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寧々さん、藤吉郎を振る!~苦労して日本一の夫婦となり、死んだら過去に戻りました。もう栄耀栄華はいりませんので、浮気三昧の夫とは他人になります~  作者: 冬華
第4章 越前編

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第234話 寧々さん、お稲さんの研究所を訪問する

元亀2年(1571年)4月中旬 越前国府中郊外 寧々


叡山問題については、松永様と十兵衛殿が後を引き継ぐと約束してくれたので、わたしは安心して虎哉和尚や慶次郎と共に、この越前府中に帰ってきた。帰ってきたのだが……


「なんでまた、こんな所に住み着くのよ……お稲殿は」


ここは以前、富田弥六郎が籠っていた廃寺。どういう理由なのかはわからないが、お稲殿は勝手にこの場所に移り住んで、研究を行っていると天海から報告があった。ただ……廃寺は廃寺だけあって、見た目からしてボロボロ。雨露を凌げるのかすら、怪しい限りだ。


「お稲殿!寧々です。開けてもらえませんか?」


その中でも比較的無事な小屋の前に立ち、わたしは大きな声を上げてそう呼びかけた。弥六郎はこの小屋を住処にしていたので、ここに居ると思い込んだのだが、入り口には以前なかった扉が鍵付きで掛かっている。もちろん、試しに押したり引いたりもしてみるが、びくともしなかった。


「おかしいな……」


さらに、返事もないので、いっそのこと蹴破ろうかすら思ったりしていると……お稲殿はその小屋からではなく、全く見当違いな場所から姿を現した。「あんた、何をしているんだい?」と言いながら。


「あれ?ここに居るんじゃなかったの?」


「そっちは試験棟さ。カビを培養しているんだ」


「カビ!?」


なんでそんなバッチイものを培養しているのか。わたしは意味が分からず、理解に苦しんだ。すると、お稲殿はこれも半兵衛の治療薬を開発するために必要なことだと言った。


「でも、レンズとかいう物を作っていたんじゃ……」


「ああ、あれならとっくの昔に作り終えたよ。借りていた眼鏡は壊れちゃったけど、おかげで肉眼では見えなかった生き物がはっきりと見えるようになってね。今は、カビに住み着いている連中を調べているのさ」


「はあ……」


何でそんなものを調べているのかはわからないが、わたしはそれ以上深く考えるのを止めた。どうせ、聞いてもわからないだろうし、何より話が長く成る予感がしたからだ。あ……義昭公に眼鏡を壊したことへのわび状が必要なことだけは、理解しないといけない。


「それで、足りないものはない?何だったら、この廃寺の側に寝起きできる家でも建てようか?あと、身の回りを世話する人も付けて……」


「そうしてもらえると助かるわ。いやあ……本当言うとね、どうしようかって困っていたのよ。」


困っているのなら先に相談してくれと思うが、そういえばわたしは、このお稲殿には黙って叡山に行っていたことを思い出した。ならば、前世から友達がいない彼女のことだ。きっと、誰かに頼ろうと思っても、その術がわからなかったのだなと理解した。


「お稲殿は友達いなかったのよね?ごめんね、気づいてあげられなくて……」


「おい……あたしに友達いないと勝手に決めつけるなよ!」


「え?違うの?」


「友達くらい居るわ!」


お稲殿はそう言いながら、お市様とお勝殿の名を挙げた。例の春画の一件で仲良くなったらしい。


ただ……本人は「どうだ!」と言わんばかりに勝ち誇ったような顔を見せるが、わたしからすると「たった二人だけ?」と思ってしまう。


「なによ……」


「いえ、別に……」


だが、それを指摘したところで何かが変わるとは思えず、わたしはそれ以上何も言わずに、頼まれたことをできるだけ早く手配すると約束した。だが、そうしていると……


「おや、ここで一夜を明かそうかと思っていたら、先客がいたか……」


……などと呟く老僧と、綺麗な巫女のような女がすぐ近くに立っていることに気が付いた。


「ええ……と、どなたかしら?」


もしかしたら、この廃寺で二人は熱い夜を過ごすつもりだったのかもしれない。そんなことだったら申し訳なく思って確認したのだが、答えが返って来る前に無人斎が抜刀してその老僧の首元に刃を突きつけた。


「何しに来た!晴信!!」


そんなことを言い放って。

お読みいただきありがとうございます。

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