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第142話 寧々さん、長政の身勝手な言い分に現実を突きつける

永禄11年(1568年)3月中旬 近江国小谷城 寧々


「兄上、寧々と共に参りました」


「うむ、入ってくれ」


「はっ!」


政元様と共に部屋に入ったが、長政様の表情は至って穏やかであった。それゆえに、何用かと思っていると……


「なあ、二人とも。先程の義兄上からの話を聞いて、俺は思ったのだが……」


長政様は続けて言った。それほど高く評価されている子ならば、自分の子と認めて跡取りにした方が浅井家のためになるのではないかと。


その言葉を聞いて、呆れ、それとも怒りからだろうか。半兵衛の立てた謀反計画を実行したくなった。


「何を馬鹿なことを申されるか!身勝手にもほどがあるでしょう!!」


だが……真っ先に怒り出したのはわたしではなく、政元様だった。


「ちょ、ちょっと、おまえ様!落ち着かれませ。相手は殿でございますよ!」


「しかしだな、寧々よ。これほど腹が立つことがあるか?我らがこれまでどんなに真剣にあの子を育ててきたのか。兄上!知らぬはずはないですよね!」


「わ、わかっておる。その事については無論感謝しておる。しかしだな、政元。このままでは浅井は……義兄上の風下に立たざるを得まい。違うか?」


「おっしゃるとおりですな。ですが、それならそれなりの生き方があると、以前にも申し上げたと思いますが!」


「しかしだな……そうはいうが、おまえは悔しくないのか?我が浅井が天下の頂点に立つ日を夢見たことはないのか?俺はあるぞ。ただ……無論、自分の力量では及ばないことも理解はしておるがな」


そして、長政様は政元様に告げた。万福丸にその才能があるというのなら、その可能性にかけてみたいという気持ちがあることを。


まあ……自分の力量を認めたことは一歩前進なのかもしれないが、やはりこの方は伸るか反るかの博打がお好きなようだと呆れざるを得ない。


「殿。わたしからも申し上げてもよろしいでしょうか?」


「ああ……寧々殿。かまわぬ。そのために、そなたにも来てもらったのだからな」


「では、申し上げます。万福丸を殿のお子と認めて嫡男としようとされた場合のことですが、お市様には……」


「無論、市にも正直に白状する。かなり叱られるのは覚悟の上だ」


「いえ、叱られるだけでは済まぬかと。毒か刃物か、場合によっては鉛玉の可能性もありますが、それは別として、確実に仕留められますね。表向きは病死ということにして。そして、お市様は殿の遺言として、猿夜叉丸様を新しき浅井の当主に……」


「待て待て待て!それは脅しだな。万福丸をそこまでして俺に取り上げられたくないのか?そなたは!」


「まあ……そのお命を担保に危険な賭けをなされたいというのであれば、お止めしませんが。おまえ様、帰ったら喪服と数珠を用意しておきますね?」


政元様も顔を引きつらせているが、これは決して嘘でも大袈裟な話でもない。お市様の八重殿やその子・円寿丸様への対抗心を思えば、ごくごく普通にあり得る話だとわたしは思う。これで止まらなければ、本当に葬儀の準備をするつもりだ。


しかし、そんなわたしの態度を見て、長政様も心当たりがあったのだろう。


「……わかった。この話はこの場限りとして忘れてくれ」


最後は顔を真っ青にして、絞り出すかのように声を出し、これで用は済んだとばかりにわたしたちに退出するように促した。


ただ、万福丸の件はこれで済んだとはいえ、このことは長政様の御器量が危ういものであると政元様にも強く印象付けた様だ。


「寧々……このままだと本当に浅井は……」


部屋を出て廊下を歩きながら漏らした言葉は、もちろんわたしに届いた。だが、肩を落として苦悩するそのお姿を前にして、わたしは何を言ったらいいのか。判断がつかなかったのだった……。

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