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第42話 お松は、残された状況から推理する

永禄5年(1562年)7月上旬 尾張国清洲 お松


「……おかしいな。菜々さん、どこにいったのだろう?」


待ち合わせの時間を大分過ぎたのに姿が見えないので、わたしは柴田様のお屋敷に向かって歩いていた。菜々さんは、夫の気の合う友である藤吉郎殿の婚約者で、今日は新生活に必要なものを一緒に見て回る予定だったのだ。


「あれ?」


だが、そうして辺りを見回しながら歩いていると、不意に違和感を覚えて視線が固まった。その先にはどこか見覚えのあるようなかんざしが落ちていたのだ。


「これは……菜々さんが確か、藤吉郎殿から贈られたと言っていた物と同じよね?」


表通りから少し入り込んだこの場所は、容易に人目がつくような場所ではない。そして、さらにそこから奥へ進んでいくと、別の通りに抜けるのだが、その途中で折りたたまれた1枚の紙を拾った。


「何これ……?えっ!?」


開けて見ると……それは、犬山の織田信清が昨今噂となっている寧々という斯波の御落胤を攫うようにと書かれていた。


「もしかして……菜々さんは……」


急に居なくなってしまった菜々さんと残されたかんざし、それにこの落ちていた密書から、わたしは菜々さんが寧々姫と間違われて攫われてしまったのではないかと推理した。以前、藤吉郎殿はその寧々姫と一時期良い仲になっていたという話を夫から聞いたことがあったからだ。


「こ、これは、大変だわ!!」


わたしは、清洲のお城に向かって走り出した。何しろ、大名が誘拐を命じているのだ。少なくない人数で攫っていったことは容易に想像ができる。ならば、救出するには人手が必要だ。


「何者だ!」


「前田又左衛門の家内にございます。至急、慶次郎殿にお取次ぎの程を!」


「前田殿の?……わかりました。しばらくお待ちください」


城門で門番をする方は、どうやら夫の名を知っていてくれたようだ。それが勇名なのか、それとも昔、愚かなことをしたことに由来するのかはわからないが、今はそのようなことを言っている場合ではない。そうしていると……


「お松殿!どうしたのですか!?ま、まさか……ついに叔父を捨てて俺と一緒になる決意を?」


以前わたしに夜這いをかけてきた恥知らずの義理の甥が嬉しそうにして、その姿を現した。だから、つい言ってしまう。「そんなことには絶対にならないから、諦めて他の方と所帯を持つように」と。


「そんなこと言って、本当は叔父貴との夜には不満なんだろ?あのとき、俺にうっとりしながらそう言っていたじゃないか?」


「あ、あれは……忘れて!一時の気の迷いよ!!そ、そんなことよりも……慶次郎、これを見て!」


「ははは、照れたお松殿もかわいい……ん?これは!」


盛りのついた猫のような慶次郎の顔が、密書に目を通すなり一瞬で変わった。だから、加えてわたしは告げる。その密書が落ちていた近くで、菜々さんのかんざしが落ちていたこと、そして、その菜々さんは今、どこに行ったのかわからなくなっていることを。


「慶次郎。寧々様は一時期、藤吉郎殿と良い仲になっていたはずよ。だから、もしかして間違えられたんじゃないかと思って……」


「それは、俺も寧々様から少し聞いている。なるほど……犬山には二人がすでに別れていることは伝わらず、藤吉郎殿と仲良くしている菜々殿を寧々様と勘違いしたということは考えられるな。それで、待ち合わせの時刻からどれくらい経っているので?」


「今で半刻(約1時間)くらいかな。できるだけ急いでここに来たんだけど……」


「わかった!すぐに城中に居る者に声をかけて、救出に向かうことにする。お松殿は、このことは柴田屋敷に……」


「わかりました。慶次郎、くれぐれも菜々さんを助け出してあげてね!」


それだけ言って、わたしは慶次郎と別れて元来た道へ駆け出した。

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