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寧々さん、藤吉郎を振る!~苦労して日本一の夫婦となり、死んだら過去に戻りました。もう栄耀栄華はいりませんので、浮気三昧の夫とは他人になります~  作者: 冬華
第3章 金ヶ崎編

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第162話 お手紙公方は、酒乱女に諭される

永禄11年(1568年)11月中旬 京・本能寺 足利義昭


「あら?このお酒、おいしいですわね」


「そうであろう。これはな、余が琉球から取り寄せた秘蔵の品でな」


ふふふ、何も知らずにこの女は飲みおったわ。この酒は確かに美味い。しかし、酒精がきついのだ。余程酒に強い者でなければ、左程時を置かずに体に力が入らぬほどに酔っ払うであろう。そうなれば、あとは嫌がろうが余のモノを受け入れる他に選択肢はなくなるのだ。


そして、目論見通りに小半時(15分)もすると、女の体はゆらゆらと揺れ始めて、酔いが回っていることを示し始める。


え?そんな面倒なことをせずに、眠り薬を入れたら済むと?わかっておらぬな。嫌がる声を聞きながら、事に及ぶからこそ興奮するのではないか。特に人妻となればなおの事、その背徳感がたまらん!


「どうかされたのですか?わたしの顔をそのようにじろじろ見られて……」


「いや、見事な飲みっぷりだと思ってな」


「うふふ、皆にも言われますわ」


「では、もう一献如何ですかな?」


「いただきますわ。ああ、今宵は半兵衛もいないし、お酒が美味しいわ」


細川兵部からは、巴御前と鎌倉の尼将軍が合わさったような女だと聞いていたが、こうして酔わしてしまえばこちらのものだ。あとは隣の部屋に用意した布団の上で嫌がるこの女を手籠めに……ん?なんだ。もう空になったか。仕方ない。お代わりを持ってくるか。


「さあ、どんどん飲んでくれ。その様子だと、酒は好きなようだな?」


「はい!大好きです。ありがとうございます、上様~♪」


嬉しそうにこの女は酒をどんどん飲みこんでいくが、しばらくたって余は気づいた。この女……いつまで経っても酔いつぶれる気配がないと。それどころか、余の秘蔵の酒がどんどん空になっていく。めちゃくちゃ高いのに……。


「どうかしたのれすか?お酒ってもっと楽しそうに飲まないと、寧々ちゃんはダメやと思います!上ちゃんも、もっともっと楽しくぅ!」


「う、上ちゃん……?」


「なぁに、上ちゃん?上ちゃんの分際で、あたしに文句があるのかしら?あぁん?」


「い、いえ……そのようなことは決して」


「そう?だったら、そこで踊って!裸踊りよ!あはははは!!!!!」


酒が進むにつれて、この女の破天荒振りは加速していき、何とも言い知れぬ恐ろしさを余は感じ始めた。だから、もうこの女をどうにかするという気持ちは捨てて、外から人を呼ぼうとした。しかし……それは許されなかった。


「ちょっとぉ!夜はまだまだこれからだっていうのに、上ちゃん……どこにいこうとしているのかしら?」


「え……そ、その、か、厠です。どうやら、お酒を飲み過ぎたようでして……」


「ふーん、そうなんだ。それならぁ……」


「それなら?」


「ここでして!」


「はい!?」


一体何を言っているのだろうと思ったら、部屋の隅に置いてあった茶釜を持ってきて、この寧々という女は余の足下に置いた。そして、目を輝かせて正面にしゃがみ込む、「早く見せてよ」とせがんできた。その仕草は不覚にもかわいいとは思ったが、流石に「ふざけるな!」と声を荒げた。


「ふーん、できないんだ。まあ、小さいから見せたくないのよね?あっ!ひょっとして、烏帽子もかぶったままなのかしら?」


「な、なにを……」


「違うのならできるでしょ。さぁあ!上ちゃんのぉ~ちょっといいとこ見てみたい♪」


手拍子でこの女は催促するが、いくらなんでもここで小便などできるはずもなく、余は無視して部屋の外に足を向けた。だが、どういうわけか、次の瞬間押し倒されてしまい、余は……この女に袴とふんどしを脱がされた。そして……


「あらぁ……やっぱり小さかったじゃない。もう……見栄張っちゃって、上ちゃんかわいい♪」


そう言いながら、この女はあろうことか、将軍である余のアレを扇子でパシパシと右に左に叩いた。「こうしたら、大きくなるのかな?」とか「これなら、この徳利かぶるかな?」とか好き放題言いながら。


(ああ、何でこんなことに……)


しかし、そんな屈辱を味わっていると、この女は急に真面目な顔で見つめてきて、余に言った。


「ねえ……上ちゃん。あんた、何のために将軍になったの?こんなところに、女の子連れ込んで、イヤらしいことをするためじゃあないわよね?」


「それは……」


咄嗟に、その問いかけに対して、余は答えられなかった。いや……答えはあったはずなのだ。ただ、その答えがすぐに出てこない程、記憶の奥にしまい込んでいたことに俺は気づかされる。


(そうだ。俺は、強き者の欲で、弱者が理不尽に虐げられているこの世を変えたいと思って、将軍になろうと……)


それなのに、今の自分はどうだ。まさに、今、将軍という強き立場である己の欲望で、寧々殿を手籠めにしようとした。それは、下半身をさらけ出して、徳利をかぶせられている以上に、恥ずかしいことではないのか。


「寧々殿……俺は……」


「まあ、誰だって失敗はあるわよ。落ち込むなっちゅうの!あたしだってね、半兵衛にいっつも『飲み過ぎるなぁ!』って叱られているしね!だからね、上ちゃん。今日はとことん飲も。邪魔者もいないし、ぱあっと嫌なことは忘れてね!」


寧々殿はケタケタ笑いながら、さっきの茶釜になみなみと酒を注いで、「さあ、どうぞ♪」と俺に勧めてきた。最早、断る理由はない。


「いただきます」


そう言って、俺は寧々殿の手拍子に合わせて、一気にそれを喉の奥に流し込む。しかし、想像以上に酒精はキツく、意識がどこかに飛んで行くまで、左程の時は要さなかった……。

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