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寧々さん、藤吉郎を振る!~苦労して日本一の夫婦となり、死んだら過去に戻りました。もう栄耀栄華はいりませんので、浮気三昧の夫とは他人になります~  作者: 冬華
第2章 北近江編

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第117話 寧々さん、局号を賜る

永禄8年(1565年)3月中旬 京・近衛邸 寧々


三好が事を起こしてから、3日が過ぎようとしている。幸いなことに慶次郎は無事に帰還することがかなったが、囮となった彦部殿、そして、義輝公に忠実だった進士殿は、命を落とされたという。そのことを思うと胸が痛いが……


「主上がわたしに会いたいって、何の冗談よ……」


わたしは今、十二単を着せられて、その事で頭がいっぱいだった。何でも、義輝公が「女性でありながら、その武勇は巴御前の如き豪傑」とか余計なことを吹き込んだせいで興味を持たれたそうだ。ホント、迷惑な話である。


「まあ、気持ちもわからんことはないけど、ここは麿の顔も立ててくれんかの。従四位下左兵衛局(さひょうえのつぼね)殿?」


「……いや、だからなんでわたしがそんな大層な官位を貰うことになっているのですか?」


これは、無位無官では主上にお目通りすることはかなわないから、近衛様は必要な処置だというが、殿やうちの夫も正式な官位を貰っていないのに、そのようなものを勝手に貰えば、今巴御前どころか、今義経になりかねない。近江に帰ってそのまま粛清なんてまっぴら御免だ。


「そのあたりは、きちんと調整するから安心してな。備前守殿には正五位下左近衛少将、玄蕃頭殿には従五位下丹波守の任官を告げる使者を送っておるゆえ」


「それでも、わたしの方が上っておかしいのでは?」


「それは仕方あるまい。そなたは斯波武衛の母なのだぞ。我らとしても、その家格を無視するわけにはいくまい」


確かに斯波家の代々の当主は、従四位下左兵衛督に任じられることが多いらしいが、わたしは嫡流ではなく庶子なのだ。だから、無視してくれても全然かまわないのだが、結局近衛様は許してくれなかった。主上の御意思を蔑ろにするわけにはいかないと言って。


それゆえに、わたしはこの話題については諦めて、他のことを訊ねてみた。それは、義輝公の今後についてだ。


「和睦の条件として、将軍職だけでなく左近衛中将や参議など、全ての官位を返上されると聞きました。しかも、近いうちに御所からも退去されるとか?」


「この後は、嫡子乙若丸と共に叡山に向かわれることになっておる。そこならば、三好も手出しできぬからな」


「叡山ですか……」


それはまた、厄介な場所に行かれることになったなと思った。何しろ、そこは6年後の元亀2年(1571年)に信長様に焼き討ちされるからだ。


(……でも、あれって叡山に浅井・朝倉連合軍が立て籠もったからなのよね。だったら、金ヶ崎を阻止すれば、焼き討ちもなくなるのかしら?)


「ん?何か心配事でもおありかな?」


「あ……なんでもありません。ちなみに、御台様方もご一緒に?」


「建前は女人禁制だからな。同行はせずに、この麿が面倒を見ることになった。ただな……小侍従局殿が懐妊中でな。彼女に関しては、果たしてこの京に置いておいて大丈夫かという不安はある」


産まれてくる子が男の子ならば、この後京を支配する三好にとっては、きっと邪魔になることは容易に想像することができた。ならば、裏から手を回して母子ともに始末するということもあるだろう。


「無論、麿も可能な限り護れる様に努力をするが……」


「でしたら、寧々様。我らで引き取っては如何でしょうか?」


「半兵衛?」


横から何を突然言い出すのかと思っていると、彼はわたしの耳元で囁いた。「義輝公の遺児という手札を持っておけば、いずれ何かの役に立つことも」と。


「は、半兵衛!?そ、それは……」


「おや、寧々殿。如何なされましたか?」


「あ!い、いえ、何でもありません……」


咄嗟にそう誤魔化したが、わたしが動揺している間に、半兵衛は表向きの綺麗ごとを並べて、近衛様を説得してしまった。まあ、近江でお過ごしになられる方が安全であると言えば安全ではあるが……。

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