新しい日に、旅たちの日
認めよう、俺たちは浮き足で赤子に魔力を込めた宝玉を授けた事実を。
人間にとっては長いかもしれない17年の時間、俺たちのとっては瞬きの時を何の確かめもせずに根拠もなく。
赤子を男の子だと思い込んでいた。
それは自分たちの思惑によって勇者として旅をさせるにはどうしても男というイメージがついて、実際アトラスの性別を確かめるなんて発想はなかった。
勇者として性別が男であろうが、女だろうが計画自体には問題が発生するわけじゃない。今までどおりにアトラスが旅路によって魂を葛藤させて、育ててくれれば魔界を隔離する封石を発動させることが可能である。
しかしだ……。
何故、人生最初の敗北を味あわせた魔王のお嫁にアトラスはなろうとしているんだぁぁぁぁ!!!!
氷ついた三邪王と1人状況が分かってない笑顔のアトラス。
アトラスの顔は「ん?」みたいだが、ハイゼットはテーブルに顔を沈めてミラジーノは口を引きつらせている。エッセにいたっては意識が実家に帰っているのかもしれない。
「隣町の人からもよく間違われるんだ、僕を自分の娘と結婚させたいとかね」
おかしそうに笑うアトラスに、その場にいる3人は「そりゃそうだろうよ」と心で頷いた。
どう見たって好青年にしか見えない、爽やかでしかもアトラスの住んでいる村で一番頼りにされて、外見も申し分なく性格も穏やかで優しい上に力持ちなんだから。
平和だが世界が狭い村と村では自分のかわいい娘の婿として、アトラスは候補に即上がるだろう。
「………お前が女なのは分かった、男と勘違いしていたのは詫びるが……なんでまた魔王の嫁になりたがるんだ?」
テーブルと熱烈なキスをしていたハイゼットが、顔を上げてアトラスに聞いてみる。
魔王ストーリア=ハイゼットだ、男だと思い込んでいたのでお姫様を求めて旅をさせるつもりだったのだけど、いつの間にか変装した自分を求めて旅に出られても大変困る。
「だってお爺ちゃんが昔から、自分より強くて逞しい男と結婚しろって言われてるんだ。魔王は僕より強かったし、女の子を傷物にしたら責任をとらなきゃいけないんだよね?」
首をかしげて、3人に逆質問してきちゃったりするアトラス。男女なんて性別関係なく子供っぽい仕草に3人は今の状況では癒されなかった。
キズモノって……。
体に残るほどの怪我は無い筈。
多分予想としてアトラスの思考回路は、攻撃された――キズモノ――責任をとって結婚すべき。何より自分より強い――理想の結婚相手。
総合得点によってアトラスのお目にかなったのは、魔王ストーリア。
「責任はとってもらわなきゃ」
嬉しそうなアトラスに、3人は掛けるべき言葉が見つからない。
ただ怒りの矛先は。
なんつー単純回路!!!アトラスの爺ちゃん!!どんな教育をしているんだ!!!
アトラスほどになると婿として彼……いや、彼女に適う人間なんぞ簡単にいるはずはない。一日しか側にいなかったが彼女はとても純粋なので結婚する相手は自分を超える存在として捕らえているのだろう。
だからといって。負けた、僕よりつよーい!魔王のお嫁さんになろうって極端すぎないか?
人間からしたら最悪な相手だぞ?魔王は。
爺ちゃんも腰抜かすぜ?「ただいま!僕、結婚したんだ!魔王と」
って玄関から帰ってこられたら、爺ちゃんは天界アルフィードまで片道切符を持って行っちゃう!!
それよりも問題なのが……ハイゼットの右側に座っていたミラジーノの肘が、テーブルの下からドスッと隣に座ってるハイゼットの肋骨を強打する。
ついでに念話つきで。
≪アンタは本っ当ロクな事しないわね!!≫
流石のお言葉にハイゼットも反論する。
≪こんなことお前を含めて全員想定していたか?責任を俺に押し付けるのは止めろ≫
念話を通じでギャンギャンと2人が不毛な会話が始まり、終わり無く続けていたが。
子供のような言い合いに、エッセが段々と形相が悪くなっていく。
ダンッ!!!
