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事件の予感


 迷惑な2人組に絡まれたハイゼットは、予測していた時間よりも遅くなりテンションを落としたまま街で結晶化したエルフ族の族長の一人娘を捜していたのだか、結局苦労のわりに何も得られなかった。


 俺はあの街にセクハラを受けに足を運んだようなものだ……やべッ海に身を投げたくなった。


 くたびれたのに収穫はゼロ、なんて切ない現実なのだろう。


 旅の邪魔にならない様に、結晶化したエルフの娘――ルーテシアを早く見つけねば。


 重いため息をついて、アトラスがいる町へ瞬間移動をして宿の近くの人気の無い場所に標準を合わせて飛び、無事に転送完了。


 ミラジーノとアトラスは旅の仕度をしているはずだ、主にアトラスの装備を整えているだろう。その資金は国王からタップリ頂いたので心配はない。


 不足になれば、さ迷う魂の入ったモンスターと戦わせて、彼らの核にしている魔力を込めた石で資金を確保は保証されている。


 自分の装備は己の魔力を具現化すれば事足りるからいらない。それはミラジーノとエッセにも共通していた。


 今日、俺達が宿泊する宿のドアを開いて中にはいると一階の食堂では、アトラスとミラジーノが食事をしている姿が見えた。


 ミラジーノは魔道師の格好を借りたフリフリのゴスロリ風の服を相変わらず着ているのだけど、アトラスは新調した旅用の厚い服に変えてあった。


 彼女の趣味趣向か、これまた男っぽいというか…中性的な格好で女だと言われなければ女顔の男性といった所だ。


 キッチリ上から下まで、虫が入り込まないように着込み無駄装飾品はついていない。長袖の茶色の上着に下のズボンは髪と同じ緑色と黒の皮靴。


相変わらず爽やか青年の印象は払拭できない。まっアトラスが男だと勘違いしてくれるならその分は危険は減るだろう。


「お帰り、遅かったね」


 見た目はどうみても男の好青年にしか見えないアトラスが、笑ってミラジーノと向かい合って座っている長椅子から、ハイゼットが座りやすいように少しだけ体を動かしてスペースを作る。


 「ちょっとな…」 


 そのちょっとの中に秘められた憂鬱を知って欲しいが、語るわけにはいかない。頭の中で幼女の王女様と従者を思い浮かべると、頭痛を引き起こしそうだ。


 長方形の六人は食事が取れるテーブルの上に、ミラジーノのクリームシチューと数個のパン。アトラスは野菜のスープにタップリのリゾット。


 ほかほかして、美味しそうな匂いがする。俺もアトラスと同じリゾットを注文すると数分後にはハイゼットの前に出来たてのリゾットが置かれた。


 「エッセはどうしたの?一緒に帰ってくると思ってたよ?」

 「いや、知らないな。俺とエッセは別行動していたから」


 リゾットでまだ余りお米にスープが染みこんでいないのを掬い、口に入れる瞬間にアトラスが訪ねてきたのでスプーンを降ろした。


 そう言われてみれば、あいつは何処へ行ったのだろう?エフルとの密約がある俺はともかく長期休暇をエッセもとっている。


 俺もエッセも魔界の用事はないはずだし、彼が何処かへ行く理由が見当たらない。


 チラリとミラジーノに視線を移して、目で「エッセの事知っているか?」と聞いてみたがミラジーノは静かに首を左右にふるだけ。


 まっいいか、いずれ帰ってくるだろう。追求するのも面倒だ。


 心配しなくてもアイツがこのサファリの反対側にいたって、五分で俺達の所へ戻ってこれる。俺は自分のエフルの娘と訳の分からない女王様で精一杯です。


 数千年の付き合いがある、幼馴染の心配なんて微塵も無い。


 そう考えて、ハイゼットはリゾットを食べ始めた。


***


 ハイゼットたちが食事を終えて、夜も更けてきた頃。

 

 アトラスは、宿の窓から夜景を眺めていた。


 自分の住む村では、こんなに建物は無い。風を通すために窓は開いてある、風呂上りの熱った身体には夜の風は心地いい。


 いつもと違う夜に何となく眺めているとうっすら悲鳴のような声が聞こえた。


 常人には聞こえない針を落すような小さな音にアトラスは窓をから、身を乗り出して音に耳を済ませた。


 静かに耳に意識を集中していると、アトラスとミラジーノが使っている部屋をノックをしたハイゼットが後ろからやってくる。


 「アトラ…」


 ≪助けて…!≫


 ハイゼットはアトラスの旅用の皮靴に魔法をこっそりかけて足の負担を減らそうとしにきたのだが、ハイゼットが見たのは二階から外に飛び出すアトラスの後ろ姿だった。


 一般的な人間だったら、足の一つでも折れるのだけれどもアトラスは見事に着地をしてそのまま走り出す。一瞬唖然としたハイゼットもため息を一つついて窓に足を乗せて外へ飛んだ。


