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第21話 寧々さん、出張を命じられる

永禄5年(1562年)3月上旬 尾張国清洲城 寧々


「えっ!わたしが浅井家との交渉の使者に!?」


いやいや、流石にそれはないだろうと率直に思った。だから、城中でその噂を聞いたとき、藤吉郎殿との一件で塞ぎ込んでいると思われているわたしの気持ちを紛らわすための冗談だと思っていた。それなのに……


「失敗しても罪には問わぬし、何だったら事の正否に関わらず、褒美もやろう。どのみち、すでに斎藤家に遅れを取っているのだ。同盟を締結できるのであれば、その条件もそなたに一任しよう」


「そんな投げやりな……」


お屋形様よりそう直々に言われてしまえば、もはや冗談だと笑い飛ばすわけにはいかない。そして、この織田家の侍女に過ぎないわたしは、この命令を拒むことはできないため、「承知しました」と答えて、部屋を後にした。


(それにしても……わたしが交渉役をね……)


正直言って、戸惑ってはいるものの、できない話ではないと思っている。何しろ、前世であの人が死んでから、豊臣と徳川の間を幾度となく取り持ってきたという自負もある。だが、問題は同盟の条件だ。


「それにはまず、お市様のお気持ちを確認しておかないと」


きっと、交渉の過程で『婚姻同盟』の話は出てくるはずだ。そして、そのとき当主備前守長政様の妻にと望まれるのは、きっとお市様だ。だからこそ、先に話を通しておく必要があると考える。嫌ならば、他の方に犠牲になってもらうように計らわなければならないと。


だが……それは杞憂に終わる。


「寧々。わたしは、あなたを一番信頼しているの。だから、備前守様に嫁ぐも嫁がないも、あなたに一任するわ」


わたしからの説明を聞き終えたお市様は、全てをわたしの判断に任せると言ってくれた。それだけに、責任重大だ。しかも、この後の展開を知るだけに、果たしてどうすればよいのかと悩みも生まれる。


(浅井長政殿の妻となったお市様が不幸の下り坂を転がられるきっかけは……)


それは、もちろん浅井長政殿の裏切りだ。だが、その裏切りの原因は、父親である久政殿にあったと前世では耳にしていた。それゆえに、もしお市様が嫁がれることになるとしたら、この久政殿をいかに後腐れなく排除、あるいは始末するかというのが課題となるだろう。無論、説得できれば一番良いのだが……。


「難しいかなぁ……」


「どうかなさいましたか?寧々殿」


「あれ?慶次郎殿……?」


お市様の居室を出て、自分の部屋に戻ったところで、彼がそこに座っていることに気が付いた。それゆえに、一体どうしたのかと思っていると、此度の交渉に際してわたしに付けられた護衛だという。


「それは、頼もしいわね。でも、それだとしばらくはこの清洲を離れることになるけど……例の人妻さんとはもういいの?」


「実は……先日夜這いに失敗しまして……」


「よ、夜這い!?」


「いやあ、しくじりました。何だかんだとあと一歩の所まで言ったのですが、泊まりで外出していたはずの旦那が運悪く帰ってきまして。顔を見られなかったのが不幸中の幸いでしたが……」


それでも、その旦那が叔父である利家なのだから、居心地が悪い。ゆえに、今回の同行は慶次郎にとっては都合もよく、一も二もなく引き受けたという。


「でも、諦めませんよ。いつか必ず、この腕の中に抱いてみせますよ」


「そう……そうなるといいね」


前世では、この野望はかなうことはなく、二人は自分よりも先に別々の場所で旅立っていった。しかし、だからといって同じ結末になるとは限らない。自分に関係ない世界でがんばってねと、心の中で応援するのだった。

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