天然なお姫様
「魔王ストーリア様の本当の名前はハイゼット様と仰るのですね」
「はい、その通りです。ストーリアは俺の曾爺ちゃんの名前です」
俺は床に視線をむけつつシビリアンの嬉しそうな質問攻めにあっています。
ちょっと気になる男の子にアタック☆
そんて、ほのぼのした雰囲気じゃないのだけど……。だって俺床に正座中だもん。
ミラジーノの怒りの一撃をモロに喰らったハイゼットは、攻撃した本人であるミラジーノに起こされて強制的に正座させられた。
(俺なにもしてないのに…)
その発言を堂々といえたらどんなに楽か、しかしながら場の空気は完全にハイゼットの味方をしてくれなかった。
目の前で腕を組んでいるミラジーノから逃げられる気がしない。
ハイゼットを押し倒した(?)お姫様、シビリアンはベットに上で座ってハイゼットを恋する乙女の眼差しでウットリと眺めている。
その様ですらミラジーノの気に障るのか、さ迷う魂のモンスターを勢ぞろいしても太刀打ちできない迫力にハイゼットは震え上がった。
「一体何がどうなっているのだ?……ハイゼットまさかとは思いたいが、先ほどまでの勢いで…」
眉間の皺を指で伸ばしながら、エッセが呆れた声でハイゼットに問うが。
「なわけネェだろう!!!こっちが知りたいわぁ!!」
即座にハイゼットが反論する、納得しかねる顔のエッセは唸る。
アトラスを旅に出させるきっかけとしてアトラスの住む国のお姫様シビリアンを攫った後、ミラジーノもアトラスの側に自分の幻影を残してこの城までやってきた。
この場所である島は魔王に扮したハイゼットが「ヴァーサにいる」と言い残したが、実際にはそんな場所はない。
なのでそこは何処?ってなるから、オッティ国の人は誰も知らないであろう。だって適当にハイゼットが名付けただけ。
その中で旅人のエッセが、「かつて魔物(と化した人間が)暴れ瘴気が立ち込める穢れた地である」とか「魔族の城(オークションで落札した)がある」なんて半分本当で半分嘘を並べて、ハイゼットが正座している城までアトラスを誘導して連れて行けばいい。
エッセ本人はオッティの国でハイゼットが変装した魔王のさり後、体を起こしてハイゼットとミラジーノの幻影と共に国王が姫を取り返すために会議を開いたのに参加していた。
部外者であるはずのハイゼットたちは、もう仲間のように自然に席に座られている。
こちらとしても都合がいいのだけれど、使われている感が拭えず唯一1人だけ本体のエッセはさり気なく眉を顰めた。
自分の幻影をミラジーノとは逆にハイゼットが居る城に飛ばしている幻影から届く映像に、眉のしわを深めた。
(ハイゼットはハイゼットでなにをやっているんだ…)
エッセの幻影はリアルタイムでハイゼットたちの情報を本体に伝え、便利ではある。しかし今はアトラスが穢れた島へ行く手引きに集中するとしよう。
幻影のハイゼットをエッセが睨むと、エッセから幻影のハイゼットは視線をそらす。
とにかくアトラスの誘導は、本体のエッセに任せて、此方の問題のほうが深刻かもしれない。
***
お城の人々が取り戻したいと願っている姫は……。
「ハイゼット様は真の魔王さまなのですね!!」
嬉しそうにハイゼットの角を覗き見る、ハイゼットはズイッと顔を近づけられたので顔を後ろ背けた。人間の女の子の迫力に負けたのは情けないが怖いものは怖い。
全ての事情をお姫様に説明したのだ、幻影のエッセを含めた魔族の証である魔力の源の体の一部をお姫様シビリアンに見せた。
ハイゼットは角で、ミラジーノは尻尾、エッセは猛禽類に似た翼。
それらを見せて、お姫様であるシビリアンを攫った経路を大分省略した説明をしたのだけど。
魔界の住人であること、幼馴染3人が魔族の王でありアトラスに内緒で力を与え、その上で旅をさせて魔界と人間が住む世界を隔離してもらうこと。
洗いざらい白状しても、シビリアンの態度は変わらない。
それよりも魔王のハイゼットに益々頬を赤く染めてしまう始末。