 ハイゼットが地面に着地をした時には既にアトラスの姿はなく、アトラスはどの方向に走っていったのだろうと目を瞑って探ってみる。ここから真っ直ぐ西の方向にアトラスに与えた魔力の塊、宝玉の反応を感じ取れたのでそちらに向かって走しり出す。


 きっと何かがあったからこの時間に窓から飛び出したのだと、ハイゼットだって分かっている。だけど、「何か」が厄介ごとではなければいいと天界にいる最高神ではなく自分の母親である魔神に祈っているとアトラスの後ろ姿が見えてきた。


 音をまったく立てていないハイゼットに比べ、脚の力で地面を刺す様に走っているから穴がぽこぽこ空いている。こりゃアトラスの額にある宝玉の魔力を辿らなくてもよかった。


 アトラスの隣に並ぶと走りながら聞いてみる、ただの夜の散歩なら引きずって連れて帰るぜ俺は…。


 「おい、何事だ?」


 音を立てなくても気配は消していなかったハイゼットに、アトラスを気がついていた。目だけを動かし速度は落さず言う。


 「女性の悲鳴が聞こえたんだ。きっとこの先の教会の近くだと思う」


 宿から教会までどれだけ距離があるか、この2人がごく普通の人ならば目にも留まらぬ速さで走っているのに暢気に会話をしているほどだ。


 つまりは高速で移動しているのにも関わらず、会話が続けられているのにまだ目的地に着かない。


 ハイゼットは心の中で小さくため息をつく。「この子はコウモリかフクロウかよ…」と。


 そうしてほぼ全速力に近いスピードで走っていたアトラスは、教会の扉の前で急停止。


 ここら辺で悲鳴が聞こえたのだ、きっと悲鳴を上げた女性は直ぐ其処にいるはず。だが周囲に人の影は無い。


 「どこだろう」


 少しだけ焦った声で呟くアトラスに、ハイゼットは教会の後ろ側にある人気の無い場所に数人の人間がいるのに気付いた。


 「こっちだ、誰かが居る」


 こっそりとハイゼットは、どのような状況か様子を窺うつもりだったのだけど、アトラスは教会の後ろ側に走っていく。


 咄嗟に止めようと片手をアトラスに出したが、後の祭り。アトラスは行ってしまった。


 (直情型にも程があるだろうが!)


 アトラスの戦闘力があれば、ゴロツキの数人など物の数ではない。単純な行動をとる困ったちゃんなアトラスに心で毒づく。


 ハイゼットは彼女の心配をしているのではなく、騒ぎを広げて厄介な目にあいたくないだけ。


 先走ったアトラスを追ったハイゼットの眼には、女性の両手を引いて何処かへ連れ込もうとしている男が数人。


 そして、地面を蹴って飛び上がるとアトラスは、女性の手を引いていた男の顔面に蹴りを入れていた。


 一応は手加減しているのだろう、アトラスがその気になれば顔面の蹴りでゴロツキの顔は落としたスイカのように顔の肉が飛び散る。だけど男は後ろに一回転してふっ飛び、木材の箱に突っ込んだだけに終わった。


 突然現れた青年(女ですが)に驚き、ゴロツキは対処が遅れる。別に完全武装でも此方の勝利は確実確定でして。


 魔王から力を注がれた人間と、魔王そのものだ次元が違う。


 ふっ飛んだ男に拘束されていた女性も、女性に絡んでいた男どもすらぽか~んとしている。 


 アトラスに続き、ハイゼットもゴロツキらしき男の元へ走り一番近くのゴロツキの足を掴む、ほんの少しだけ力をいれると枯れた細枝のように簡単に足の骨が折れた。


 ありがたくはないだろうが、足の骨はきれいに折ったので骨は一ヶ月ほどでくっつくだろう。でもそれからのリハビリが大変、筋肉なんて使わなければ衰える、でも自業自得なんで同情はしない。


 なぜなら一目で女性とゴロツキの関係が身内とか、痴話げんかが広がったなんて甘いものじゃないのに察したので遠慮はいらない。


 ゴロツキの腰には短剣が提げてあったからだ、この平和が特産な国で武器を所有して外に出る人間などいない。おとぎ話のような話だが、それをやってのけるのがオッティの国だった。


 しかも、この町に溶け込むような格好をしていない。旅用の茶色のお揃いのマントを全員が着用していて怪しさ満点だ。


 アトラスが1人、ハイゼットが1人再起不能にしてゴロツキ共の数はあと五人。さ迷う魂の入れたモンスター一体を倒すのに五分もかからないアトラスが人間相手に五分以上の時間を必要とするだろうか。


