表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/20

攫われた姉


 普通に働き暮らしている人ならばもう就寝として、床につく時間。


 その暗闇が覆う静かな街に、数人の男が倒れる中で脂汗を流した男が必死に自分の口を押さえようとするが、無駄な努力にしかならずベラベラと機密を喋っていく。


 それをハイゼットとアトラス、後から乱入したエッセと攫われかけていた女性が見つめている。


 ハイゼットが、人攫いを白状した男の襟をもって更に問い詰める。エッセの魔法によって強制的に喋らされているのは分かっているが、苛立ちは抑えきれない。


 「誰に雇われた?そして何処へ女を連れて行った?」


 静かな音量なのだけど、いつものハイゼットよりも低音で静かに怒りが漂う声に人攫いの男は震え上がった。


 「ッ!……誰かは知らない!俺達は仲介を通して雇われた盗賊だぁぁ!!女を攫ってディアリスに連れて行けば大金が貰える!!」


 懸命に自分の口を抑えているが、エッセの魔力から出された魔法によって次々と自分たちの悪事を言葉にしてしまう恐怖に、顔を青くさせて男は失神寸前だった。


 「つまり、こいつらはオッティ国の女を攫い隣国ディアリスに誘拐していた…って所だな」


 時間は掛かるが、平和ボケをしているオッティ国なら警備も警戒心も薄い。リスクを負ってディアリス国で女を攫うよりも、ずっと沢山の女を連れて帰れる。


 そう呟いてエッセは口を押さえて驚いている女性に、視線を向けた。


 「きっとディアリス国に姉は居るだろう…」


 死体であっても、と流石にこれは心でエッセは留める。


 隣国ディアリスは巨大な軍力を中心とした血気盛んな国、ただいま仲の悪い隣の国と戦争している最中。誰が、何の目的があって処女の女性を攫っているのかは、地べたに転がっている男どもは知らないだろう。

 

 黒幕の直属の部下ならともかく、多少の金で雇われた使い捨ての駒でしかない。

 

 失敗すれば次を雇えばいい、その程度。それらに詳しい情報を与えるわけが無い、飼い主が犬に投げたボールを取ってこさせるのに説明はしないのと同じだ。


 「ゆるせない……!」


 アトラスは信じられないように、地べたに這い蹲る男を睨む。


 アトラスの世界の常識に、男達の犯行など存在しないだろう。一歩オッティを出れば、いかにここが楽園かがわかる。


 ある意味異常なほどの平和と融和の国オッティで育ったアトラスには、天と地がひっくり返るような衝撃だった。


 「こんなの許せない!」


 分かりやすく男に対して怒りを露わにするアトラスに、ハイゼットは言う。


 「お前は知らないだろうが、この国を一歩でればこの男のように他人の命よりも金なんて珍しくない」

 「そんな……」


 ハイゼットをアトラスは凝視して、視線を足元へ落とした。


 「で、お嬢さん。どうする?君の手には負えない事件のようだ」


 今度は俯くアトラスを置いて、ハイゼットが女性に声をかける。


 「兵士に通報すれば…」


 震えている女性は、震えた声で兵士に通報して取り締まってもらえるように頼むという前に。


 エッセがハイゼットの代わりに、口を開いた。


 「隣国は大国、このような田舎の国の話など聞くものか。ゆるぎない証拠があっても状況は変わらないだろう」


 平和な国なために、木に登った猫の救助は出来ても大国を相手にどうこうできる国ではない。


 そもそも大国ディアリスとは山脈を挟んだ遠い国なので、交流も少なく自足自給で間に合うオッティ国とは、貿易すらまともにやっていない。


 エッセが言葉の後ろで言いたいのは、姉ともども攫われた女性の安否どころか存在を確認する事さえ絶望的といっている。


 平凡な人間の女性は、必死に自分に言い聞かせていた「大丈夫、姉さんは帰ってくる」という呪文を現実の壁に壊されて、目に涙を溜めて今にも泣きそうになった。


 それを、アトラスは俯いた顔を上げて女性を見る。


 単純明快、その顔は僕がやらねば誰がやる!って言わんばかりだ。


 ハイセットとエッセは一瞬だけ視線を合わせて、アトラスが攫われた女性たちを救助する気だなって。共感しあった。


 正直、魔王であるハイゼットと覇王のエッセ、いやハイゼット1人でも簡単に解決できる事件である。


 軍国ディアリスに単独で行き、めぼしい人物から情報など魔力を使って強制的に聞き出し、事件現場に殴りこみに行けば攫われた女性を開放してやればいい。恐らく半日も時間は掛かるまい。


