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寧々さん、藤吉郎を振る!~苦労して日本一の夫婦となり、死んだら過去に戻りました。もう栄耀栄華はいりませんので、浮気三昧の夫とは他人になります~  作者: 冬華
第4章 越前編

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第217話 武僧は、越前侵攻の大将を拝命する

元亀元年(1570年)12月上旬 加賀国尾山御坊 杉浦玄任


大坂で顕如様が立たれた——。


その知らせがこの加賀に届いたのは、先月初めのこと。石山の本願寺を明け渡すように求められたことがトドメとなり、四国から戻ってきた三好勢と戦闘中だった織田勢の横っ腹をついたということだった。


以来、この尾山御坊では、織田の同盟国である越前の浅井を攻めるべしという声が日増しに強くなっていた。それは儂も知っている。さらに言えば、先日その戦に勝ったという知らせももたらされている。たぶん、投票を今行えば、半分以上の門徒が開戦に賛成するだろう。


しかし、浅井には今孔明と名高い軍師、竹中半兵衛がいるのだ。罠に嵌められて、若狭の湖に浮かぶことになった朝倉景垙のことを思えば、東から上杉が迫りつつある今、軽々に出兵するなどありえない話だ。


「しかも、越前の反乱は残る所、豊原寺の前波播磨守のみ。これでは、流石に時機を逸したと言わざるを得ない。せめて、朝倉の旧臣たちがもう少し健在の時に連携するなりできれば、まだ多少は……」


そう言いかけて、儂はそれを未練だと割り切り止める。今更言っても仕方がないし、それすらもきっと半兵衛の掌の上だろう。わざわざ飛び込まなかったことこそが、勝利であると思うことにするしかなかった。


だが、そう思っていた矢先に、儂はこの加賀における一向宗の代表たる下間頼総様に呼ばれた。そして、脇には主戦派の七里頼周がいるのが見える。はっきり言おう。悪い予感しかしない。


「玄任。その方を越前攻めの大将に任じる」


「お、お待ちください。それは……先日も、勝ち目がないと申し上げたばかりではございませんか」


きっと、頼周が焚きつけたのだろうと思うが、流石に負けると分かっているのに引き受けるわけにはいかない。だから儂は、改めて勝算がないことを頼総様に説明した。現状、収束に向かいつつある朝倉旧臣たちの反乱の状況を交えて。


しかし、儂のそんな声は届かない。


「玄任殿。これを見られよ」


「これは……顕如様の」


得意気に頼周が差し出した書状の署名と共に記されている花押は疑いようのなく本物で、そこには「越前を攻めて織田の目を北に向けよ」とあった。そして、顔を上げると……頼総様の顔に疲れが滲み出ていることに気づく。


「……すまぬ。そなたの言うことはもっともである。しかし、このようにご聖断が下った以上は、従うしかあるまい」


その言葉は正しく、こうなると儂も拝命しないわけにはいかない。但し、その前にこの元凶たる頼周を睨む。このジジイ、余計なことをしやがってと。


「おお、恐ろしや。そのように儂を睨むとは。……しかしな、玄任よ。これは、この加賀の民意よ。そなたも知っておろう?皆が顕如様の御為に立ち上がりたいという声を。儂は、その想いを代表して、顕如様にお伝えしただけだ。文句を言われる筋合いなどないと思うがの」


「だが、開戦が民意とは限らないだろう。全ての民に聞いたのか?」


「聞くまでもないでしょう。この寺内にも、町や村にも、顕如様をお助けすべしという声であふれておりますぞ。それとも……もしかして、耳が悪うなって聞こえなくなったのですかな?」


「…………」


だめだ。そもそも、話が通じる相手ではない。この上は、できるだけ損害が出ないように戦うしかないだろう。それにしても、民意か……。


「どうした?玄任よ。もしや、顕如様の命を拒絶するというわけではあるまいな?」


「……委細承知しました。謹んで、大将の任を拝命いたします」


ならば、滅びるのもまた民意だろう。此度の戦を仮に乗り切ったとしても、そう遠からずこの加賀は滅びることになるだろうなと、頭を下げながらそう予感した。

お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 浄土真宗も、石山本願寺と政治にこだわって滅びる寸前までいくのに、気づかないのが現実の歴史。 Ifのこの世界、蓮如聖人に寧々さんが気づかせて、民主の被害を抑えるのか、楽しみです!
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