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第10話 信長様は、会談に乗じて暗殺をたくらむ

永禄5年(1562年)1月上旬 尾張国清洲城 織田信長


年が明けた。そして、あと半月もすれば、父祖代々の宿敵・松平元康がこの城にやってくる。


「さて……あとは、どうやって殺すかだな」


今、手の中には毒が入った紙包みがある。トリカブトだ。


「帰蝶……わかっておろうな?」


「ひっ!……い、いやでございます!わ、わたくしは……そのようなことをするために、寧々から茶の湯を学んだのではなく……」


「黙れ!俺の言うことが聞けぬというのか!」


いかん……つい怒鳴ってしまった。そういう俺も、実は迷っている。何しろ、竹千代のことは、やつがこの尾張にいた頃、本当の弟のように可愛がっていたのだ。無論、そのことはこの帰蝶も知っている。


「お屋形様……何卒、お考え直し下さい。竹千代殿をあれだけ可愛がられていたではありませぬか!」


「……わかっている。俺だって、本当は殺したくない」


「でしたら……」


「だが、今の俺はこの尾張の国主だ!私情を挟むわけにはいかぬのだ!!」


だから、察して欲しいと俺は帰蝶を抱きしめた。こうするより他にない自分を許してもらいたいというように。そして……そのまま、紙包みを渡した。


「……茶会は、二日目の昼過ぎに行う。それまで、事は内密にな。特に寧々には……絶対言うなよ?」


「わかりました……」


話はこうしてまとまり、帰蝶は部屋から下がっていった。すると、それを見計らったかのように、藤吉郎が部屋に入ってきた。だから、俺は確認した。「本当に殺す必要があるのだな?」と。


「御意にございます。元康さえ始末すれば、三河一国がまるっとお屋形様のモノとなります。美濃は強国なれど、尾張と三河の2か国の力をもってすれば、流石に斎藤龍興も我らに屈するしかないかと存じます」


そして、藤吉郎は言う。尾張、三河、美濃の3か国を得れば、もはや我ら織田にかなう勢力はいないと。雪だるまが大きくなるように、その勢いは進めば進む程加速していくのだ。


「だが……他に方法はないのか?特に……帰蝶の手を汚させる必要が本当にあるのか?」


「お屋形様……迷われてはなりませぬぞ。天下を取るために犠牲はつきものと心得ますが?」


「必要な犠牲と申すか。帰蝶は俺の妻だぞ?」


「……恐れながら、お叱りを承知で申し上げますが、すでに美濃との同盟が破れた以上、帰蝶様は我らにとって絶対に必要な存在ではありませぬ。お屋形様もそれは御承知のことでしょう?」


「わかっている。おまえらが浅井から姫を俺の妻に迎え入れようと考えていることもな。だが……何度も申すが、帰蝶こそが俺の妻だ。此度のことで拭いきれぬ傷を負わせる以上、もうこの件に口を挟むな。権六にもそう伝えよ」


「……承知いたしました」


渋々だが、こうして下がっていくこの藤吉郎は、このように非常に知恵が働く。だが、残忍だ。およそ、利のためになら情を殺すことができると思われる。


(だからこそ、寧々のような抑えとなる強い女房が必要なのだが……)


しかし、寧々にその気がない以上、俺としてはどうすることもできない。いっそのこと、他の者を娶らせれば……と思わないわけでもなかったが、妙案はこの日も浮かばなかった。

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