エッセがテーブルの上に乗っかっている物が揺れるほど強く拳を叩きつけた。
ピタッと念話を止めるハイゼットとミラジーノ。
普段から彼らを叱ることはあっても、怒りを露にするのは珍しいエッセの眼は疲れがにじみ出て怖い人相になってしまっていた。
「……今日は疲れただろう、もう休むぞ。明日国王からの旅の装備も整う」
無表情にエッセが言うと、壊れたおもちゃのように高速で頷くハイゼットとミラジーノ。2人を他所にエッセは立ち上がって部屋から出て行く。
2人の兄ちゃん役なエッセのマジ怒りに、ハイゼットとミラジーノは手と手を取り合って固まったままエッセの後ろ姿を見送った。
特別深く考えずに、負のオーラに包まれたエッセに対してアトラスは暢気に「おやすみ~」と声をかけて、手を振る。
部屋を早足で出て行ったエッセは、誰もいないお城の廊下で額を押さえてから長いため息をつく。
久々に2人の前で切れた自分が情けない、しかもアトラスの目の前で。
エッセにとってハイゼットとミラジーノは弟妹感覚で、アトラスにいたっては赤子のように思っている。
一番の年長者である自分がこんなザマでは、先が思いやられると頭を垂れた。
……物事がうまく行かないからと癇癪を起こすなんぞ、まだまだ我もまだ修行が足りんな……
なんておっさん臭い事を心で呟いていた、エッセだったがよく知る気配に後ろを振り返る。
≪やっぽーエッちゃん~!≫
そこには小さな子供が手を振っていた、見違えるはずが無くも自分の父親だ。
「親父殿どうして?」
ニコニコ子供の姿なエッセの父親である破壊神が小さな口を開く。
≪実はね、この世界サファリに外部の世界から来た生命体が侵入してきたみたい、エッちゃんたちの戦闘力なら全然心配ないけどね~≫
お子様全開ぽやぽや口調の破壊神の知らせにエッセは、眉間に深いしわをよせた。
天界と魔界と人間たちが住む混沌とした世界の三つで、ハイゼットたちは暮らしていける。
三つの世界は独立しているようで、蔓のように複雑に絡み合っているから一つでも世界が欠けてしまったら大変なのだ。
だがその三つの世界の外側から来たものが、稀に紛れ込むことがあるのは事実。
どんな理由か魅力があるのか、エッセには計りかねるが来る者には警戒が必要になってしまう。
相手が想像もできない世界からの、未知数な存在なだけに。
別段のこと敵意を持ってなく、何かの因果で此方の世界へ来たのならば天界の主神と魔界の3神の神々、稀に人間が住む世界サファリの代表として選ばれた人間かエルフを呼び、話し合って処遇を決める。
しかし侵略が目的で入り込むならば黙って奪われて堪るか。
天界の闘神と魔界の番人、エッセの覇王軍で三つの世界の均等を守る。人間やエルフたちの種族は一線を越えた戦いでないと一緒には戦わない。
だから人間たちが参戦して戦う時は、三つの世界の存亡を掛けた酷い戦いになるだろう。しかし現在のレベルではまだまだ可能性は低いので安心して欲しい。
外部世界からの侵入か……侵略にならばければ助かるのだが……。
最近自分の運がついてないのを思い出して、顔を左右に振る。
エッセの経験に外部世界と接触するのは、一度も無い。極稀に異世界の者が紛れる話は聞いても、自分には夢話にしか思ってなかった。
しかし守護こそ自分に与えられた宿命。
覇王として一瞬緊張が走ったが、破壊神はお見通しのように。
≪大丈夫だよエッちゃん、いざとなったら僕が皆殺しにしてあげるぅ~≫
穏便ではない父親の言葉に、エッセは苦笑いをした。
未知数の敵であろうと、絶対の自信を見せる破壊神の戦闘力はなるほど素晴らしい。
エッセが全力で戦っても、恐らく数分で決着がつくほどに。未だに父親に勝てる根拠もなければ自信も全く無い。
≪だからハイちゃんとミラちゃんにも~、一応は教えてあげてね≫
「分かりました時をみて話しましょう、親父殿」
≪そうそう~もし外部世界からの生命体に攻撃されたら、理由は問わず殺すんだよ?≫
可愛い顔をして随分と物騒な言葉が、小さな少年からポンポン出てくるものだなその辺は流石は破壊神か?