自分が餌に使われているのに激怒して宥める体制に入っていたエッセは拍子抜けした。
「俺らに使われて怒らないのか?」
ハイゼットがシビリアンに聞いてみると、シビリアンは笑顔で顔を左右に振る。
全然気にしてない、本当に。
ハイゼットは小さくため息をつく、とうとう魔族の証である角までみせちゃった。
実のところ正体を明かすつもりはなかった、怯えているお姫様と少し距離を置いて可愛い猫の姿や綺麗なお姉さんみたいな使用人を作って、自由に城でアトラスが来るまで快適に暮らしてもらうつもりだが。
ハイゼットを押し倒した瞬間に計画は崩れ去った。
魔王が旅人に1人、ハイゼットと分かったお姫様も、何故攫われなくてはならないのかと知りたいと思うのが当然の権利。
計画のためとは言えど攫った行為は褒められるものでは決して無い、だからお姫様が計画した卓上に上がらないのを分かった上で説明をしていたのだ。
エッセが戸惑いながら聞いてきた質問にも、嬉しそうに答える。
「素敵です、運命の皇子様は魔王様なんて、そして私は種を超えて禁断の愛」
1人別の世界へ行くシビリアンを3人は止められない、どうしてそんなにも暢気で居られるだろう。
「ちょっと…あんた…シビリアンだっけ?なんでアホのハイゼットにのめりこめる訳?」
(アホはよけいだっつー)
言い返したくても目の前のミラジーノが、言葉に出来ない恐怖といいますか…重圧といいますか、そんな所の何かがヒシヒシと感じるから黙っておく魔王ハイゼット。
しかし、ミラジーノがハイゼットを格下を扱うような言い方にシビリアンがミラジーノを睨む。
「ミラジーノさん!私の魔王様を愚弄するのはやめていただきたい!私のご主人様です! 」
「ちょっとお嬢さん何おっしゃ…「馬鹿じゃないの!!アンタなんかただの餌よ!ごっ、ご主人様とか馬鹿ね!!」
突拍子の無いことを言うシビリアンにハイゼットが叫んだが、綺麗にミラジーノに遮られた。
「私のご主人様です!私の所有権は私をハイゼットさまが望みお攫いになった時から私はハイゼット様の物です!例え贄にされようとも私の燃える愛を持って喜んで差し上げます!!」
(おお、ミラジーノを言い負かした、やるな姫君)
シビリアンがミラジーノを捲くし立て黙らせた、成り行きを見守っていたエッセは素直に感心する。そして姫の情熱に賞賛を送った。
圧倒的な勢いで言われたミラジーノは悔しいが、反論したくても勢いで押され顔を真っ赤にして口をパクパクして数秒沈黙した。
でも標的を変えて、凄い目つきでハイゼットを睨む。
「アンタが余計なこと書くからややこしくなったんでしょうが!!」
本日二度目の地震…いやミラジーノの魔力が火を噴く、アトラスが暴れても大丈夫なように結界で強化された城の床を焦がしハイゼットが倒れている姿を視界に入れ、鼻を鳴らしてそっぽをミラジーノは向いた。
この世は無情だと心で呟くしかハイゼットには出来ない。
「ハイゼット様!」
焦げたハイゼットを見つつもエッセはため息をつく。
魔族と人間との愛は魔族と天界の掟により、ご法度となっている。万が一にもハイゼットが姫君であるシビリアンと恋に落ちでもしたら大変だ。
かと言ってシビリアンの記憶を弄るのも考え物、それでは魔族の意思関係なしに自分の都合のよい通りに進める人間と変わりない。
(うむ…)
顎に手を当てて考える、エッセの視線の先にはムクリと起き上がるハイゼット。
すぐに側によるシビリアン、床に腰を下ろして膝をたてて、その膝に腕を置くとシビリアンにハイゼットが聞いてみた。
「俺は君に惚れられるような事した?嫌われるような事はしても逆はないぞ?」
するとシビリアンはハイゼットと視線を合わせるように床に直接座り、この辺は普通のお姫様では抵抗あるが日頃から父親の畑を手伝っているから大丈夫。
ハイゼットとシビリアンの眼が合う。ポッと赤くなるシビリアンにちょっとだけ、別の種としても彼女が可愛いと思ったハイゼット。
その直後頭上からミラジーノの鉄拳がハイゼットの頭蓋骨にクリティカルヒット!!
