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船旅

 

 


 「貴女のお姉さんが誘拐されたのはいつ頃?」


 ミラジーノがサニーにお茶を差し出しつつ、訪ねる。


 美しい直線を描きながらめり込んだ杖をハイゼットの横腹から外し、後ろにいたアトラスとエッセが要点だけを何も知らないミラジーノとシビリアンに経緯を簡単に説明した。


 俺の言葉は通じないのに、アトラスとエッセならアッサリ認めやがんの!!


 やっと誤解が解けたハイゼットはミラジーノに対して当然の権利として謝罪を要求したが、「アンタの日頃の行ないが悪いんでしょう!」っと顔を背けてお終い。


 とことん追求してやる構えだったが、エッセの咳払いでハイゼットは不貞腐れた顔でイスにドカッと座りミラジーノを睨む。


 悲しいかな、この理不尽さ溢れる扱いにも最近やたらめったら多くなってきて慣れた。そして誰も俺の不運に心配をしてくれる者、最終的には同情すら向けてくれない。


 本当に泣くぞ俺は!!


 魔王が不幸体質なのは如何なものだ?きっと彼の神(母親)は我の子ハイゼットが女性に魅力ある息子に育ってくれて嬉しいであろう、本人にとってはミラジーノの癇癪を体で受け止める被害者その一にしか思ってない。


 いくらハイゼットが女性に関しての運がなかろうが、事件解決に意欲を燃やすアトラスには関係はなくサニーの言葉に耳を傾けている。


 余計な考えをハイゼットは1人だけで考える。


 ミラジーノの質問にサニーはお茶を受け取り、口を開くので意識をそちらに向ける。


 「姉が攫われたのは二週間前です、姉が攫われた以降にも夜中に女性の失踪が続きまして……私は姉の手がかりがあるんじゃないかと単独で街の見回りをしてました」

 「無茶をするな」


 ハイゼットはサニーに呆れたように呟く、サニーは申し訳なさそうに俯いた。アトラスが気付いたから良かったものを、実際は自分も誘拐されそうだった。


 姉との再会がお互い薄暗い鉄格子の中なんて、感動はできないだろう。


 何を目的にサニーの姉、いや処女の女を攫ったのかは分からないが。大体は予想できる。


 ハイゼットはサニーを一生懸命励ましているアトラスの横顔をみつめつつ、静かに考える。


 大富豪の娘1人であったら、身代金目的か何か個人的な恨みなど簡単に想像がつく。


 しかし、ほぼ無差別に若い女性が何人も失踪しているのから推測するに、それではない。


 闇の奴隷市場の人買いに売るのが目的ならば、女と一緒に若い男も攫ってもおかしくない。


 奴隷は使い捨ての働き蟻、一般的に一番辛くて危険で厳しい仕事をさせる。


 男の方が丈夫で、わざわざ女性にやらせるより効率もいい。

 

 単純に労働目的なら弱い女よりも若い男のほうが、売り手も買い手もあるだろう。


 しかし攫った女性達を性奴隷にして売る、なら話は通る。処女なら付加値打ちもつく。


 全く人間というのは、1人のつがいを生涯何故愛せないのか?


 魔族のハイゼットには理解ができない。


 だが……と心で呟く。エッセの魔力で強制的に事情を吐かせた男の言葉が気に掛かかりだす。


 あのゲス野郎どもを雇った主の強い要望はシスター、性癖が聖女を汚すのを喜びとしている者か?わざわざ隣の国まで密入国してまで?


