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第168話 寧々さん、また政変に巻き込まれる(1)

永禄12年(1569年)1月上旬 京・本能寺 寧々


主上が最後に申された「考えておく」は、関西特有のお断りを意味する言葉ではなかったようだ。


年が暮れる直前に長政様は『従四位下左京大夫』、うちの人は『正五位下大蔵大輔』に昇進することが決まり、それぞれ勅使がこの京より派遣された。あとで二条様から聞いた話だと、「主上はどうせ名ばかりだから」と、大盤振る舞いしてくれたらしい。ありがたい話だ。


そして、これで京にて行うべきことを全て終えたわたしたちは、今、義昭公に別れの挨拶をするため、この本能寺を訪れていた。予測通り、年を越してしまったが、これから帰れば加奈様の出産には間に合うはずだ。途中、坂本に立ち寄って、陽姫様を義輝公の元に送り届けても。


ちなみに、義昭公に挨拶をするのは、従三位昇進への口添えを頂いたことに対するお礼を兼ねている。本音を言えば、また徳利の話を持ちだされそうなので、来たくはなかったのだが、のちのことを考えて、わたしは我慢をすることにした。しかし……


「……遅いわね」


こうして広間で義昭公をお待ちしているのだが、お約束していた時刻を大分過ぎているというのに、お姿は一向に現さなかった。加えて言うならば、廊下の外は物々しく、さっきからドタバタもしている。


それゆえに、何か不測のことが起きているのだろうとは思ったが、せめて誰か説明に来てくれとは思う。まあ……前回の訪問時にやらかしたことがやらかしたことなので、その辺りは強くは言えないが、それでもすでに1刻(2時間)近く正座で待っているのだ。そろそろ足の方も限界が近づいている……。


「春日局様……」


そうしていると障子が開き、明智殿が姿を現した。ただ、その呼び方にわたしは眉をしかめた。


「明智殿。その名はどうか内裏の中だけに。わたしは上様の乳母になるつもりなど……」


「そのお話は面白いので色々とつつきたいのは山々ですが……それどころではありません。どうか、このまま本国寺にお移り頂きたく……」


「本国寺?」


どこかで聞いたことがある名前だと思って、わたしは記憶を辿る。確か六条堀川にある寺で、義昭公が入京時に最初に御座所とした場所であるが……それ以上に何かが引っ掛かった。


「あっ!」


「どうかされましたか?寧々殿」


「い、いえ……なんでもありませんわ」


訝し気に見つめる明智殿に対してそのように誤魔化したが、わたしは前世の記憶を思い出して顔を青くした。これは……『本国寺の変』だと気づいて。


「あの……上様がお忙しいのなら、また日を改めて……」


それゆえに、わたしはそう申し上げて、関りを持つことを拒もうとした。そう……アレに徳利を被せたことは悪いと思っているけど、だからといってそんな物騒な所に行くほどの義理はないとは思う。だが、明智殿は……それを止めた。


「寧々殿。これは、あなたのためにと思って申し上げているのですが?」


「わたしのために?」


そして、首をかしげるわたしに明智殿は、すでに京の出入り口が全て三好の軍勢によって塞がれていること、そしてなにより……三好日向守はわたしの首を所望しており、持参した者には城一つを与えると公言していると説明してくれた。


そのため、三好の兵に限らず、わたしは命を狙われているという。


「どうして!なんで、わたしの首にそんな大層な物が懸かっているのよ!」


「それは……先の二条御所の戦いで、三好日向守の嫡子を寧々殿が撃ち殺したからでしょうな。物凄く期待されていたご子息だったそうなので、きっと仇を討ちたいということだと思われますが?」


「はあ!?」


そんな偉い人の子を殺した覚えは全くないのだが、明智殿は兵に余裕はないため、もし相国寺に戻っても、そこに護衛を割くことはできないと言った。ちなみに、周暠様もすでに本国寺に向かわれていると。


「それゆえに、色々と言いたいことはございましょうが、どうか慶次郎殿と共にお移り頂けないでしょうか?」


さもなくば、身の安全は保障できないと……そこまで言われたわたしは、混乱の中で頷くしかできなかった。

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