「いい加減にしなさいよ?」
痛みに呻くハイゼットの頭上から、ドスの効いたミラジーノの声。
なんだよ!お前はさっきから俺を理由も無く攻撃しやがって!俺はシビリアンと話してんだよ邪魔するな!!つかお前いやに俺につっかかるじゃないか!少しはレディらしい振る舞いの一つでもしてみたらどうなんだ?!!俺がシビリアンを可愛いって思っても、比べるまでも無いくらい歳が離れているくらい分かっているつーの!!
なーんて発言できたら、俺は頭を攻撃されてない。
ハイゼットを心配しながらも、オズオズと話だすシビリアンに全員が耳を傾けた。
「お母様が仰りました、わたしを城から攫い連れ出す男性こそ、わたしの運命の相手だと」
3人はぽか~んと口をあけてシビリアンを見つめてしまった。
多分君のお母さんは…あれだ。駆け落ちとかにラブロマンスを感じている人だろうね。
でも攫うって意味合いがちょっと違わないかい?愛の逃避行と魔王が姫を攫うのを混合してはいけない。
一応は駆け落ちって言うのは双方の同意があるんじゃないの?
幼馴染3人の認識とお姫様の認識が非常にずれている、でもシビリアンはモジモジしながら横目でハイゼットを見つめる。
可愛いがハイゼットの頭上からミラジーノのたぎった殺気を感じるので、顔を動かさず続きを待つ。
「そして感じたのです!わたしがハイゼットさまの逞しい腕に抱きあがられた時、わたしはこの方に全てを捧げる為にうまれたのだと!!」
キラキラした目で俺を見ないで…。
ハイゼットはちょっとシビリアンから逃げたい心境になってしまう。
「行き成り飛びすぎじゃないの?」
ミラジーノは誰に言うのでもなく独り言で呟く。
「まぁ、母親の刷り込みと一目ぼれもあったのだろう」
エッセがミラジーノの呟きに答えた。見慣れたが、ハイゼットは美形だ。勿論自分も醜い類ではないと自負しているが。
化け物の姿をしているなら絶対に惚れないだろうが、口元だけの開いた仮面であろうと美形と分かる雰囲気に女性がうっとりとする長い足と、長身を持っているハイゼットだ。
さて、お姫様が一目ぼれしたのは別問題として、これからどうする?
エッセは小さく息をつく、アトラスとのラブロマンスが生まれないぞ?勇者として功績とお姫様との結婚。
我々がたくらんだ思惑はドンドン予定が狂っている……。
いい加減足踏み状態から脱出したいものだ、エッセは床に座っているハイゼットの襟を掴み立たせる。
「先ほど申したように我らはアトラスを導かねばならん、すまないが暫くこの城で…」
「お願いします!私も連れて行ってください!!」
これまた無理難題を言ってくれるシビリアン。
ついでに言葉を遮られた不快からエッセはまた眉を顰めた。
「我らの話を聞いていたのか?姫君がいたらアトラスが旅に出る必要が無いだろう?」
あくまで口調は柔らかく伝えるが、本心は。面倒!はよ行こうぜ!おい、なエッセ。
「わたしはハイゼット様のお側に居たいのです、わたし捨てられるのでしょうか」
「いや。捨てるとかじゃなくて、ここに居て欲しいだけで…」
あーんと泣き始めるシビリアンに女性には紳士に接しないといけないと思っているハイゼットは、ちょっとオロオロしちゃう。
その様を見たていたミラジーノは唇を尖がらせて。
(へたれ)
と心で囁くが、ピンッと何かを閃いた。
「いいわよ、一緒にいらっしゃいな。ただし今の姿じゃないけど」
満面の笑顔で泣くシビリアンに言いのけるミラジーノに、ハイゼットとエッセは絶句した。
「ありがとうございます!ミラジーノさん」
「「は?」」
嬉しそうに声を上げたシビリアン、対照的にハイゼットとエッセは同時にミラジーノの発言に耳を疑った。
2人を他所にミラジーノは指を動かし、2人を呼ぶ。仕方ないのでハイゼットとエッセはミラジーノの近くまで近づく。
顔をつき合わせたら小声でハイゼットがミラジーノに噛み付く。
「おい、どういうつもりだ?」
呆れ顔のハイゼットに、これまた小声だが高飛車にミラジーノは。