 誰も死者は勿論、誰にも負傷者すら出さずに終わらせる自信すらある。


 しかし、目の前で女性が攫われるのを助ける事はハイゼットがしても、事件の真相や解決をハイゼット自身が1人で行動してやる事はない。


 それは彼が魔族だからだ、人間を気まぐれで助け続けていれば人間はハイゼットのような存在を頼る。ハイゼットが人間ならば問題はないが、人間を天から見守り時に手助けをするのは天界の神々の役目。

 

 天界の神々も、人間が気づかない所でそっと耳元に対処の助力を囁く、届くか届かないか関係なく。そして人間の領域を超えた問題が起きた際には魔族の神である、ハイゼットの親達と相談して対処するくらいだ。


 天界の神々さえ表立って人間を助けないのに、何故種族の中で一番縁が遠い魔族が人間を助ける必要はない。


 ハイゼットがどんなに人間相手に同情しても、踏み込んではいけない立場があるので、今までは出来るだけ人間と関わらないように生きてきた。


 一度堕落の味を味わった人間の末路は惨めだと、何度も魔界の三柱の1人である自分の親から聞かされたものだ。


 基本的には天界と魔界に比べ不安定な世界な、人間達が住むサファリの再構築のために破壊神がお掃除しに訪れるしか、人間には直接手を下さないのが常なのだけれども、今はアトラスと一緒にお姫様の救助(そのお姫様はミラジーノとお喋りしていますが)の命を受けた旅人の1人。


 アトラスが大国ディアリスに攫われた女性を救助するのならば、ハイゼットとエッセは協力する。


 個人的にも、気持ちのいい事件ではないのも事実。更にこうやって攫われた関係者を前にすると、尚の事。


 人間が思い描く魔族とはかけ離れたイメージの魔王と覇王は、今回の事件に関わるのに異論はない。


 その上、きっとアトラスの魂を鍛えるのに丁度いい事件かもしれない。攫われた女性たちには不謹慎なので口が裂けてもいえないが。


 だから、アトラスが言わんとすること2人は止めないな?と確認しあったのだ。


 「僕が君のお姉さんを助けてあげる!」


 話は戻り、アトラスが曇りの無い無垢な顔で口を開いた。


 拳を固めて、真っ直ぐな眼差しで女性を見つめる。女性はまさかそんな宣言をされるとは思ってもみずに、アトラスをビックリした顔で見つめた。


 しかし、女性にしてみれば闇に差し込む一筋の光りだろう。戸惑いの中にも希望の輝きが瞳に宿っていく。


 「……とにかく、転がっている奴らを兵士に突き出して詳しい話を聞こう」


 いつまでも暗闇の街の隅でつっ立っていても事件の進展は無いと思う、姉が攫われた女性の名前すら知らない。


 旅の仲間で、宿に残した魔術師の変装している冥王ミラジーノとお姫様妖精のシビリアンにも、内容を一度に伝えるには女性の口から説明してもらった方が手っ取り早いのもある。


 「じゃあ、僕達の宿に来てもらってもいい?」


 窺うようにアトラスが女性に尋ねると、女性は直ぐに頷く。

 

 あれから、他国へ純潔の女性たちを誘拐していた男どもは兵士に連れて行って渡した、甘い処罰では済まされないようにエッセの提案でアトラスは王様に一筆を書き、兵士にしょっ引いたのできっちり罪は償えるだろう。


 女性たちが誘拐されているという事実、一応は国の秩序を守っている兵士達には伝えたが期待はしていない。


 その道中、ハイゼットたちが今日をベットで過ごすために泊まる宿に帰る途中、無言で宿に向かうのもアレなので姉が攫われた女性の簡単な自己紹介を3人は受けた。


 名前はサニーで姉はルキノ、姉のルキノは修道院に入り生涯を神に身を捧げるためにシスターに、妹のサニーは修道院の近くにある実家で暮らしていたそうだ。


 生まれてから変わりない平凡な暮らしを望んだサニーは、時々ルキノの慈善活動を手伝いながら幸せに暮らしていたのだけど、最近人攫いが横行しているという噂が遠い町からたち不安な日々を暮らしていた。


