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寧々さん、藤吉郎を振る!~苦労して日本一の夫婦となり、死んだら過去に戻りました。もう栄耀栄華はいりませんので、浮気三昧の夫とは他人になります~  作者: 冬華
第2章 北近江編

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第68話 武衛様は、これ幸いに家督を譲る

永禄7年(1564年)5月下旬 和泉国堺 斯波義銀


……今、目の前に二つの書状がある。


一つは、祖父である義敦様からのもので、浅井の次男坊に嫁いだ娘……つまり、会ったこともない俺の叔母が産んだ子に斯波の名を名乗らせたいが良いかというもので、もう一つは信長から斯波の名を捨てるのであれば、尾張への帰国を認めるというものであった。


ゆえに、「捨てる者もあれば、拾う者ありか」と、一人でおかしくなり……笑った。


「おや?どうやら、ご機嫌のご様子ですな」


だが、そんなところに客人が現れた。京におわす公方様の元で働かれている細川兵部殿だ。大方、幕府に貸している京の我が武衛屋敷の家賃を支払いに来たのだろうと思いきや……


「武衛様。公方様からの書状にございます」


……と、頭を悩ます書状をもう一通目の前に差し出してきた。開けて目を通してみると、そこには俺に『管領』に就いて欲しいという要望が記されている。


「細川殿……。その件は再三にわたりお断りさせていただいたかと思いますが……?」


「武衛様。そのようなことはおっしゃらずに、何卒引き受けて頂けないでしょうか。公方様は、足利御一門の筆頭たるあなた様のお力を今こそまさに必要となされておられるのですから!」


足利御一門筆頭と言われて、もちろん気分が悪かろうはずはない。だが、国を失い、今や京から届けられるわずかな家賃収入を拠り所に日々を暮らしている俺に、一体何ができるというのだろうか。お飾りにされるのは、尾張ですでに懲りている。


「……折角のお話ですが、やはり某では任に能わず、ご辞退をさせていただきたく……」


「そんなことはおっしゃらずに、どうかお考え直し願います。某も、手ぶらでは帰れませんうえ!」


正直、細川殿が京に帰れようが帰るまいが、俺にとってはどうでもよい話であるが……このまま諦めずに居座られるのも困ったものだ。しかし、そうして困っていると、不意に先程まで俺を笑わせてくれていた書状のことが思い出されて、あることに気づく。


(そうか……厄介な荷物は人に押し付ければいいのだな……)


信長の要請に従い、俺は斯波の家督を寧々とやらの倅に丸ごと譲ることを決めた。そうすれば、管領という三好に睨まれる爆弾のような役職を引き受けずにも済むし、念願の尾張帰国も叶うのだ。名も、そうだ……これからは、津川義近とでも名乗ろう。


「武衛様?あの……いかがなさいましたか?」


「ん?ああ、すまぬ。実はな……俺は隠居することにした」


「え、ええー!な、なぜ、いきなりそのようなことを……」


まあ、細川殿がこのように驚くのも無理はない。何しろ、たった今決めたのだから。そして、次の武衛を……北近江にいるという寧々という叔母の子である万福丸としたことを忘れずに伝えた。ちなみに、まだ数えで2歳なので、管領職など務まるはずもない。これならきっと諦めてくれるだろう。しかし……


「寧々殿の……子ですか?」


……細川殿は俺の予想とは違う反応を見せた。


「おや?細川殿は叔母上をご存じで?」


「ええ……以前、織田殿の元に公方様の使者として赴いたときのことですが、寧々殿より見事なまでの持て成しを受けましてな。あと……あのとき伺った幕府に対する諌言は、片時も忘れたこともなく……」


とってもしみじみと語る細川殿を見て、一体どんな方なのだろうと俺も興味を抱いた。祖父からの書状では、歳は17というから大分年下だが……。

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