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寧々さん、藤吉郎を振る!~苦労して日本一の夫婦となり、死んだら過去に戻りました。もう栄耀栄華はいりませんので、浮気三昧の夫とは他人になります~  作者: 冬華
第4章 越前編

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第193話 樋口は、襲われる

元亀元年(1570年)6月中旬 近江国坂田郡 樋口三郎兵衛


領内の村々を回り、国替えのことを説明しているうちに、もうすぐ日が暮れようとしている。領主が代わることに不安を覚える者が多くて、予定通りに事が進まなかった結果だ。


「ご家老。今日は無理をなさらずに、近くに寺もございますれば、そちらにお泊りになられた方が……」


だが、手綱を引いてくれている八郎右衛門がそう優しい言葉を掛けてくれるが、明日は朝から評定があるゆえに、今宵のうちに鎌刃城に戻らなければならず、俺は首を左右に振った。家中には、今回の国替えに納得できない者も少なからず、説得を行うために集まってもらったのだ。今更中止になどできない。


「それにしても……なぜ、皆、反対されるのでしょうか。石高も増えますし、某には理解できないのですが……」


そういう八郎右衛門は、領地を持っていない足軽だ。それゆえに、そう思うのも無理はないかもしれないと思い、俺は説明した。皆、先祖代々受け継がれていた土地こそが全てであり、この土地を守るために、強き者……つまり主君に従っているのだと。


「それゆえな……自分たちの土地を守ってくれなければ、主君に従う理由はなくなるわけで、話が違うと声を上げるのは無理からぬ話だな」


「それでは、ご家老も本心では反対なのですね?」


「そうだな……」


俺の本心か。寧々様とお話して心を決めたはずなのに、こうして毎日あちらこちらで反対されて、その決心が揺らいでいないと言えば嘘になるだろう。だが、評定を経て浅井家としての方針が決した以上は、従わなければ堀家は潰されるのは間違いない話だ。


ならば、反対もクソもないではないか。そう思い直して、俺は揺らいでいた心に喝を入れた。だが、そうしていると……


「ご家老……」


「ああ、囲まれているな」


この谷を抜ければ、城下に入るという場所で、俺は何者かに襲われる気配を感じた。案の定、矢が飛んできて……それが側にいた八郎右衛門の体に突き刺さった。


「八郎右衛門!」


慌てて声をかけるが、彼は何も答えずにその場に崩れてしまう。そして、同時に抜刀した男たちが何十人もこちらに向かって走ってくるのが見えた。


「くそ!木曽川の時を思い出すぜ!」


あのときは、遠江守様が居て、大蔵大輔様も一緒に居られた。それを懐かしく感じながら、此度はただ一人で敵に立ち向かうことになった。俺は近づいてくる敵を刀で斬り伏せながら、正面を突破しようと前へ進む。


(城下にさえ辿り着ければ……)


しかし、そのことはもちろん敵も承知で、その壁は分厚く突破するのは容易ではなさそうであった。そこで、俺は仕方なく反転して元来た道を北へ向かうことにした。そちらの方にも敵がいないわけではないが、数は少ないと判断して。


「待てぇ!」


その目論見はどうやら正しかったようで、俺は何とか囲みを突破して天野川の畔までたどり着くことができた。後ろを振り返って誰も追ってこないことを確認してから、俺は馬を下りて腰を伸ばした。そして、喉が渇いたので、水を飲もうと腰に下げていた竹筒を取ろうとした……その瞬間だった。


ダーン!


「あれ……?」


銃声が聞こえたかと思ったら、背中から腹に突き抜けて痛みが走り、立ってはいられなくなる。次いで、そのまま前のめりで崖を転がり川に落ちて、冷たい感覚が体を包み込む……。


(まずい。このままだと……)


痛みに耐えながら何とか浮上しようと足搔いてみるものの、梅雨によって増えた水は俺を上から押し込んでいき、思うようにはいかない。腹に喰らった銃撃による傷は、今の所は致命傷とまでではないが、このままではきっと溺れてしまうだろう。


(くそ……こんな所で、俺は死ぬのか……)


最期に思い浮かべたのは、大蔵大輔様や遠江守様、寧々様や慶次郎たちと過ごした楽しき時の思い出。人はこうして死ぬのだなと思って……ついに限界を迎えた俺は、意識を手放したのだった。

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