土台を整えるのも一苦労
魔界の三王に力から力を授かった赤子を惜しみつつも三人は二手に別れ、ハイゼットは瞬間移動の魔法で永久中立区域に足を運ぶ、ここに暮らすのは会話の可能な精霊や妖精が暮らしている。
その中でもリーダー格のエルフの長には一目顔を見せるのが筋だろう、彼らも人間とは疎遠ではあるが同じサファリに存在しているのでサファリに魔界の住人である自分たちが入るのだ。
他人の庭に無断で荒らすなど品が問われる、それ以前に彼らは天界アルフィードの神々を崇めているから尚のこと気を使わなければならない。
かと言ってエルフを初め彼らと戦や……喧嘩になる事態にはこちらが傲慢でない限りありえない話だ。彼らは永久中立と宣言している以上、もし彼らの崇める天界と魔界が全面戦争になろうが干渉はしない。
永久に他の部族や種族には属さないと誓っているからだ、簡単な話でとても彼らは賢い。天界や魔界のどちらに加勢しても力は及ばず無事ではすまないと分かっている、最初から喧嘩には加わりません宣言に人間からは絶対に干渉されずにすむので居心地はいい。
まぁ……俺が生きている間は天界との戦なんて夢物語だろう。
人間に干渉されないかと言うと、人間は最初から信頼がないので戦に巻き込まれる可能性があるため前もって接触しないと人間の王や長に誓約書を欠かせている。
逆に人間は一部の妖精を魔界の魔物と勘違いして自分のテリトリーに入ってこないと誓わせている、上手くお互いに意見は一致した。
ただ未だに人間で一部の無法者は彼らの住処を探しているが、彼らは独自の結界を妖精や精霊の住みかに施しているので進入は稀だ。
奇跡のような話だが人間とはまだ中立を宣言してから一度も戦をしていない、ただ彼らの住む深い谷や森に人間が入り込めないだけ。
ハイゼットは話をつけるために単独でエルフが住む「緑の丘」へ向かった。
それがエルフの長が住む森だから、ハイゼットは緑の丘入り口に着くと魔法で自分の服を正装に瞬時に変えて森の中へ進んでいく。
といっても、普段の黒い服より布の量が増えてボリューム感と綺麗な刺繍とかプラスされているだけだけど、鬼畜秘書でもある俺のお目付け役は普段からこの服を着用しろって言うが、俺は断じて断っている。
話はそれたが、ハイゼットは深い森の中で人が中で住めそうなくらい大きな木を見上げた。
大きな一つの木の前に立つと手をかざし魔力をおくる、すると木の根が自動で動き始めてハイゼットを迎え入れた。
ハイゼットが木の根で出来た門をくぐれば中は信じられないほど大きな街が現われる。
目の前には複雑に立ち並ぶ雑貨店に人が祭りのように賑やかに歩いていく、活気がハイゼットには全身で感じられた。
別に魔界も活気のある街は沢山あるがここの活気……煩さは格別である、なんせ朝の魚市場のような声があちらこちらで飛び交っていた。
毎日全力で仕事をして全力で遊ぶ、ここはそういう場所だ。
ゆえに全力で酒に酔っ払っているドワーフがふらふらと千鳥足で壁にぶつかっていたのを横目でハイゼットは歩く、街の活気に促されて、買い物の一つでもしたい気分だけどそんな事をしたらここに居ない2人になんていわれるか。
緑の丘はレンガ造りの家は多く季節のことなど考えていない造り、何故ならここ「緑の丘」は常に春の陽気だからいつも気持ちのいい風が流れていく。
ここは正直言ってハイゼットは天界アルフィードよりも好きだ、絶え間なく動き人間の街に似ていた。
種族も多種多様に存在している、小人族に精霊族と巨人族…まだまだいるよ。人間から怪物と間違われる妖精ももちろん、ここは元々エフル族が作った町なのでもっとも多くいる妖精はエルフだ。
エフルは皆美しく耳が尖がっり、細身の長身のエフル族が普通に歩いていると、必ずすれ違う。
1人のエルフ族の女性がハイゼットを見て手を振った、ハイゼットも笑顔で手を振り返す。
緑の丘……妖精や精霊にとって魔族は珍獣扱いをされるのが常、なのでジロジロ見られても平然と歩けばいい。もっとも自分が人間だったならば彼らは悲鳴をあげて逃げるだろう。
彼らにとっての人間の位置づけはそんな感じ、街で一番のっぽの建物を目印に街の中心に向かってハイゼットは1人消えた。
***
その頃ハイゼットをエルフの長が住む「緑の丘」へ向かわせたミラジーノとエッセは人気の居ない鬱蒼とした葉のついていない木々が立ち並ぶ森を選んで歩いていく。
ここはかつて人間が魔族と契約をして化け物となった一人の男が荒らしまくった島だった、この島に名前はない。