「考えてみなさい、このまま城にいてもアトラスと進展があるわけないじゃない?だったらアトラスの勇姿を近くで見ていたほうが恋心は動く可能性はあるわよ」
男2人は感心した声を上げた。
なるほど、アトラスが必死に姫を取り返そうとして、苦難や災害に立ち向かう姿にキュンとしちゃうかもしれない。
それも命を賭けて自分を助けようとしているのだ、ロマンチックな展開に弱そうなシビリアンにはいいのかも。
そのまま戦闘になっても、アトラスにしたように力を与えればいい。
今の肉体からシビリアンの魂を抜き取り、さ迷う魂みたいに好都合な器の中にいれれば容姿だって誤魔化せられるので大丈夫。
「反論はないわね?一緒に行きましょうシビリアン」
「ありがとうございます!ミラジーノさんは他人を見下すだけではなくお優しいところもあるのですね!!」
ミラジーノの笑顔は一瞬にして「いい度胸だ、かかって来い」みたいな顔になっちゃたのから、ハイゼットは自らの肉体をミラジーノの前に差し出した。
本日三度目の爆音が城に響きわたる。
***
ハイゼットが再びミラジーノの攻撃で伸びた数分後、オッティの国では真剣な顔で会議は続いていた。
エッセが地図に名も無き島のこと、ヴァーサを書き足していた。
「この島は伝承によれば…」
そのヴァーサの城へ意識の半分を送っていたとは微塵も見せず、淡々と話を進めていく。
ハイゼットとミラジーノも幻影を作って、サボっていたのだけど。国王が開いた会議室に自分と幻影を融合させて元に戻り会議に参加した。
一気に幻影の記憶が流れ込んで、ハイゼットはここまで話が進んだのか…と心で呟く。
そろそろ会議は終わりそうだ、国王から資金やもろもろの援助の話も纏まっている。
後は明日の朝旅たつという、ふ~ん結構王様も迅速に行動にうつす。会議の評価はそんな所だった。
「では…苦しい旅とは思うが頼んだぞ」
会議の終わりには国王の激励と共に終了。内容はエッセが自分の思うがままに進めていたいので何の問題もない。
立ち上がり、国王は疲れた顔で会議室から出て行った。
国王の家臣たちも国王に続き、会議室には帰ってきたハイゼットとミラジーノ、そして幻影を消したエッセに何も知らないアトラスだけになった。
「大変なことになったな」
魔王は俺です、なーんて言えないハイゼットはアトラスにそ知らぬ顔で言う。
「うん、でも個人的に僕も魔王に会いたい」
ニッコリ爽やかなスマイルをアトラスはハイゼットに向けた。
魔王に簡単に負けた悔しさや憎しみが感じられない顔に、アトラスはくよくよしない性格なんだな。と勝手に思う。
「そうか、姫君も君の助けを待っているだろう」
ハイゼットの次にアトラスに話しかけたエッセに、アトラスは頷く。
「それもあるけど……どうしても僕はもう一度、魔王に会わなきゃ。だって」
決意を感じるアトラスの声にミラジーノは首を捻った。
「だって、僕は魔王のお嫁さんにして貰わなきゃ」
すぐに真実を受け止められないのは人間だけではなく、魔族も同じようだ。
3人は目を点にして、アトラスを凝視した。
今日は何かモテる~とは思えないハイゼットは、身を震わせた。
アレ?如何見ても魔王は男に認識してもらえるよね?君はソレか?君の村では女性の数は少ないから必然的に。
同性が君の恋愛対象かい?別に偏見はないよ?魔族だってあるもん。俺たちは違うけど。
愛し子の爆弾発言に、顔を青くするハイゼットに意識が何処かに飛びそうになったエッセ。
恐る恐るミラジーノは勇気をふり絞って聞いてみた。
「貴方は男の子だよね?男の人が好き…なの?」
キョトンとするアトラス、直ぐに笑顔になって。
「あれ?僕は女の子だよ。男の子に見えた?」
へ?
三邪王がいる会議室はアトラスの一言によって凍りついた。
いつも以上に文章が纏まりません、冷静になったら書き直します。
大気圏から土下座して御前に参りたい心境でございます。
そしてアトラスは女の子でした!さらに変な展開、次回をお楽しみに!!
楽しみじゃない…?はいその通りです。