 最初は遠くの町から伝わる噂だったのだけれど、それがドンドン自分達の暮らす町に近づくにつれて不安から恐怖に代わり敏感になっていった。


 姉が暮らす修道院は古く、街の人たちが眠る墓を守る役割もあったので街から外れ夜になると人の気配がしない。


 しかも、修道院は年老いた神父と姉の2人暮らしだったのでサニーはいつも気が気じゃなかった。本当はもっと沢山の修道院には天界の神々を崇拝する修道士や修道女はいた。


 だがアトラスの両親をも襲った病の大流行で殆どが病にかかってしまい、その病はただいま戦争の真っ只中にある大国ディアリスからのクスリで脅威は去っても、それまでに沢山の尊い命が消え街も人が随分と少なくなった。


 特に修道院の人々は献身的に病の治療に奔放して、逆に感染する人が続出してしまった。一番若いルキノは神父の世話を仰せつかり、流行り病の患者との接触がなく感染は免れたのだ。


 因みに、アトラスたちが攫われそうになったサニーを助けた場所の教会は人々が集り、時に災害時には避難所として建てられた集会所なので普段はそこで生活はしてない。


 街の真ん中の教会ならば安全だったのかもしれなかったが、墓地は街の真ん中には造れない。それが災いとなり修道院に住む若いシスターのルキノがディアリス国に売る賊どもの標的になったのだという。


 アトラスも蔓延した病で両親を幼い頃に失ったので、サニーの辛さは痛いほど分かる。


 一通り掻い摘んで、説明が終わった頃には宿の前。結構な深夜になってきたけど、まだミラジーノとシビリアンは寝ていない、この時間に活発な2人が寝るわけが無い。


 どちらかと言うと、ハイゼットのほうがミラジーノとシビリアンより早寝だ。


 ハイゼットが宿を見上げて上を見る、案の定アトラスとミラジーノが借りた部屋に明かりが漏れていた。


 確実に起きている、しかし万が一に寝ているかどうか確かめないと、彼女の睡眠を邪魔するのは死を意味する。


 アトラスが借りた部屋の同部屋であるミラジーノの所へハイゼットはサニーをエスコートしながら連れて行った。


 女性に関しての運に関して悪夢としか思えないほど、ここの所さっぱり無いハイゼットだったが紳士的に女性には優しく、を叩き込まれた体が動いてしまう。


 例えば階段で自分が先に先導して直ぐ後ろにいるサニーが、明かりの少ない安い宿の階段に躓いたら後ろのアトラスよりも速く反応し、サニーの腰に腕を差込ささえちゃう。

 

 さて、もう一度申そう。ここの所、ハイゼットは色々運がない。


 特別に女性に関しての運が乏しいと思える。ミラジーノに魔力が凝縮された魔法を放たれたり、攫ったお姫様は当初の目的と大きくずれて自分に惚れたり、果ては見知らぬ幼女に子作り宣言をうけたりとだ!


 そして、女性に関しての運がない事を証明するように、丁度よくドアからハイゼットとアトラスが帰ってこないので部屋のドアを開き廊下にでようとしたミラジーノにばっちり目撃された。


 硬直するハイゼット、何もっっっ!!後ろめたい事実は何一つ無いはずなのに、ミラジーノが硬直した後に凄い殺気を篭った目で細めた。


 ミラジーノの目には、木造の螺旋の階段になって奇跡の角度でハイゼットとサニーしか見えない。


 アトラスとエッセはサニーの後にいるのだけれど、ミラジーノからしたらハイゼットと見知らぬ女性がツーショットの密着状態。


 しかも、人間の女性の腰にはハイゼットが腕を添えてまるでキスする数秒のようだ。


 ハイゼットの背中には生命の危機を彼に教えているのか?と思うほどの汗が流れている。


 「ちょっと…待とう…ッ!」

 「死ね」


 ぼそり、呟いたミラジーノの顔は冥王そのものだった。


 いや、冷静に考えれば廊下に躓いたのをハイゼットが支えた。と分かるだろう。


 だが運の女神は気まぐれ、彼に幸運はくれない。


 自ら造り出した魔術師の杖をミラジーノは強く握り、それを大きく振りかぶりハイゼットの横腹を狙い投げた。


 この結果は皆さんには分かるだろう、見事にめり込む外見ばかり凝ったメイドイン・ミラジーノの杖は、それはそれは気持ちのいい音をたててハイゼットの横腹にめり込んだ。


 「悔い改めなさい!!女の敵!!!」


 何で俺ばっかりこんな目に合うのだろう?びっくりするサニーには悪いが今のハイゼットはわき腹の激痛を蹲ってやり過ごすしか選択がなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