普通の人間ならここの瘴気によって体調を崩すのだが自分たちには関係ない、そして力を授けたあの赤子も耐久を持たせたので問題はないからここに選んだ。
まず第一の条件として他の人間が近づかない事、人間は魔族の城や塔にありもしない不老不死の薬だの秘宝だの書物なんて作り上げて入ってこられたら困る。
そして第二の条件にこの瘴気は今から集める不安定な魂を引き寄せるにはいい立地条件だからだ。
金髪のピンクフリフリ系ゴスロリのミラジーノが意識を集中させてサファリに漂うさまよう魂を引寄せたようと呪文のような聞き取れない言葉の羅列を呟く。
するとミラジーノの周囲はあっという間に霊魂が集まってきた、ミラジーノが呪文のように呟いていたのは彼らをスカウトするためだ。
内容は「集まれ!やる気のあるさまよう魂!!元気に今日も天国にも地獄にも行けずに漂っていますか?もう自分が何者か分からないほど居続けるのは嫌だ!という貴方にビックなお知らせ、なんと地獄の冥王ミラジーノちゃんが君のやる気を待っている!!」
応募資格:長くさ迷って自分で進めない魂 優遇:戦の経験のある戦死の魂 待遇:一時の仮初の肉体を得られます。 報酬:もう一度死ねます。
その条件に見合うほどの何千ともの数の霊魂がミラジーノを覆った、それを吟味しながら自分が求める魂を見極める。
報酬が「死」とは不思議に思うかもしれないが彼らは長く死を拒み、天界にも魔界も拒み最後には何処にも行けなくなった哀れな魂だった。
もう一度死を体験することによって行きそびれた自分に相応しい場所にいける。
10年は死を拒んでも悠長に構えてられるがそれが百年、果ては千年も経ってみると意識がありただひたすら全ての世界に関わらなくあり続けるのは人の精神では苦痛でしかない。
勿論彼らに人権がないとは言わない、だから志願兵を募ったのだ。無理やりの召喚は人間のようにしない。
しかも仮初の肉体には痛みを取り除いているのでご安心を、彼らは早く肉体と死が欲しいのかソワソワしていて落ち着きがない。
その霊魂を泥で作ったモンスターに入れて体を動かしてもらう計画、自分たちの目的のためとは言えど魔界の動物を殺さなくてもいいし、さ迷う魂は今度こそ死ねる。
ついでに世界から多少ではあるがさ迷う魂を浄化できて瘴気の量も微弱ながら減らせるときたもんだ。
うんうん、とミラジーノは満足そうに頷くと後ろで背中を向けて立っているエッセに顔を向けて様子を窺った。
エッセは目をつぶって超大型瞬間移動をしている、瞬間移動をしているのはエッセではなく……。
エッセの目の前に巨大で立派な城が現われた、さ迷う霊魂が慌てて城のないほうへ避けた。
「もっといい物件なかったの?悪趣味」
ミラジーノは城を見上げて不満そうに呟く。
「文句を言わないでくれ、丁度よくオークションに出た建物がこの城しかなったんだ」
魔力で作り上げた半透明の姿をエッセは心だけ魔界へ送り、勇者を迎え撃つ魔王(ハイゼットじゃないよ?)に相応しい舞台。
旅のクライマックスを飾る悪の化身の城なり塔なり探していたら、偶然にもとっくの昔に血筋の途絶えた貴族が住んでいた古い城が魔界のオークションで出されていたのでキタコレ!とばかり最後の金額の三倍の値段でもぎ取るように落札してサファリへ召喚した。
「可愛くない~」
腰に手を当ててミラジーノは不満を示した。それにエッセは眉を顰め。
「お前の趣味を反映してみろ?フリフリのリボンをつけた半魚人か、兜がミニハットのガイコツ戦士が出てきそうな城になる」
「可愛いじゃない?」
やれやれとため息とつくエッセにミラジーノは不思議そうな顔をした。可愛いのは正義だ、彼女にとっては。
「可愛さは他の分野で求めてくれ、ハイゼットが怒って城ごと燃やすぞ?あの男は我以上に人間の描く魔族像にこだわる奴だからな」
エッセはある意味ミラジーノ以上に子供っぽい所がハイゼットにはあると思っている。
そのハイゼットは上手くエルフの長にサファリで行動する許しを得ただろうかと1人で思案した。天界よりエルフの長のほうが厄介だ。敵対心はないが中立地域にいる者とは昔から「聞かない、知らない、関わらない」の姿勢で暮らしてきたのであちらが何かの条件を出してくる可能性もある。
我が行けばよかったかな?と一瞬思ったが、いやいや魔界の兵隊アリの役目を担っている自分が行けば返って警戒されるな……と1人で結論つけ城の内部の改装をしようと中に入ろうとしたが、ミラジーノの楽しそうな声に振り返ってみた。
そこには泥をベースに魔力によって擬似生命体にされたピンクのクマたんを作っていた。