 ハイゼットはミラジーノが用意してくれたお茶を一口飲む。


 性奴隷として女性を用意するだけだったら、自国の女でも間に合う。なんせ隣国ディアリスは大きな国だ、その分人口の数も田舎の国オッティとは比べられないほど差がある。


 地方の口減らしのために、残酷な話ではあるが数枚の金貨で実の娘を売るという現実もあった。しかも現在は戦争の真っ只中。

 

 と言う事は、自分の国で攫うには攫える女性の数が少なすぎて警戒心の薄い隣国へきた、派手にやると自分の身が危ないから。


 ハイゼットは大きくため息をついた。


 攫われた姉を取り戻すにはどうしたらいいのか、アトラスがエッセに意見を求めている途中の事だったので皆の注目が心あらずのハイゼットに集る。


 「わりぃ、続けてくれ」


 苦笑いをして、手を振る彼からは直ぐに皆の視線は離れた。


 頭の中でハイゼットは一つのストーリーが組み立てられる、恐らく自分の考えは間違ってない。


 何故ならば純潔の女性、徳のある女、大量の女。この三つのパターンは過去数百年の間に報告書で嫌というほど読んだ。


 ………魔族召喚の儀式のための生贄。


 攫われた女性たちには悪いが、まだ奴隷の方が幾分ましかもしれない、人間は何を思ったのか残酷な殺し方で大量の血と魂を魔族に捧げ魔族と契約をして利益を得ようとする。


 誘拐にしても、それならば納得がいく。例え上級貴族だろうがサファリの人々が信仰している主神の敵である魔族を崇拝しているなんて、国王や皇帝でも許されない。


 何者であろうが、国民の信頼を根本的に覆す大失態に必ずなる。


 自国の娘では足がつきやすい。


 その点、オッティ国ならば多少何かあってもリスクは少なく、望み放題の女を攫って自国へ連れて来れるだろう。

 

 そして攫う人数を無造作に選べるならば、黒幕のゲスも金をかけて外道どもを雇って国境など飛び越えさせるのは苦ではない。


 中でもより魔族が好む(デタラメ)といわれる神に仕え、人徳を積み清らかな純潔の女も多く手に入いる。


 まさに格好の的がシスター……サニーの姉というわけだ。


 視線は合わせずに、ハイゼットはエッセに念話で話しかける。


 ≪おい、エッセ次の新月はいつだ?≫

 ≪…?……なるほど、そう言う事か。確かあと一週間後と記憶している≫

 

 エッセには次の新月がいつごろなのか訪ねただけで、儀式と純潔の女の関連を察してくれた。


 魔族召喚には満月だったり新月だったり裏づけ知らねぇけど、決まった日がある。一昔(数十年前)は満月だったのに最近は新月に魔族召喚を行う馬鹿が多い。


 だからきっと新月の日までは、真っ先に生贄候補にあがるシスターのお姉さんも無事のはず。そうであってくれ。

 

 サニーを思うと祈らずにはいられない。ちゃんと言っておくが好きになったとか、邪まな感情じゃないぞ?


 魔族は一度目をかけたものや、情が移ったものにはトコトン面倒をみちゃう習性がある。サニーもアトラスがきっかけにしても、もう名前と事情を知ったのからには全力で彼女のお姉さんを救出したいだけだ。


 兎に角、これで大体の目星がついた。攫ったヤツの主、魔族との契約を契りたい者は自分の私欲のために人を何人も動かせる金を持ち、攫った女性達を監禁する場所を所有している人物。


