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第16話 藤吉郎は、最後の機会を与えられるも……

永禄5年(1562年)1月中旬 尾張国清洲 木下藤吉郎


「はぁ……」


我ながら情けなく思う。寧々殿のことは好きだ。大好きだ。だが……そのために、友を犠牲にして良いのかと聞かれたら、答えは否だ。


「小六どん……すまん。許してくれ……」


そう呟き、何度も手を合わせて冥福を祈るが、目の前にはない。小六どんの亡骸は罪人として、城下に晒されているのだ。そのことを思うと、心の底から申し訳なく思った。


「……藤吉郎。客人だ」


「客人?……しかし、権六殿。わしは謹慎中の身の上。ご迷惑をおかけするのでは?」


「それは大丈夫だ。お屋形様もご承知されておる。……通してよいか?」


「それなら……」


そう返事をして、誰が一体来るのかと思っていると……


「ご無沙汰しております。藤吉郎殿」


「ね、寧々殿!?」


どうしてわしに会いに来たのか。意味が分からずに権六殿を見るが、「ごゆっくり」とだけ言い残されて去って行かれた。しかも、「ごゆっくり」とは、ここでヤっちゃってもいいという意味だろうか?


「藤吉郎殿?……藤吉郎殿!」


「あ……は、はい」


「今日は、お屋形様の命により参りました。あなたさまがわたくしに振られてから、おかしくなられたようなので、何とかしろと」


その言葉は、場を和ますための冗談だと思いたい。寧々殿も笑っているので、そのようにと。


「ところで、藤吉郎殿。単刀直入に伺いますが……あなたは、わたくしのことがまだ好きなのですか?」


「は、はい!それはもう!!」


「しかし……そのために、蜂須賀殿は命を落とされましたね。本当ならば、あなたの片腕になっていたはずのお方ですよ。心は痛みませんか?」


「……痛みます。小六殿には、誠に申し訳ないことをしてしまいました……」


「ならば、もうこの辺りで終わりにしませんか?わたくしは、例えあなたが天下人になることがわかっていたとしても、もう結論は変わりません。あなたと一緒になることはできません」


「て、天下人になったとしても……ですか?」


「そうです。だから、ご自身の将来のためにも……諦めて頂けませんか?」


にこやかに話してはくれるが、その笑顔は神社の密会以前とはまるで別の顔だった。どこか凄みすら感じる。そう……まるで、お屋形様のように。


だが……だからといって、諦めることをまだ心が許してくれない。


「あの……どうして、そこまでわしを拒まれるので?」


「拒む理由……ですか」


「はい。それを知らなければ、納得できないというか……」


「そうですね……それなら、ひとつ機会を与えることにします。もし、数を十、数えるうちに『それでも良い』と言ってこんなわたしでも受け入れてくれるのであれば、全てを覆してあなたの妻となりましょう」


「え……?本当に」


「ええ、本当です。但し……答えることができなかったら、そのときは今日を限りにわたしのことは諦めてください」


「いいとも!わしは、どんな条件でも受け入れて見せる。どうぞ、何でも言ってくれ!」


「では……」


そう言って、寧々殿はわしに機会を与えてくれた。しかし……


「…………」


わしは数を十、数える間どころか、寧々殿が無言でこの部屋を去った後も返事を口にすることはできなかった。

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