熊を模ったモンスターのはずが思わずクマたんと呼びたくなるヌイグルミのようなクマをつくっていたので、無言のままエッセは魔力を溜めてクマたんに向けて放つと簡単にクマたんは吹っ飛び元の泥になった。
「何すんのよ!!!?」
当然のように抗議してくるミラジーノに呆れた視線を送ったエッセは、無言で一冊の本を取り出すと文句を言ってくるミラジーノの手に乗せた。
本のタイトルはザッ恐ろしい魔界の生物、間違ってもミラジーノが好んで読む本の部類ではない。
パラパラとミラジーノがページをめくるとウゲェなんて言葉がぴったりな顔をした、それもそのはず其れは人間の神官が魔界をいかにコケおろそうとして描いた「魔界なんてロクでもネェぜ!!こんなのうようよいるんだってよ~マジキモイ」という内容の本だった。
「うわ~なんで目玉だけ体にビッシリ生えているのよ?足の裏なんて万年目潰し…寝転んでも目潰しになるよね?どんなマゾなわけ」
気持ち悪そうな顔をしているミラジーノを置いて城へ向かう。餞別に一言だけおいておこう。
「姿はその通りに作れ、弱そうな雑魚から中ボスまでな」
ええええ~何よ~気持ち悪~い。
なんてミラジーノの声をバック音楽にしてエッセは今度こそ内装を整えるために中へ入っていく。
***
一方ハイゼットはエルフの長である男と対面して、賓客室に呼ばれ緑の丘で人気な紅茶をすする。
目の前の男は難しそうな顔をしてハイゼットの動向を見守っていた。
男はエルフによく見られる切れ目の瞳に細長い印象を与える長身で人と違う耳の形をしている昔からいるタイプのエルフだ、歳は中年だがエルフは若づくりな容姿なので老けている顔ではないのだが疲れているのか疲労が溜まっている顔をして、その訳は直ぐに分かった。
ハイゼットは紅茶のティーカップをソーサに戻してやや強く睨む。
「こう言っては侮辱になるだろうが……たかがエルフ如きが俺に条件をつける気か?」
エルフの長は奥歯を噛む。立場はお互い干渉しないと決めた間柄だったがサファリの滞在を許し、必要とあらば手助けをする条件として一人の女の救出を魔王のハイゼットにだしてきた。
ハイゼットは魔界の王であり自分の何倍も生きてきた高貴な存在だ、いずれ魔界の三王から三神になる人物に対して対等条件をだしてきたのは挑戦に値する意味は分かっている。
サファリの一部の部族の長と魔界ソニカ全体の柱である王、それは天と地の差さ。
だが、皮肉なことに眼前の魔王は女を助けられるのは緑の丘からでないエルフの長にとって唯一の助けだった。
冷たい汗を流すエルフの長をみつつ、内心ハイゼットはやったね~なんて思っていた。
日ごろ交流がないエフル族に貸しを作れるし一人の女くらい助け出すのは簡単な条件だ。これ以上注文されないようにガンをつけただけで別に其れぐらいならお安い御用の意気込みだった。
「まぁ…いいだろう、その女はどんな女だ?」
仕方なくの姿勢を崩さずに仕方なしの口調で問うと、ホッとしたエルフの長が説明を続けた。
「人間の男に惑わされ自らこの森を去った愚かな娘、ルーテシアという私の一人娘です」
案外面倒な依頼になったと内心ハイゼットは舌打ちをする。
「まさか……結晶になってはないだろうな?」
「そのまさかです。ルーテシアの存在をどんなに探ろうとしても欠片も感じられませんでした」
結晶化というのはエフルが酷く悲しみに陥ると、自己の保全のために体を水晶に変えてしまう現象だ。
そして人間の間には信じられない値段をつけて闇市場で売り買する、エフルが古い時代人間と隣人で暮らしていた頃からわざと惚れさせて言葉にも出来ない酷い仕打ちをすると若い女性のエルフは結晶化させ、売る事件が多発したのも永久中立の宣言をした原因の一つだ。
エフル族にとって愛は神聖で穢れのない想い、特に異性に向けての情愛は尊い。
それを逆手にとって死にたいくらいに追い詰める。酷い話だ。
結晶化をして人間の手を渡っているよりも問題は心を閉じ込めているので、魔力で探そうとしても反応のないのが面倒だ。
本来エルフは自分の集落からでない、エルフの長にもなると尚更のこと掟に縛られる。探したくても探しにいけないのだろう。
魔力をつかって探すのは容易いが、それが不可能であるならば自分の目と足で探さなければならい。
これも勇者として赤子を導く試練としてハイゼットは一つ息を吐き言った。
「その申し出……受け入れよう」
深々とエルフの長は頭を下げる、本当は神以外には頭を下げないエルフの長の姿に切実な思いを感じる。
更新が遅くなりました、其れとこれからは今までのように時間が取れないので更に更新が遅くなりますが出来るだけアップしたいです。




