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第11話 寧々さん、帰蝶様の様子がおかしいと相談される

永禄5年(1562年)1月中旬 尾張国清洲城 寧々


「これは、花楓殿。今日は茶の湯の日ではありませんよね?」


「そうなのですが……実は……」


松平元康殿がこの清洲に来訪されるまであと3日。そんな日に突然面会を求めてきた花楓殿は、帰蝶様の様子がおかしいと言ってきた。


「それは……重大なお役目故、緊張なされているだけなのでは?」


「そうかもしれませぬが……何かそれとは違うような……」


「違う?」


花楓殿は、帰蝶様が輿入れされるときに美濃から供をしてきたお方だ。その彼女が言うには、今の様子は、かつて道三様に隙を見て信長様を閨で殺すように命じられていた頃と似ているという。


「……そんなことがあったのですか?」


「ええ。ですが、あのときは結局お屋形様に見抜かれまして、笑い話で済ませてもらってはいたのですが……」


それだけに、何か飛んでもないことを命じられているのではないかと花楓殿は口にした。それはつまり……松平元康殿の毒殺。


「まあ……帰蝶様のお役目は、お屋形様の隣でニコニコされることと、茶を立てるだけですからね。それで花楓殿が心配されることが起こるとすれば、それしかありませんか」


「はい……ですので、どうしたらよいものかと」


花楓殿が言うには、心配して訊ねても帰蝶様は何も答えてくれないということだった。当然だが、命じたお屋形様に口止めをされているのだろう。そうなると、直接やめるようにいったところで、話をはぐらかされるだけになる可能性が高い。さて、本当にどうしたものか。


「……花楓殿。お屋形様が絶対に殺すことができない人って誰かいませんか?」


「そうですね……御身内は大事にされているようですが、それでもいざとなったら切り捨てられますね。でも……何をなされるのですか?」


「茶席では、同じ茶を回し飲みしますよね?ならば、そこにお屋形様の大事な方に同席してもらえば、お考えを改められるかと思ったのですが……お市様を同席させても、必要な犠牲と割り切られるということですか……」


「おそらく、それが帰蝶様でも奇妙丸様でも同じでしょうね」


「では……沢彦禅師ならどうでしょう?お屋形様の師であられますし、何より諸国に名が通っている高僧ですので、そのお方を殺すわけにはいかないのでは?」


「なるほど……そのお方ならば、お屋形様も流石に思い止まれるでしょう。三河を手に入れても、甲斐の虎や越後の龍を激怒させては、天下など夢幻の如く霧散しかねませんからね」


なので、良き案だと言って、花楓殿は食いついた。そして、早速政秀寺に使いを出すと言って部屋から去って行く。だが……


(それにしても、前の世界でこんなことってあったっけ?)


そのことがどうしても気になって、一人になっても考えてしまう。あのときは、このように深く関わることはなかったので、藤吉郎さから聞いた話しか知らないが、確か会談は和やかに行われて、元康殿は本能寺で信長様が討たれるまで、常に味方であり続けたはずだ。


「それなのに……これは一体どういうことなのでしょう?」


その問いに、答えてくれる者はいなかった。

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