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寧々さん、藤吉郎を振る!~苦労して日本一の夫婦となり、死んだら過去に戻りました。もう栄耀栄華はいりませんので、浮気三昧の夫とは他人になります~  作者: 冬華
第4章 越前編

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第220話 武僧は、孔明の罠に嵌まる

元亀元年(1570年)12月下旬 越前国北の庄 杉浦玄任


この足羽川の畔に布陣して今日で3日目。昨日、一昨日と同じように、一人の女武者が騎乗したまま川の畔で我ら一揆勢と睨み合っている。


その周囲には、浅井の兵の姿はないため、一体彼女は何をしたいのかがわからない。わからないが……わかっていることがあるとすれば、これはきっと半兵衛の罠だということだろう。それゆえに……


「何を迷われる必要がありますか!罠があったとしても、我が方は10万を越える兵がおるのですぞ。さっさと川を渡りましょうぞ!」


……などという、部下の進言を却下して、今日も彼女の観察に徹する。あ……今、あくびをした。


「ぬぬぬっ!馬鹿にしおって!」


「おい!?どこに行く!」


「知れたこと!ここまでコケにされた以上、あの女武者を取り押さえて、皆の見ている前で手籠めにして御覧に入れます!」


「何を馬鹿なことを!止めよ!戻れ!大将である儂の命であるぞ!!」


しかし、そう大きな声で命じても、鏑木右衛門尉は止まらず、一騎掛けで女武者の前に躍り出た。それゆえに、もうどうすることもできずに事の成り行きを見守っていると……その鏑木はたった薙刀を一振りされただけで首を飛ばされて、討ち取られてしまった。


「お、おい……嘘だろ。鏑木様って、それなりにお強いお方だったよな?」


「ああ……尾山御坊の槍術大会で、確か準優勝されていたはずだ」


「すると……あの女武者って、強いのか?」


儂の周りからもそのような声が聞こえて、明らかに兵が動揺していることが伝わる。ゆえに仕方なく、側にいた鈴木出羽守に頼むことにした。あの者を討ち取るなり、討ち取ることができなくとも、手傷を負わせろと。


「畏まりました。では行って参ります」


いつもの通り、冷静沈着。但し、この男が強いことはこの場にいる誰もが知っていることだ。だから、何も問題なく此度も任務を果たして帰ってくる……そう思っていたのだが、その鈴木出羽守も、鏑木同様にたった一太刀で首を飛ばされてしまった。


「ひ……ひぃ、化け物だぁ!!」


「勝てない!巴御前が化けて出やがった!もうだめだぁ!!」


10万と数だけは多いが、所詮は烏合の衆。こちらが思った以上に狼狽えてしまって、広がり続ける混乱を収拾するのにそれから時間をかなり要することになった。


幸いなことに、浅井軍に動きがなかったため、総崩れとなることはなかったが、もうすぐ日が暮れる時間帯となったため、今日の戦はこれまでとして、川岸を見張る者たちを除いて夕餉の支度に取り掛かるように命じた。


「どう思う?若林殿。儂には、浅井の狙いが今ひとつわからないのだが……」


辺りもすっかり暗くなり、儂は飯を食べながら、参謀の若林長門守に訊いてみることにした。もしかしたら、何か見落としていることが見つかるのではないかと思って。


ただ、酒に酔ったのか。若林殿は冗談めかしく言い放つ。「あの女武者、別嬪やったのう。できるならば、生け捕りにしたいものだ」などと。


何のために生け捕りにしたいのか。それは聞かなくてもわかる。だが、儂が聞きたいことはそんなことではなくて、浅井は……竹中半兵衛は、何を企んでいるのかということだ。すると、今度こそ真面目に彼は答えてくれた。


「そうじゃのう……織田からの援軍が来るのを待っているか。あるいは……」


「あるいは?」


「儂らの足をここに止めることで、何か別の罠に嵌めようとしているのか」


別の罠?それは一体何なのか。そう思った矢先のことだった。遠くからではあるが、騒がしい声が聞こえ始めたのは。


「申し上げます!」


「どうした。何やら騒がしいようだが?」


「夜襲です!浅井勢が夜襲を仕掛けてきました!」


「「なに!?」」


その伝令曰く、浅井軍の渡河地点はここより少しばかり上流だが、夜襲よりも寧ろ、その際に点けられた火があちらこちらに燃え広がっていることが一大事だということだった。


「火が……燃え広がっている?」


それを聞いて、先程の若林殿の言葉が蘇る。加えて周囲を見渡せば、これまで気にしていなかったが、藁や甕がやたら多いことに気が付いた。そして……甕の中には水ではなく、油が入っていると若林殿が声を上げた。


「まさか……これが狙いだったというのか……」


今日は風が強く、方向は東から西に吹いている。このままでは、半兵衛の狙い通り、我らはこの地で焼け死ぬことになるだろう。


「若林殿!全軍に即時撤退を命じます!」


「承知した!すぐに皆に伝えます!」


もう手遅れかもしれないが、まごまごしている時間が長くなればなるほど、犠牲者の数は増えるだけだ。儂もできるだけ多くの者に伝えるべく走り出したのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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