 腰にある武器に手を掛ける暇さえ与えてやら無い、いやアトラスが襲い掛かったという事実さえ把握はしていない。


 女性を拘束していたゴロツキの顔を蹴り、バク宙で地面に着地するとついた足をそのまま蹴り奥にいた違うゴロツキに向かって腕を伸ばし、ゴロツキの腕を前に引っ張る。


 ゴロツキは腕を引っ張られて地面に倒された、常人ならただコケタ程度のダメージだろうが相手が悪かった。


 腕の関節は脱臼して、地面には叩きつけられるほどの衝撃にゴロツキは気絶をする。


 そのまま次の男にアトラスは標的を変えて、体を捻り長い足を伸ばして回転蹴りを隣の男に食らわせ次々にゴロツキを倒していく。


 もうハイゼットの出番はない、出来るといったら絡まれた女性がアトラスのオンステージに巻き込まれないように遠ざけるだけ。


 アトラスはあっという間に、不審者のゴロツキを倒すと両手を叩き、舞い上がった土ぼこりを払う。


 「もう大丈夫だよ」


 くりっとハイゼットと絡まれていた女性の方へ、グッといい笑顔で笑って振り返った。


 「はっはい!」


 ハイゼットの後ろにいた女性はアトラスに慌てた様子で返事を返した。


 「さて、コイツらを兵士へ突き出すか」


 倒れているゴロツキ数人を見渡し、ハイゼットはため息をつく。悪人を取り締まっているのは国の軍だ。


 彼らに任せておけば、頑丈な部屋でアトラスと自分がやった怪我の治療をしてくれる。ただその部屋には鉄格子のオマケつきだろうが。


 「あっあの!……その前にこの人たちから尋ねたい事があるんです」


 ハイゼットの後ろにいた女性が前に出てきた、女性は18頃の年頃の娘でミラジーノやシビリアンみたいに特別目を引くほど美しくは無いが愛嬌があって可愛い人という好感を持つような人だった。


 髪は真っ直ぐにストレートの薄茶でスリムな体型、そして何処にでもいるような一般的な女性の服を着ている。


 「聞きたいこと?」


 真剣な女性の顔に、ハイゼットは訝しげに眉を寄せた。


 一般的な家庭で育ったような女性とこのゴロツキに何の共通点があるのだろうか?


 その頃、教会の壁の影からアトラスとハイゼットが倒したゴロツキと同じ格好をした男が壁に隠れてハイゼットたちを見ていたが、分が悪いと判断したのだろう、闇に紛れてこの場を離れようと身を動かした瞬間に顔面を大きな手で覆われ締め付けられた。


 「それはこの元気なヤツから聞けばよかろう」


 ん?っと皆が突然に舞い降りた声に、ハイゼットとアトラスと女性は一つの場所に視線が集中する。


 決して小柄ではない男の顔面を掴んで歩いてくる、エッセ。当然に顔面を捕まえられて暴れて逃れようとするのだが、エッセの素晴らしい握力に締め付けられて大人しくなる。


 「よお、遅かったな」


 ハイゼットは片手を上げて、エッセに笑う。エッセも手を振り顔面を掴んでいた男をアトラスとハイゼットの前に放り投げた。


 「………まあな。それより聞かんのか?」


 視線で女性をエッセが急かすと、ハッとしたように女性は遠慮がちにエッセが連れてきた男を見る。周りに倒れている男同様に同じ身なり、女性は決意を決めたように顔を引き締めてから口を開く。


 「私の姉さんを何処へ連れて行ったのです。教えてください」


 目をまん丸にして驚くアトラス、あちゃ~コレは面倒な事に巻き込まれちゃったよのハイゼットに、無表情のエッセ。


 エッセに放り投げられた男は状況を理解できないのか、驚愕した表情のまま辺りをアタフタと見渡すだけだ。極度のパニックに陥っているのだろう。


 エッセはアトラスと女性に見つからないように小さく言葉を紡ぐと突然、エッセに放り投げられた男は自分の意思とは関係なく口を開き始めた。


 驚いて手で勝手に動こうとしている自分の口を押さえるが、無駄な抵抗だった。


 「オッ俺達は知らない…ただ純潔の女を集めろとッ!特にシスターを浚ってきたら高値で買ってやるって言われて雇われただけだ!!」


 一生懸命に口を押さえようとして、顔は青く脂汗を流す男にハイゼットはゲスを見るような視線で見た。


どうも、長毛種の猫でございます。

パソコンの調子が悪くて、その上にスランプがきちゃって遅くなりました。

とりあえずメインキャラは出揃ったのでストーリーのフラグです。

パソコンって出来ないと不便ですね、小説を書きたくても画面がつかない切なさってはセミの鳴く夕方みたいです(?)

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