レッツパーティー!
魔界の王である三人を一つの括りとして人間は三邪王と呼ぶ。三人の邪悪な王を略して三邪王。
最初に名づけたヤツは上手いことつけてやったぜ、なんぞ思っているかもしれないが。そいつの前に現れて鼻で笑ってやりたいとハイゼットは思っている。
もっと捻りを加えろ、といいたい所ではあるがそう呼ばれている三人は村の外れにある一軒を目指して歩いていく。
人間にどう呼ばれようとも、今の三人に重要なのは力を授けた赤子の暮らしっぷりだ。
立派な青年になったアトラスの成長を喜んだのもつかの間、彼が村人Aのような存在なのに落ち込んだ。
隣の大国が戦争をしているのできっと戦士として功績を残しているものばかりだと思った、それでなければせめて与えた能力を活用しているならともかく、近所の用事に使われている現実。
確か夢を裏切るのは自分だけど、真実は自分を大抵裏切るって何かで書いてあったな。
まさにその心境だ、そうやって国にとどろく名前を持っていたならば勇者として担ぎ上げるには苦労しないのに…。
3人は最後の足掻きとして、そっと一目を避けてエッセの魔力によって作り出された擬似生命体であるムーヴと名づけられた女性の元へ行く。元々は人間が捨てた人形だった彼女は長く人と接触することで魂の欠片のようなものができていた。
だが、前の持ち主が死んだことによって次の持ち主は、奇妙な人形を嫌い街の隅に放り投げたのを、偶然にもエッセがモンスターの噂のほどを調査しに来ていたときに発見した。
しっかりと彼女が魂と呼べるものを育てていけば、魔界の住人として迎え入れると契約しているのだ。サファリの世界で魔族が住み着くのは少し気が惹ける。
だから契約として半魔族のムーヴがアトラスの成長を代わりに見守ってもらっていた。彼女は普段老婆になってアトラスの素行を見張らせている。
ならばアトラスがこう育った原因と周囲の状況を知っているはず、このままではアトラスを勇者として英雄にさせるどころか、旅さえ始まらないフラグが立ちっぱなしだ。
「ムーヴ!」
3人は村の外れにある元は廃墟だった家をハイゼットが魔力で修復した家を訪ねた。扉の向こうには直ぐに老婆であるムーヴが立っていた。
「よくきました」
老婆はイスを差し出し、3人は座る。
「もてなしはしなくていい、それより話を聞かせてくれ」
テーブルに席を着くとさっそくエッセが訊ねる、老婆のムーヴは3人に向かい合う様にイスに座った。
「まずはどの辺りからでしょうか?」
そう喋りつつ老婆はパンっと一つ手を叩くと、二十歳前の女性の姿に変わった。本人の希望で人形を人間にした姿を望んだのでエッセは容姿をそうした。普段は働かなくてもいいように老婆の姿をしているだけだ。
彼女にもアトラスにつけた額の宝玉と同じく無意識に周囲の中に溶け込むように魔力がかかっている、彼女に違和感を抱けるのは魔力が通じないアトラスぐらいなもの。
人間で唯一魔力にほぼ無敵なアトラスが気にしている報告がないところ問題はない。
三つ並べたイスの真ん中に座ったハイゼットがテーブルに手を置き。
「まずは何でアトラスは能天気に暮らせる?隣国の大国が戦争をしているんだ、この小さな国では隣国の言いなりのはずだろう?」
ムーヴはおかしそうにクスクスと笑う。
「そうですが、ハイゼット様方は地形を頭に入れていらっしゃらない。確かに隣国は戦をしていますが隣国との間には山脈があり、ちいさな国から兵を集めるよりも少し遠くでも違う国から集めたほうが効率がよいのです」
へ?っと間抜けな返事をハイゼットはしてしまった。
アトラスの暮らす小さな国をオッティは隣の大国ディアリスとの間にけわしい山脈に挟まれて例え隣国が大国であろうが、昔からなに風吹く~状態だ。
しかもオッティに金山か特殊な何かがあれば手を出す可能性も含まれるが。ないのだから仕方ない。
特産は村の現状を見てもらって分かるように、とても平和なくらいだ。
ハイゼットたちは大国があるから何かが起きるだろうと高をくくっていたのがいけなかった。ムーヴを送って満足していたのが失敗だった。
彼女もアトラスに異常がなければ連絡しなくてもいいと、言ってあったので彼女には何も責任はない。
でも、エッセはまだしがみつく。
「あれほどの力を与えたのだ、オッティの国王から兵士くらいは召し上げる話はなかったのか?」
国王の目に留まっていればアトラスが勇者として扱われるのも難しくない。
ムーヴは面白そうに笑う、その血の通った人形の笑みに期待がガラガラ音を立てて崩れる。
「国王の趣味は家庭栽培、王妃は古着の直し仕立てに夢中でいらっしゃり一人娘の姫君は最近父君の畑からトマトを収穫されたとか。王族の噂がこの程度です、兵士など強化しましょうか」
なんてこったい…、それでいいのか国王よ。
規模は違うが同じ王として其れは…なんて心情に陥る3人。
この国オッティは貧しかった、その為に国王自ら質素な生活をしている。
野菜を愛する国王が必要以上に兵士を集めるだろうか?普通は集めるしかし、ここの国王を普通と照らし合わせてはならない。
だって国王自体が農家の出身だからだ、王妃が1人で散歩(今更警護兵とかツッコミはいらない)で大根を抱える1人の青年に一目ぼれ、後の国王に出会ったのが始まりだ。
このエピソードを聞いてどれくらい素朴を愛する国かを分かって欲しい。だから建前程度の兵士しかいないし、国をとっても隣国に目をつけられるほどの特別な何かもない。
だから兵力を強化する必要が無いのでしない。
小さな国オッティの名産は田舎的平和と楽園の住人かと思えるほどのいい人たち。悪行?何それ美味しい?なんて返ってくるのではないか?