相変わらずな自分の父親にエッセは苦笑いをして頷いた。
≪じゃあ、がんばってエッちゃん~でもちょっとは魔界にも帰ってきて?≫
「御意」
エッセに手を振って、小さくて究極の破壊神はエッセの前から消えた。
姿が消えたのを見届けたエッセは、廊下にある柱に背を預け。
(やれやれ…どうやら予定調和どころではなくなってきた…)
自分の眉間の皺に指を置き、皺を宥めるように撫でると心で呟く。
(あの2人にはまだ秘密にしていた方がいいな)
今の段階では、まだ完全に外部世界からの接触が確認されている状態ではないらしい。確証が持てるまでは騒ぎは大きくしなくてもいい。
魔界の秩序と平和は覇王の役目、外部からの生命体であろうと魔界を脅かすのであれば自分が責任を持って対応せねば。
何百年もかけてやっとのことミラジーノが探し出したアトラス。そして人間が召喚した魔界の住人たちに関わっていたハイゼット。
人間の問題で大変なハイゼットとミラジーノは本当によくやった、無論自分も被害はあったが2人ほどじゃない。それを近くで見てきた。
これ以上2人に負担を掛ける前に片付ければ問題は無い。
腐ってもおにいちゃん気質である。
エッセは背中を柱から離し、自分の宛がわれた部屋に向かって歩き出した。
***
次の日エッセの心配事など知らない顔をした太陽をアトラスは見上げた。
空は晴天、絶好の旅日和にアトラスは太陽に向けていた目を細める。
時間はお昼ちょっと前くらいで、見送りには国王と王妃がきてくれた。
魔王ストーリアに姫君を攫われた国王は、アトラスを含む旅人のハイゼット、ミラジーノ、エッセに奪還を命じて翌日には旅立てるように手配をした。
ハイゼットたちはともかく、アトラスは急遽旅にでると決めたので同居しているお爺ちゃんに手紙を一筆したためて騎士の1人に渡していたのをハイゼットは知っている。
民にはお姫様が魔王に攫われたなど、公言できるはずも無く城の裏側からの寂しい旅立ちになるがアトラスにはどうでもいいらしい。
ハイゼットが城裏につくと全員が乗れる二頭の馬がいて、小さな馬車が用意されている。
旅用の頑丈な馬車だ、お忍びで旅をするので豪華さは無い。
「どうか頼む」
暫くの間必要になる旅の荷物を馬車に乗せ終わると、国王自ら頭を下げてアトラスに頼む。
「はい、必ず姫様は国王の元に」
アトラスも国王に真剣な目で答え、心強く返事を返す。その勇姿に王妃様は目じりに涙が。
ハイゼットは一歩離れた場所から、アトラス……おっとこらしいな……と心で呟く。
国王の、いや。この国の期待を一身に背負い、アトラスと三邪王が馬車に乗り込んで馬を動かす。
目指すは魔王が住むという島に向かって、魔王が目の前にいようが向かうのだ。
城下街を抜けて、整備された道から人が踏み固めた小道に変わる頃にハイゼットがため息をつき、アトラスに見られないように掌サイズの魔方陣を作り出すと、召喚魔法を発動させた。
馬車の動かし方をエッセから教わっているアトラスの隙をついて、馬車の中で1人になるとハイゼットは召喚魔法を呟く。
気は進まないが、負い目はこちらにあるのでしようがない。
『やっと出られましたわ、ハイゼットさま~』
「おう、でもよかったのか?両親に会わなく……いや、俺が言えた義理じゃないな」
ハイゼットの手から出てきたのは小さな妖精のような少女。
