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第20話 信長様は、妻の相談に耳を傾ける

永禄5年(1562年)3月上旬 尾張国清洲城 織田信長


その日の夜は、帰蝶の部屋にいる。まだ寝るには少し早いため、柱に体を預けて考えに耽っているのだが、その姿は傍から見れば暇そうに見えたのだろう。


「寧々の見合いの件なのですが……」と、帰蝶の相談を半強制的に受けることになった。


「すると……寧々の見合いは失敗したというのか?」


「そうなのですよ。中々の器量よしを選んでいたので、上手く事が運ぶのではと……市殿と影から様子を見ていたのですが……」


はぁとため息をついて、帰蝶は言う。「上手くいかないものですね」と。だが、適当に相手はしているものの……今の俺にとっては、どうでもよい話だった。


(そんなことよりも……)


目下の悩みは、美濃をどうやって手に入れるのかということなのだが、斎藤家には竹中何某(なにがし)とかいう知恵者がいるらしい。昨年の合戦でも散々その男に振り回されたが、今度は外交面でもヤツの後塵を拝すことになったようだ。


こちらの味方にして、美濃を西から牽制してもらおうと考えていた北近江の浅井家と斎藤龍興が同盟を結ぶ兆しがあるという知らせが今日舞い込んだのだ。もし、同盟が成立すれば、美濃の背後は盤石なものとなり、今以上に手に入れることは難しくなるだろう。


「はあ……本当に困ったものだな……」


「ですが、だからと申して、手をこまねいてばかりでは、何も変わらないわけで……」


碌に話を聞いていないのだが、偶然に会話が成り立ったため、帰蝶は引き続き寧々の見合い相手について自分の意見を語り始めた。何度も思うが、「寧々の見合い話」など、まさにどうでもよい話だ。


しかし、それを口にすれば、傷つくだろうと考えて、「これも夫の義務だ」と割り切って少し付き合うことにする。そして、帰蝶の出した結論は……


「なに!?その慶次郎ともう一度見合いをさせるだと!」


寧々が断ったのだから、それは無理筋なのではないかと言ってみるが、帰蝶が言うには、一度くらい会って話したところで、そもそも相手の何がわかるのかということらしい。つまり、勝負はこれからだと。


「そういうことなので……二人が仲良くなれる方法を一緒に考えて頂けないでしょうか?」


「二人が仲良くなれる方法ねぇ……。そういえば、俺たちはどうやって仲良くなったっけ?政略結婚だから、初対面だったし……」


「確か……夕日が沈む海を見に、一緒に出掛けませんでしたか?」


「そうだったな。あの道中にお互いのことを色々話したのだったな。……あっ!」


「お屋形様?どうかなさいましたか?」


その時不意に脳裏に浮かんだことがあった。それは、浅井家との交渉を寧々に任せてはどうかということだ。道中、慶次郎を警護に付ければ、きっと互いのことを知るきっかけになると。だから、不思議そうに見つめる帰蝶にそのことを説明した。


「それでどうだ?」


「どう……って、それって重要なお役目ですよね?寧々にそのような大役を任せて大丈夫なのですか?」


確かに寧々は、あらゆる教養に通じている稀有な女性ではあるが、外交までできるとは限らない。いや……普通に考えれば、できないと思った方が正しいのだろう。


そして、そのような責任重大なお役目を与えて失敗したらどうするのかと、帰蝶が心配する気持ちも理解できる。しかし、すでに龍興の後塵を拝している以上、ダメで元々だ。俺の腹は既に決まっていた……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今、20話まできたけど面白い。 やっぱり小説は口語じゃないと読めねえな。
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