元々オッティは天界の神を信仰する修道院が大きくなって国になった、人々は神の教えに忠実で必要以上の欲をださない。戦争が絶えない他の他の国々も見習って貰いたいです。
そんなんばっかりで出来た国でアトラスはスクスクと成長した。そりゃ、村人Aにもなるわ!!
「どうする?!このままでは永遠に村人Aでアトラスの一生は終わるぞ?」
エッセが顔を青くなりつつ両手をテーブルにたたきつけた。
「どうするって…じゃあ、私たちで騒ぎをおこせばいいじゃない?」
一番右に座ったミラジーノは窺うように男2人に意見する。
「それだ!」
ハイゼットが指を鳴らし、勢いよく同意した。
「俺たちが騒ぎをこの国で起こせばいいんだ!そうすればアトラスは強制的にステージに立てさせられる」
エッセが「だが」と付け加えた。
「どんな騒ぎを起こす?人を殺すのはご法度だぞ?」
「馬鹿ね~」
唇を指で触って考えているエッセにミラジーノは得意そうな顔で言ってきた。
「勇者が旅にでるのはお姫様を取り返すに決まっているじゃない?そして芽生え燃える姫と勇者の愛」
ハイゼットもミラジーノの提案に悪くないと思う。
お姫様には気の毒だけど、誘拐させてもらおう計画がハイゼットの脳内で発動。
ただ攫った後は最高のもてなしをして望むだけの待遇をさせてもらう、流行のドレスにアクセサリーを揃えて優秀な家庭教師も忘れずに集め決して苦しい思いをさせないように努力しようと約束する。
「都合よくいけば……アトラスが姫と結婚か、英雄にして次代の国王。いいじゃないか」
そうすればアトラスが英雄として迎えられる所か、田舎とはいえど王族の仲間入り。これは中々ウマーの、予感がした。
「それでどうやって王宮にアトラスを行かせるかだよな…」
お姫様が攫われるには王宮にアトラスがいないと意味がない。
そして理由が無いとアトラスは王宮に足を運ばない、ましてや旅なんかでない。
平和な村が世界の全てのアトラスが世界を救う旅なんぞ今の状態では何年待っても無理だとわかっている。
アトラスが密かに旅に憧れ外の世界に思い弾ませる好奇心がある青年ならば……どれほど楽か、トホホ。
「王宮の祭り…じゃ、イマイチね…。もっと確実に王様が至近距離でアトラスと対面するほどの」
考えるミラジーノにエッセが。
「簡単だ、モンスターを数体ここで暴れさせればいい」
「そっか、そうすれば王様にもアトラスに注目しざるおえない」
エッセにハイゼットが嬉しそうに同意した、アトラスに与えた力は本人が使いこなせてない部分を抜いてもほぼ無敵。天敵といえば神クラスか力を与えた張本人の俺たちくらい。
つまり神と同レベルの人間だ、あっという間に強さは風となって広がるだろう。
3人は大まかなプランを立てた、簡単に説明するとこうだ。
村をモンスターから救ったアトラスを国王が功績を称えるために王宮に呼ぶ、そして目の前で攫われるうら若い姫君。国王は姫の奪還をアトラスに命じて魔王(くどいが俺じゃねーぞbyハイゼット)を討伐しに旅に出る!
倒される魔王に英雄としてレジェントとなるアトラス、旅の間に俺たちが立ち回り人間たちの世界サファリと魔界ソニカを離別する魔石を使ってアトラスに封印もらって大喜び。俺たちの悲願も達せしちゃう。
魔石を使って封印すると人間が魔族を召喚できなくなる、人間も魔族もこれで平和。
うん?何でアトラスが魔石を封印させるために旅をさせるって?大分最初の頃から疑問だったのかい?