 行って調べてみないと何とも確信は持っていけないが、多くあるパターンは貴族か裏社会を牛耳っている人間だろうか。


 どちらにしても、まさか最初のアトラスの冒険が自分達のもっとも頭の痛い「魔族との契約を力づくで結ぶ人間」に直面するなんて、悪いジョークもあったもんだ。


 ハイゼットとエッセは同時にため息をついて、周囲の人たちは頭を傾けた。


***


 晴天の太陽の下で1人の一般的から見たら可愛らしい印象を持つ素朴な少女サニーと、明らかに爽やか美男子のアトラスが街の外れで別れを惜しむ。


 「お礼も何もできませんが……どうか姉さんをよろしくお願いします」

 「まかせて、必ずオッティ国にお姉さんや攫われた女性達を連れて帰るからね」


 ドンッと力強く自分の胸を握りこぶしで叩く、まことに男らしいぜ……。一体人生のかなで本物の男が同じ動作をやれるだろう?早々お目にかかれないぞ。


 その田舎臭さもアトラスがやれば、何とも頼もしい。


 それを遠巻きで眺めるハイゼット、本当に男と女の性別を間違えて生まれてしまったな?いや別に嫌味ではなくて生まれ持った気質が男前だ。


 だが、今は愛し子の勇姿を目に焼き付けておこう。馬鹿でも可愛い俺達の愛し子。


 俺達の悲願、人間達が住むサファリと魔界ソニカを離別できたら、どんな手を使っても何としてでも幸せな暮らしを約束するぞ。


 後ろからアトラスの背中を、マジで親の心情全開……傍から見たら気持ち悪く眺めるハイゼットの肩に止まっているシビリアンは面白くない顔をしたのをハイゼットは知らない。


 サニーのお姉さんが攫われた隣国までは船で移動する事になった、危険も時間も減らせるならば妥当な判断をしたまで。オッティ国と隣国ディアリスの間には親交を拒む勢いで山脈がある。


 そこには山脈が国境の壁と間違われるほどに、綺麗に並んでいた。この山を登るのは弱くない三邪王とアトラスだけど主な移動手段が馬車を引く馬だ。


 お馬ちゃんはここでお別れとは行かない、国王から貰った馬は使い捨てではないのだから。


 一緒についていって特に何かが出来る訳じゃないサニーはここの街に残ってもらい、お姉さんが帰ってくるまで待つ。


 確証もないアトラスたちに全てを託して、ひたすら神に祈り待ち続けるしか他に方法がない。


 辛いだろうが、そうしてもらえるのが一番安心で安全だ。田舎の国であろうと女性が攫われる事件が多発したのを直接国王に一筆書いたので、街の警護を強化してもらえる。


 ハイゼット達は初の試練を与えたサニーと別れ、船がある港町まで馬車で半日ゆれて着く。其処から船は更に半日オッティ国と軍事国ディアリスに渡ればいい。


 国の始まりは慎ましい生活と苦難を望んだ修道院の集り。


 生活の根底に自給自足が国民に根付き、ぜいたく品などは無いものは「仕方ない」精神があるので、オッティ国は余り貿易が多くない。


 貿易をしている相手国のディアリスにとって、広く貿易をするメリットもオッティにはないので別に困りはしない。


 のんびりとしたオッティ国を征服してまで見返りもなし、のほほん気質の国民を兵士にも使えない。


 それにサファリ全土で信仰している神々を崇める修道院の集まりだった国に、わざわざ国を跨ぐ山脈を越えてまで征服した所で不名誉な罵倒しか周囲の国々に投げられないだろう、そもそも自ら不評をばら撒いて何の得がある?


