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寧々さん、藤吉郎を振る!~苦労して日本一の夫婦となり、死んだら過去に戻りました。もう栄耀栄華はいりませんので、浮気三昧の夫とは他人になります~  作者: 冬華
第3章 金ヶ崎編

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第163話 寧々さん、何も覚えておらず困惑する

永禄11年(1568年)11月中旬 京・本能寺 寧々


うう……頭が痛い。


しかも、昨夜のことは全然記憶にないのだが、慶次郎の顔が真っ青なすび色になるほどの酷いことを仕出かしたようで、わたしは苦笑いを浮かべる明智殿とため息ばかりついている丹羽殿の前で、義昭公の元に向かわれている細川兵部が戻ってくるのを待っている。


本当に、何をやらかしたのだろうか?


「寧々殿……」


だが、そうしていると、義昭公の御座所より細川兵部が戻ってきて、わたしに声をかけてきた。ドキドキして、ご沙汰を待っていると「上様は、昨夜のことは互いに何もなかったことにしようと申されている」と、無罪放免を伝えてきた。


まあ、何もなかったことにするも何も、何も覚えていないのだが……。


「しかし、やはり寧々殿は凄いお方ですな。これで、上様の女癖も改められることでしょう」


「……というと、兵部殿。やはりわたしを利用したのですね?」


「ええ、そうですよ。何しろ、寧々殿は前の上様に勝たれた剣豪。寺で写経三昧の生活しか送っていなかった上様が、力づくでどうにかできるお方ではありませんからね。まあ……逆に上様の方が手籠めにされるとは思いませんでしたが……」


「手籠め!?」


聞き捨てならない言葉が飛び出したので、一体何があったのかとわたしは訊ねるも、「すでに上様より、なかったことにせよと言われておりますゆえ……」と誰も口を割ろうとはしなかった。慶次郎さえも、「知らない方が幸せですよ」とだけしか言わない。


ただ、今の話からすると、細川殿はどうやらわたしに義昭公を返り討ちにさせて、本人に反省を促したかったようなので、おそらくだが、同じように酒で女を酔わせて、手籠めにしたことが何度もあったのだろうことは想像できた。そう思うと、わたしは世のために役立てたということだろうか?


「あ……そうだ」


昨夜のことを全部なかったことにされたら、困る案件が一つあることを思い出して、わたしは細川兵部に義昭公の書付を見せた。それは、幕府が責任をもってわたしが主上に拝謁することを仲介すると記されている約定だが……これまでなかったことにされたら、何のために昨夜のことがあったのかわからない。


「この件につきましては、ご心配なく。上様の花押まで記されている約定を反故にしたとあっては、幕府の威信に関わります。ゆえに、少々時間はかかるやもしれませぬが、必ず実現できるように取り計らいます」


これは細川兵部ではなく、明智十兵衛殿が答えてくれたが、他の二人が異論を言わなかったので、わたしはホッと胸をなでおろした。できるだけ早い方がいいとは思うが、昨夜のこともあるので、あまりこれ以上強くは言えない。


だが、そんなわたしに、明智殿は「但し」と続けた。


「但し?何かあるのですか?」


「主上への拝謁にあたっては、近衛様の事は一切お話にならないようにお願いします。例え、ご下問があったとしても、そのときは『存じません』とお答えください」


「それは……」


一体何がどうしてそこまで近衛様を排除されようと言うのか。気になって、そのことを訊ねると、事は義栄公の擁立に関わる一件だけではないという。


「実は、前の公方様……義輝公が三好勢に御所を襲撃された事件において、御所側の情報を金銭と見返りに三好方に複数回知らせていた疑いがありましてな」


「そんなことは……」


ないと言いたかった。あのとき、わたしたちは近衛様のお屋敷にお世話になっていたのだ。そのような様子は見られなかったと、はっきりと。


「寧々様……」


「わかっているわ。わたしたちは近衛様の事を全部知っているわけじゃない。そうよね?」


「はい。ゆえに、軽々に感情に任せて介入されるのは差し控えられるべきかと……」


そうだ。慶次郎の言うとおり、近江に居て京の事を知らないわたしたちが口を出してはいけない話だ。だから、わたしは胸に沸く感情を飲み込んで、誓約することにした。内裏では、近衛様の事は口にしないことを。


恩知らず、薄情者といわれるかもしれない。しかし、わたしは何も近衛様を救い出すために京に来たわけではないのだ。ゆえに、それでよい、それでよいと、自分に言い聞かせるようにして、この話を終わらせることにした。

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