そりゃ、アトラスの魂が魔石の封印をするに相応しい魂の持ち主で、今すぐに封印をしてもらっても魂を鍛えなければ封印にまだ耐えれない。旅をして心身共に成長してもらう、そして魔石使って達成していただきたい。
だからありもしない魔王を俺たちが作り上げるんだ、勇者としての旅ならばこれ以上ない程魂を鍛えられる。ついでにアトラスは英雄にしてやれるから一石二鳥。
悲しいかな魔石は人間にしか封印できないのだ、魔界の魂でも天界の魂でも駄目。ましてやエフルたちの魂でも。
魔石の封印には魂の波動の力が必要、邪推するなよ?命を捧げるとかじゃないからな。
ハイゼットはそこが面倒だよっと、テーブルに顎を乗せてうだる。
俺たちの魂は純粋に魔族の純粋な魂だ。でも人間は違う、色々混じった魂をしている不思議なことに。それが封印には必要であります。
だから勇者への第一歩は自分の村を守る、う~んベタだけどいいじゃないか。
「じゃあ、何体か召喚しましょう?」
「数十体もいれば十分だ」
両手を合わせて弾む声でミラジーノは言ったのを、エッセがモンスターの数をざっと思い浮かべ妥当な数を答えた。
「ではいつ決行なされるのでしょうか?」
今にも行動しそうな面白い三邪王を前にムーヴは微笑ましく訊ねると。
「「「今すぐ」」」
ばっちコンビネーションで返答が3人からあった。
「ではいくぞ、ムーヴお前は家からでるな」
さっそくエッセは立ち上がり、ムーヴに一言伝える。言われた彼女も「分かりました」と返答をして頭を下げた。
***
村のおばさんに頼まれたアトラスは村の外に軽い毒をもつ花を刈るために出て、不在にハイゼットの三人組は町の外れまで再び移動した。
村の森に行くとミラジーノとエッセが数体のモンスターの召喚を開始。
その間にハイゼットが掌から魔力を集めて一本の剣を作り出す、どうせこの村にはまともな武器はないだろうから。
特別な力はないが、アトラスがどんなに振りまわしても壊れない頑丈さと刃こぼれをしない便利さを兼ね備えているアトラス用の剣だ。
飾りは少し控えめに、旅人がよく使うタイプにしておく。旅の後半になると勇者の剣とか大げさな物でも造って、天界の豊穣の女神アリストに授けさせよう。
ハイゼットか旦那のことで後ろめたさがあるエッセが頼めばやってくれる、きっと。それに神々にも認められた勇者っていいね。
ミラジーノとエッセが召喚したのは獣人タイプのモンスターを20体ほど呼び出した、屈強で巨体の体に顔が狼だったり熊だったりのナイスガイな奴ら。
これから「死」を与えられるとソワソワして落ち着きがない、遠足気分に浮つくモンスター(さ迷う魂たち)にミラジーノが釘を刺す。
「いいこと?絶対に人を傷つけちゃ駄目だからね。もしやったら貴方たちの魂を強制的に元に戻すから、分かった?」
モンスターの方々は頷く。せっかく狭き門から選ばれたのにまたさ迷う魂に戻るなんて真っ平ごめんだ。
彼らに未練を残させたものは既にこの世にはない、愛する人も祖国もいつの間にか過ぎ去った。だからこれから「死」を再び体験することによって追うのだ。大切なものの所へと行くために。
「さて」
ハイゼットは黒い服に似合う頑丈な旅人用のマントを作り出して自分に装備する。あとは適当に篭手や胸を覆うプレート、自分の使う大きめな剣を魔力で作りだした。
造り出した装備品を全て身につけると、角を隠しているハイゼットは客観的に旅の剣士に見える。
容姿はいらんぐらい美形過ぎるが。
続いてミラジーノはピンクの宝石がついた可愛い杖を造り、ついでにフリフリの服をチェンジ!可愛いヒラヒラが沢山ついた趣味丸出しの魔法使い風の服に変えて、可愛い魔術師に変装。
まるでどこぞのお姫様のように愛らしいが。
2人の格好を見てエッセはちょっと考えた。
とりあえずアトラスには剣を使わせるとしてハイゼットも剣を持つか…ならば我は。
地面に手をかざすと地面から大きな槍が生えてくる、槍の先端はとても巨大な刃が太陽の光りに反射して鋭くなおかつ重厚感ただよう重そうな槍をエッセは軽く持ち上げた。
そして服は2人に比べ、前線に立つ戦士として多く鎧をつける。
甲冑とはいかないが顔以外をほとんど鎧で身を包むと、大柄で鍛えられたエッセには翼と同じ赤黒い色の鎧はとても似合う。
傭兵を装っているが気品が溢れすぎて返って不自然ですが。
まあ、旅の一行としては大丈夫だろう。何となく過去に何かあった連中として他人が気になるメンバーだけど。
よしっと、ハイゼットが意気込むと大きな声でモンスター達に。
「レッツゴー!!」
と叫んだ、一斉に走り出すモンスター役の方々。目指すはアトラスの住む村へ。
暫く3人は村の方を窺う、そして村人たちの悲鳴が聞こえ始めた。
ゴメンナサイ善良な村の方たち。
心で両手を合わせて謝る3人にアトラスを呼ぶ声が上がった。よっしゃ!そろそろ俺たちの出番じゃ!!
段々とエッセが堅い性格になっていきます。初めの頃はハイゼットとそうは変わらない性格をしていたはずなんですが。
キャラの区別をつかせるためにそうなってしまったのですが、これからもそうなるでしょう。
みんなのお兄さん役になってもらいます(笑)




