次のステージに移るために剣を構えなおす。


 終わったらアトラスの家でお茶でもご馳走してもらって、さり気なく国王の話をして、謁見室で姫が俺たちで攫って、勇者の出来上がり~プラン第一ステージ完了。


 可愛い赤子との再会は、戦闘中なんてロマンチックにもほどがある、まあこれも面白い。


 ハイゼットは数年ぶりに楽しそうに剣を握り、自分たちで作り上げたモンスターに向かって走った。


ごきげんよう、私の小説は何でサクサク進まないのでしょう?

それは私が下手だからです、自問自答して落ち込んでいる長毛種の猫でございます。

自分のルールとして5000文字前後になったら更新するってのを作っているのですが、これは話の流れとしてはいつも中途半端になってしまいます。

う~ん何故?

とにかく3人の王とアトラスが面会できました、はやくお姫様を攫いたいです(笑)

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