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第124話 寧々さん、松永弾正から子育てを教わる

永禄8年(1565年)5月中旬 近江国小谷 寧々


蜂須賀党が虎御前山に移ったことで、わたしたちはようやく我が家に帰ることができたのだが、莉々の様子が実は少しおかしかったりする。


「ねえ、莉々。ここが莉々のおうちよ。わかった?」


「ちゃう!おうち、じじのとこ。かえりゅ!」


万福丸は京でずっと一緒に居たから懐いているし、竹松丸はまだ多くは喋れないから手がかからないが、莉々だけは何度説得しても納得してくれず、挙句の果てに泣き出してしまうのだ。


そのため、流石にわたしも政元様も困り果ててしまい、半兵衛に何か良き策はないかと頼ってみるのだが……


「申し訳ございません。古来より、泣く子には誰も勝てぬというのが兵法の常にて……」


……と、わたしには鬼なくせに、莉々が相手だとこの人は頼りにならなかった。


「なあ、寧々。この際、父上にしばらく預けてはどうかな?」


「そうよね……その方が莉々も喜ぶでしょうし……」


だから、困り果てたわたしたちは、ついにそのような結論に至ろうとしていた。しかし、そのとき……


「それはお止めになられた方が良いかと存ずるぞ。親の愛情が薄ければ、子の性格形成に影響を与えかねぬからのう。……おっと、余計な口出しでしたかな?」


気が付けば庭先に現れた老人が、わたしたちに忠告するかのようにそのような言葉を発した。ただ……わたしはその顔を見て驚いた。


「松永……弾正様?」


「ん?どうしてわかった。初対面だと思うのだが……?」


その言葉で「しまった」と自分の失態を悟った。わたしは前世の安土城で会ったことがあるので、すぐに気づくことができたが、松永様の方は今の言葉の通り初対面なのだ。どうして見抜いたのかという説明が必要になる。しかし、そんなときに頼りになるのは、やはり半兵衛だ。


「ふふふ。驚かれましたかな、弾正殿。実は、寧々様は占星術の嗜みもございましてな。その実力をもってすれば、初対面の方の顔でもわかることがあるのですよ」


「ほう……流石は、細川兵部が賢人だと称えるだけあるな。まさか占星術まで学ばれているとは恐れ入る。そうじゃ、儂は大和信貴山城主、松永弾正久秀だ。よくぞ見抜かれた」


なんだか、天才同士でわけのわからない会話で盛り上がっているが、取りあえず半兵衛のおかげでわたしの嘘は誤魔化すことができたのだった。


だが、そんな松永様は笑いながら、「こっちにおいで」と縁台に座ると莉々を手招きして呼び寄せた。わたしは我に返って怖くなり、咄嗟に「莉々!」と呼び止めようとするが、莉々はお構いなしに松永様の傍まで歩いて行った。


「だぁれ?」


「儂はのう、莉々ちゃん。秀じいといってのう」


「ひでじい?」


「そうじゃ。それでじゃな、莉々ちゃん。ここにひもがある。わかるかな?」


「?」


「まあ……見ておれよ。これが色々と変わるからな」


そう言って、松永様はイヌとかカエルとかキツネとか……ひもを様々な形に莉々の目の前で変えていく。しかも、手早く連続技で。


「わあ!しゅごい!!」


すると、さっきまで不機嫌だったのが嘘のように、莉々は目を輝かせて喜び始めた。その様子にわたしも政元様も驚くしかなかったが、そんなわたしたちに松永様は言う。


「とにかく、子供と一緒に遊んであげなされ。先程、ジジさまがいいと言っていたのは、それだけお舅殿がこの子と一緒に遊んであげているからじゃろうて」


はっきり言って、耳が痛かった。そう言えば、この子が産まれてからすぐに竹松を妊娠したし、出産後も美濃や虎御前山や京にと、あちらこちらに行ってばかりで、構ってあげていなかったことを思い出して、ただただ反省した。


「まあ……ここに、あやとりの型を記した本を置いていくから、あとでよく読んで遊んであげなされ」


「ありがとうございます」


「なに……その代わりと言ってはなんだが、茶を一服立ててもらえぬだろうか?」


おそらくこれが本題なのだろうと思い、わたしは気を引き締めたのだった。

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