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寧々さん、藤吉郎を振る!~苦労して日本一の夫婦となり、死んだら過去に戻りました。もう栄耀栄華はいりませんので、浮気三昧の夫とは他人になります~  作者: 冬華
第2章 北近江編

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第65話 寧々さん、夫の隠し子疑惑に現実逃避する

永禄7年(1564年)3月下旬 近江国小谷 寧々


「しかし……その幸せは、長くは続きませんでした」


「どうかしました?寧々様。お気持ちはわかりますが……現実逃避をなされている場合ではないかと……」


慶次郎に呆れるように言われるまでもなく、そんなことはわたしも理解している。ただ……それでも言いたかったのだ。目の前にいる浮気の動かぬ証拠を突きつけられては。


「ねえ、慶次郎……やっぱり、これってそういうことなのよね?」


「相手の言い分をそのまま鵜呑みになられるのであれば、そうなりますな……」


この男の子は、まもなく生後1年になるというらしく、5月生まれの莉々より少しだけ年上だ。連れてきた老夫婦によれば、彼らの姪がかつて政元様と良い仲になって儲けた子という。


つまり、時系列を整理すれば、わたしは後からやってきて恋人を横取りした「泥棒猫」ということになるらしい。


「しかも、その娘とその両親が流行り病で死んだから、うちで面倒を見ろとはねぇ……」


「ある意味、その状況で生き残るのですから、この子は生き運を持っているのでしょうが……某が思うに、この話は怪しいのではないかと考えます」


「怪しい?」


「玄蕃頭様の性格を考えれば、もしそのようなことをなされていたとしても、放っておくとは思えないのですが……」


それはわたしも同じように思っている。政元様ならば、わたしに打ち明けないという判断をされても、せめて暮らしに困らないようにと、ここに来る前に手を打たれていると想像がついた。


但し……絶対にそうかと訊ねられたら、自信が持てずにいた。そうしていると……


「どうしたの?この男の子は?」


間が悪いのか、それとも問題が早く解決するからそっちの方が良いのか。疑惑の人がお城でのお勤めを終えて、わたしの目の前でお行儀良く座っている男の子を不思議そうに見た。だから、わたしは言ってやることにした。「おまえさまがお外で作られた子のようですよ!」と。


「えっ、なに……?意味わからないんだけど……?」


「意味が分からない!?自分で種をまいておいて、まだ惚けるつもりなの!」


「寧々様……どうか、お気をお鎮め下さい。まだ決まったわけではありませぬし、お腹の子にさわりますゆえ」


そして、わたしでは話にならないと判断して、何が起きているのかを慶次郎が説明した。だが……政元様は「身に覚えがない」とはっきりと言い切った。


「寧々……あの日、俺はそなたに誓ったではないか。『あなただけを愛させてほしい』と。それを違えるような真似をどうしてできようか」


「でも……その子は時期的に考えて、わたしと出会う前にできた子なのでしょう?それなら……」


「言っておくが、俺の初めては寧々、そなたなのだぞ。あの日、清洲のお城で俺を手籠めにして、童貞を奪っておきながら、何という言い草だ!」


「な……!?」


その言葉で慶次郎が噴き出して、あの日の光景が蘇ってきたわたしは……恥ずかしさのあまり怒りの感情が吹っ飛んだ。さらに、そんなわたしに政元様は改めて言う。「本当に身に覚えはない」と。


「……じゃあ、どういうことなのかしら?慶次郎、この子を連れてきた老夫婦は、確かにうちの人の子だと言ったのよね?」


「ええ、それは間違いありません。……あっ!そうだ。そう言えば、これが証拠の品だと言われておりましたな」


「証拠の品?」


それは一体何だろうと思っていると、慶次郎は預かっていたという脇差を差し出してきた。見れば鞘の部分に、確かに浅井家の『三つ折亀甲花菱』の家紋が刻まれていたが……政元様はそれを手に取り鞘から抜いたりもしながら確認していると、「これは兄の物だ」と言った。


元服の時に、久政様から与えられたものに間違いないと。


「それじゃ……つまり?」


「兄上の子ということだな……」


それはそれで、大変なことになるのは理解した。何しろ、それが真ならば、この子は猿夜叉丸様の兄君にあたり、家督継承争いの火種になり兼ねないからだ。


「と、とにかく、この件は父上にまずは相談してみるよ」


「ええ、その方が良さそうですわね」


この子には気の毒ではあるが、場合によっては始末しなければならないのかもしれない。そう思うと……何だか不憫で、今夜は眠れそうになかった。

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