 しかし、新しい情報や技術のためにオッティ国は貿易を続けて、対するディアリスは端整込めて作られた伝統芸品や穀物を土産とするだけ、その船に乗客としてのせて貰う。


 船はディアリスから来た船だ、酒場で船長らしき男にエッセが前の日の夜そっと近づき、『明日の出向は?』と訪ねる。


 それに『……夜明け』呟くように船長が囁くと、エッセの顔をチラリと見ただけでそっぽを向く。


 しかしテーブルの下から船長は手を伸ばすので、エッセが持っていたこの大陸で各国共通に使える紙をだして視線を合わせずに渡した。


 国と国では通貨が違う、それに大きな商売をしている者は大量のコインを持って帰るのは大変だ。


 だから紙にかかれた金額を下ろしてくれる金融機関に持っていけば、換金して船長の懐に入る仕組み。


 これは国王から貰った旅賃の一つ、細かく金額が分けてあるからこの程度なくなっても痛くも痒くもない。


 つまりエッセはそれを握らせて、ディアリス国への密入を頼んだ。船長は分かっていて手を伸ばしたので商談成立。


 明日の夜明け前に船長が乗っている船に潜り込めば、軍国ディアリスへいける。


 普通に乗ってディアリスへ行く事も可能だ、しかし平和ボケした田舎国であろうとアチラはそれなりに警戒していると考えていい。


 それにオッティ国からディアリス国へ渡る人物は少なく、正式に国境を越えると足跡を残してしまう。


 攫われた女性達の命に関わるので、近づけられる所までは隠密で行動しなければ。


 魔族としてハイゼットが解決に腰を上げれば早いが、人間に化けている今は無理な話。


 ニワトリが朝を知らせに鳴くより早く、ハイゼット達は昨日の晩に賄賂を渡した船長の船へ無断で乗り込み出向するまでは小さく荷物の陰に隠れる。


 馬二頭と馬車は倉庫に陸につくまで倉庫で大人しくしてもらい、いざ出向してオッティ国最後の港町が見えなくなったら、ハイゼットを含め全員が堂々として見晴らしのいい所へ出た。


 船は蒸気、軍国ディアリスから沢山取れるから豊富でよく蒸気の技術は世界でも三位の成績。


 ハイゼットは遅いのらりくらりの速度と潮風に目を瞑る。


 船は船長を含め数十名の船乗りが動かすのだけれど誰も、ハイゼットの存在を気にはしてない。


 まさかとは思うが、逆に女達を攫うために密入した男どもコイツらが運んできたんじゃないだろうな?それなら因果すぎる。


 問い詰めても証拠もない、口も多分割らない。時間の無駄、それよりも今は潮風を楽しもう。


 「わー気持ちいいねー……僕は海を見るのも船で旅をするのも始めだよう」


 珍しそうに海を眺めるアトラス、ハイゼットはアトラスの隣に歩きアトラスと同じ方向を見た。


 モノ珍しさから今のアトラスには海そのものが輝いて見える。そりゃオッティ国でもやや真ん中の位置の村で暮らしていたのだ。海を見る機会はそうはない。


 しかし一ヶ月も海の上にいると流石に飽きる、明日の晩には目的地に着く距離でよかった。


 「魔王ストーリアも綺麗な世界をみれば、きっと悪さを止めるだろうなぁ」


 ぽつりとアトラスが呟く。それを聞いてハイゼットは肩をすくめた。


 「どうだろうな?相手は魔王だ、心があるかどうかも分からないぜ?」

 「大丈夫、きっと心はあるよ……なくしても僕が一緒に育ててあげる」


 ニッコリと邪の無い笑み。これが他の誰かだったら、何だ?その上から視線の施してやる発言は?なんて反発心を持ってしまうがアトラスには感じない。

 

 寧ろ。


 「無い無い、期待するほうが無駄だ」


 ハイゼットの口からワザとアトラスからストーリア、無意識に変装している自分を遠ざける発言をした自分に内心驚く。


 別に変装の魔王の俺にとって、アトラスに何て想われようがハイゼットには関係ない。


 まるで妹の初恋の相手を悪く言ってしまう兄貴になったようだ。


 「ううん、僕は信じる。だって僕は彼のお嫁さんだもん」


 無垢と表現したらいいのか、馬鹿のほうが合っているのだろうか?兎に角そんなアトラスにハイゼットはむっとする。


 「俺だってお前より強いぞ?何も魔王だけが……」


 言いかけてハタリとハイゼットは止まる、アトラスより強いから……どうしたって?


 アトラスの顔を見ると、アトラスは良くわかってない顔をして笑っている、言った本人は。


 「よっ酔った!船酔いだぁ船内にもどる!!」


 早足でハイゼットは船内に戻る途中で躓いてこけた、自分の足に絡まって。


 顔から甲板にぶつけた責なのか顔は真っ赤だったのは幸い誰にも目撃されてない。


こんにちは、後書きはちょっと文章を修正してから書いてますので行き成り出現したって思った方もいらっしゃるかも。

今回のは脱字、誤字がひどかったです。もう読み返してどれだけ疲れと眠気がでていたのか窺えるってもんですよ?


さて次はお隣の国へ行っちゃいます、そのまま大人しく事件が解決するわけがありません、どうぞお楽しみに。

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