この少女はシビリアンだった、物語で出てくる妖精をイメージして背中には蝶々に似ている羽が光の粉を出して輝いている。
全身のサイズもハイゼットが掴んだら首だけはみ出るほどに小さい、顔はそのままにして本人の希望によりハイゼットと同じ髪の色以外は全て元の体と一緒だ。
昨日の晩にミラジーノがシビリアンの同行を許してから、さあ大変。彼女の熱烈な願いもあって一度本体を魔力の結晶石の中に閉じ込めた後に魂だけ抜き出し、ミラジーノが作り出した新しいこの肉体を吹き込んだ。
羽をつけたので飛行も可能、ただアトラスほどではないが新しい肉体に魔力を混ぜて彼女でも魔法を使えるようにした。
勝手に攻撃魔法を人間に放ってもらっては困るので、アシスタントとして回復魔法とサポート系の魔法のみ使用できる。
ハイゼットとしてはアトラスの勇姿をみて、心変わりをアトラスにして欲しかったのだけど……。
我らが愛し子が女だと判明した現在、この計画も大幅に修正の必要あり。
しかし当初の目標であった、お姫様を追って旅立ちは成功した。これは認めてくれい!!
でも、アトラスが魔王のお嫁になるだの!攫った姫君が俺にぞっこんとかありえない!!
何のために俺は人攫いという、外道一歩手前の行為に手を染めてしまったのか?一歩手前にしたのはお姫様本人も望んだと弁解させてもらう。
卑怯?うっせー今の俺はやさぐれとるんじゃい!!
やるせない気持ちが胸を締めるが、シビリアンは幸せそうに新しい体で馬車の中を飛び回った。
「お父様とお母様にはいつでも会えますわ、それよりも私はご主人さ「コホン!」……ハイゼット様のお側にいたいです」
俺のわざとらしい小咳に、シビリアンは言い直した。
油断するとシビリアンは「ご主人様」とよぶ、俺はどうしてもその呼ばれ方をさせたくないので何度も注意をしたんだよ。変態だと思われるわ!!
「そうか、でもアトラスたちと仲良くしろよ?」
百合に仕立てるつもりはないから、もう2人をくっつけようとは思わない旅をするので仲良くできたら一番いい。
アトラスと女友達なれば、アトラスも少しは楽しいかもしれないだろうし。
「はい、努力をいたします」
ちょっと、すねた顔で返事をしたシビリアンにハイゼットは何ですねる?って考えたが。
「誰だい君?」
アトラスが馬車を動かす馬の手綱を、エッセと交代して後ろの方にやってきた。
馬車はよく旅人が使う帆が張られたタイプで、馬はデカイ大型の馬が二頭で轢いている。
そしてシビリアンは、先ほどのハイゼットの言葉など銀河の彼方にすっ飛ばしたようにアトラスを睨んだ。
ちょっと、お嬢さん。仲良くしてよね!!
ハイゼットの心の叫びは二人に届くといいな。
エッセはミラジーノの隣で馬の綱を持ち、心で自分の幼馴染にエールを送った。
どうも、長毛種の猫でございます!
は~もう、いいわけですが仕事の終わるのが遅いので中々小説が進みません(泣)
朝八時から夜の九時まで働き通しが、もう普通になってます!!
それで六時おきなので最高に現在眠たいですわぁぁ!!
すみません、後日になって変なところは直しますので「ここおかしいよ!!」と気付いたらどうぞ感想で教えてやってください。
そしてここまで読んでくださってありがとうございます!!
次の話からやっと旅になりますが、ドタバタな旅にしたいです。




