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寧々さん、藤吉郎を振る!~苦労して日本一の夫婦となり、死んだら過去に戻りました。もう栄耀栄華はいりませんので、浮気三昧の夫とは他人になります~  作者: 冬華
第1章 尾張編

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第34話 寧々さん、里帰りする

永禄5年(1562年)5月上旬 尾張国清洲 寧々


いずれにしても、長吉を供に加えるか否かを判断しなければならない。そこで、わたしは久方ぶりに城下の実家に戻ることにした。直接本人に会う前に、まずは恋仲である妹ややに知っていることを聞くためだ。しかし、家の中から二人が睦み合っている大きな声が聞こえてきた。


「こ、声が大きいよ、やや。外に聞こえちゃうだろ!」


「だ、だって!そんなこと言ったって……」


「…………」


それゆえに、家の前で立ち尽くして、戸を開けることができずにどうしようと固まっていると、不意に視界の端に母の姿が目に入った。見れば、どうやらわたしと同じようで外で待っているらしく、「こっちにこい」と手招きしていた。


「母上……あれは」


「目をつぶってあげて。もうすぐ弥兵衛殿は北近江に旅立たれるらしいの。だから、せめて思い出を作りたいっていうことらしく……」


「えっ!?その話、まだ決まってないんだけど?」


「えっ!?」


わたしの言葉に驚く母は、長吉が北近江に行けば、もう二度と会えなくなるかもしれないし、別の女性と結婚することもあり得るからと、ややに言われてこうして家を空けることにしたらしいが……これはおそらく、ややの詭弁だ。


(あの子、昔っからずる賢い所があるからね……)


本当の目的は、こうやって既成事実を作って半ば強引に一緒になろうという魂胆だろうと推測するが、それよりも今は怒りに任せて突入しようとする母を止めるのが先だ。


「放して、寧々!あのバカ娘を叱らなければ!!」


「母上!やめましょう!そんなことをしても、もう手遅れですから!!」


そして、わたしは母を強引に連れて、一先ず浅野の伯母上の家へと向かった。一応事情は話したが、伯母上はため息を吐いただけで、「仕方ないですね」とだけしか言わなかった。


「それよりも、寧々。花楓殿より聞きましたよ。お城での活躍、さらには今度、お市様の筆頭侍女として、北近江の浅井家へ行かれるのですってね?」


本当に誇らしいわと喜ぶ伯母を前に、隣で母が「えっ!?」と驚いているが、わたしは気にせず「はい」とそれが間違っていないことを肯定した。


「ど、どういうことなの?寧々が……お市様の筆頭侍女?」


「あら?最近、町で評判になっているというのに、こひは知らなかったの?」


「し、知らなかったわ。で、でも、どうしてうちの寧々が?」


すると、戸惑う母に伯母は丁寧にこれまでお城で何があったのかを説明した。いつの間に身に着けたのか知らない高い教養で、幕府の使者を持て成し、帰蝶様やお市様に茶の湯を指導し、挙句、此度の浅井家との盟約を交渉してきたことを。


「まあ、そんなことがあって、寧々はどこかのやんごとなき殿方の御落胤と噂されているんだけど、こひ……何か心当たりはない?」


「そう言えば、あなた若い時に守護様のお屋敷に奉公していたわね」と伯母に言われて、母は赤面した。聞いていた話では、そこで父と出会い、結ばれたということだったが……


「じ、実は、昔、一度だけ……斯波様に。寧々が生まれる十月前だったかしら……」


「「えっ!?」」


どうやら本当に心当たりがあったらしく、わたしと伯母は供に声を上げた。もし、これが本当なら、わたしは亡き尾張守護、斯波義統様の御落胤ということに?


「いや……実は義統様ではなく、その前のお方で……」


「はあ!?その前って……もしかして、義敦様ってこと!?でも、寧々が生まれた頃でもかなりのおじいちゃんだったはずよね?」


「そ、そうなんだけど……老いて益々盛んなお方だったというか……もうとにかく凄かったのよ、本当に」


何が凄かったのかおよそ想像は点くが、正直娘としては聞きたくない話だ。さらにいうと、その義敦様はまだ生きているという。一体何歳だ!?


「どうする、寧々。会いに行きたい?」


母は苦笑いを浮かべながらそう訊いてきたが、わたしは顔を引きつらせるのが精一杯で、答えることはできなかった。

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