表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
寧々さん、藤吉郎を振る!~苦労して日本一の夫婦となり、死んだら過去に戻りました。もう栄耀栄華はいりませんので、浮気三昧の夫とは他人になります~  作者: 冬華
第3章 金ヶ崎編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

180/1044

第173話 寧々さん、また政変に巻き込まれる (4)

永禄12年(1569年)1月上旬 京・本国寺 寧々


その軍勢は、紛れもなく浅井の軍勢だった。


「え……?これは、寧々様!」


そして、わたしの姿に気づいたのだろう。先頭集団の中心にいた磯野殿が馬を下りて、こちらに向かってくるのが見えた。だから、わたしも下馬して迎えることにした。


「それにしても、どうして浅井の軍勢がここに?」


「それが……」


何とも言えないような苦笑いを浮かべながら、磯野殿が語るには、年末に勅使が小谷に来て、左京大夫に任じられた長政様は、そのお役目を果たすために上洛すると急遽言い出したそうだ。左京大夫は確かに京を守護する役職ではあるが……


「それって……」


「はい。十中八九、勘違いなされておいでです」


与えられた官位は、あくまで名目上のものなので、本当に在京する必要はなかったのだが、長政様はそうとは取らなかったらしい。もっとも、それがわかっているのなら、何で止めないのかと思うが……猪突猛進な殿の性格を思えば、どなたの言葉も届かなかったことは容易に想像がつくし、今の状況ならば、来てくれて正解かもしれない。


「それで、殿は?」


「間もなくこちらに来られると思いますが……あ、来られましたな」


わたしが見る限り、浅井の武名を天下に轟かせるには、今は絶好の機会だ。長政様が義昭公に拝謁して、共に轡を並べて三好の残党を征討する。そうすれば、誰も軽くは見ないであろう。そういう絵図を描いて、わたしは思いっきり手を振った。


「寧々殿?何でここに……?」


「それは後で説明します。それよりも……」


先程の磯野殿と同じく、長政様も不思議そうにされてはいたが、わたしは構うことなくその手を引き、義昭公の下へ連れて行った。


「上様、北近江より我が義兄、浅井左京大夫が罷り越しましてございます」


「浅井?」


義昭公は先程と変わらず、馬のことを巡って明智殿と言い争っていたが、長政様とその背後の軍勢を見て、表情を一変させて喜んだ。そして、わざわざ膝を折り、その手を両手で握りしめて言った。


「浅井よ。よくぞ余の一大事に駆け付けてくれた。この義昭、その方の忠義をまこと嬉しく思うぞ!」


「ははあ!ありがたき幸せにございます!」


浅井は前回の上洛で左程の活躍はしていないと、この京に来て耳にしたことがあった。しかし、これならばその評判をここで一気にひっくり返るだろう。そして、思惑通りに義昭公と長政様は轡を並べて、この本国寺を発たれることになった。


「皆の者!我らは恐れ多くも、公方様を守護する正義の軍勢であるぞ!そのことを心に刻んで……全軍、進めぇ!!」


「「「「「おう!」」」」」


無論、その軍勢にはわたしも加わる。長政様からは念を押すように、「後で説明しろよ」と再び言われたが、取りあえずそれは全て後回しだ。すると、明智殿が近づいてきてわたしに囁いた。「全部、寧々殿に持って行かれましたな」と笑って。


もちろん、それは決して悪気のある言葉ではないと理解したが……わたしは、はっと思い出した。


(そういえば……明智殿が信長様に引き抜かれるきっかけになったのって、この戦いで活躍したことが評価されたからだったような……)


そして、改めて今回の一件を思い返してみると、活躍したのはわたしや慶次郎、それに今こうして駆けつけてきた長政様であって、明智殿と言えば、義昭公と共に米蔵に隠れていたという印象しか残っていなかった。


(あれ……これって、明智殿の出世の目を潰しちゃった?)


「ん?どうかされましたかな?」


「いいえ……何でもありませんわ」


わたしは、咄嗟に取り繕ってそう答えはしたが、内心では申し訳ない気持ちでいっぱいになった。ただ……そう悩んでいるうちに、もう一つの事実にも気が付いた。それは、明智殿が出世しなければ、本能寺の変は起こらないということだ。


(これって、どうなるの?)


前世と違う展開になりつつある現状にわたしは、今は傍にいない半兵衛の知恵を借りたくなるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