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寧々さん、藤吉郎を振る!~苦労して日本一の夫婦となり、死んだら過去に戻りました。もう栄耀栄華はいりませんので、浮気三昧の夫とは他人になります~  作者: 冬華
第3章 金ヶ崎編

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前世話(1)藤吉郎は、愛妻弁当の処理に困る

永禄10年(1567年)12月下旬 美濃国岐阜城 木下藤吉郎


朝のお勤めが終わり、儂はこれより昼休憩に入る。そこに前田の又左がやってきて、握り飯が入った包みを渡してくれた。それは、大げさでもなく命の差し入れだ。


「いつもすまんのお……」


「気にするな、藤吉郎。困ったときはお互い様だ」


前田のお松殿が作った握り飯は、特別に美味しいというわけではなく、ごく普通の味なのだが、食べて痙攣を起こしたり、意識を飛ばしたり、穴という穴から血が噴き出ないだけでも、儂としてはありがたかった。


「なあ、藤吉郎。俺は思うのだが……」


共にお松殿のお弁当を食べるべく包みを広げながら、又左は言う。寧々に正直に「君の料理音痴は殺人級だから、二度と包丁を持つな」と告げるべきではないかと。


「さもなくば、おまえこのままだと、最期は碌な死に方をしないぞ?」


わかっている。その忠告が正しいことは。しかし、儂は寧々を愛しているのだ。それなのに、どうして悲しませるようなことを言えるのだろうか。これまで浮気をしては泣かせているのだから、これくらいは我慢せねば、男が廃るというものだ。


「まあ、おまえがそこまでいうのなら、俺は何も言えないが……おっ!今日は予想よりも早いな。どうやら寧々殿がやって来たみたいだぞ」


廊下の向こうから、パタパタと足音が聞こえて、それが次第に大きくなる。儂はまずいと思って、慌てて握り飯を又左の方に押しやって、お腹をわざと擦りながら白湯の入った椀に口をつけて、すでに食べ終わったふりを装う。すると、その直後に寧々がこの部屋に顔を出した。


「もう、おまえ様ったら!今日は、お弁当をお作りすると申したではありませんか!」


「すまんな、寧々。朝、ドタバタしておったから忘れておったわ!」


嘘だ。作っていることは覚えていたが、わざと置いてきたのだ。


「しかし、寧々。残念なことに、さっき又左からお裾分けを貰ってな。すでに腹は一杯なのだ」


「ええ!!折角、今日はとっても綺麗な色合いに作れたというのに、食べてくれないのですか!」


色合いに拘るから、いつも変なことになるのではと思わないではないが、今は原因を追究するよりもまず誤魔化さなければならない時だ。


「す、すまない。そういうわけで、今日の所はこのまま持って帰って……」


グゥ……


「おまえ様?」


しかし、上手くこの危機を乗り越えられると思った矢先、残念なことに腹の虫が鳴ってしまい、寧々は怪訝そうに儂を見つめた。


(まずい。どう答えるべきか……)


そんなことを思って冷や汗を流していると、又左が言った。「どうやら、握り飯1つでは足りなかったようだな」と。儂は、もっと上手に言い訳ができないのかと又左を睨んだが、寧々は「それなら、丁度良かったですわ」と言いながら、弁当を手渡してきた。


「それでは、お昼からのお仕事も頑張ってくださいね」


その笑顔と励ましは、儂に活力を与えてくれるが……だからと言って、この手の上にある恐怖物質がなくなるわけではない。


「どうしよう、これ……」


寧々が居なくなった後、途方に暮れた儂は、又左に相談を持ち掛けようと思ったが、奴はすでに弁当を抱えて、何処なりに消えていた。実に友達甲斐の無いヤツだと思う。こういうときは、一蓮托生で共に食べてくれるのが『真友』というものではないかと。


だが、それを言ったところで何も解決しないので、儂は内蔵助の弁当を急いで盗み食いして、代わりにその中に寧々の弁当を移し替えることにした。


幸いなことにこの部屋には誰もおらず、加えて奴は、今、柴田様と共に兵の鍛錬中だ。きっとまだ半刻(1時間)は帰ってこないだろうから、バレる心配はない。


「ふぅ……これでよし!」


あとは、ムカつく内蔵助が死んでくれたら一石二鳥であるが、そこまで期待するのは流石に都合が良過ぎるだろうと思って、儂は昼からの仕事に向かうことにした。


そして……内蔵助が食あたりで意識不明になって、生死を彷徨っているという素晴らしい知らせが入ったのは、それからしばらくしてのことだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 寧々さんが料理下手という設定は、某漫画と同じなので、もうひと工夫が欲しかったですね。
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