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寧々さん、藤吉郎を振る!~苦労して日本一の夫婦となり、死んだら過去に戻りました。もう栄耀栄華はいりませんので、浮気三昧の夫とは他人になります~  作者: 冬華
最終章 藤吉郎編

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第963話 寧々さん、藤吉郎を送る(5)

慶長3年(1598年)8月下旬 近江国小谷城 寧々


ヌルハチ殿らを伴って屋敷の内に入ると、前田の又左殿と玄関ですれ違った。


「これは、大政所様……」


そう言われながら、お松さんと共に道を開けて脇に寄ってくれたが、はっきり言ってあまり好意的な感じではない。まあ、前世とは異なり、ここまであまり関わりが薄かったし、朝鮮出兵で領地を減らされたことも、もしかしたら根に持たれているのかもしれない。


だから、これは致し方ないと半ば諦めて、先に進もうとするが……


「おい、そこの負け犬。陛下のお情けで命を救われたのに、その態度はなんだ?」


「あん?」


その様子が気に食わなかったのだろう。わたしのすぐ後ろでヌルハチ殿が突然怒り出して、振り返ると又左殿と取っ組み合いを始めていたのだ。


「貴様には関係ないだろうが!大政所様の腰巾着か、貴様は!!」


「腰巾着!?貴様、それが命を救ってもらった大恩人にいう言葉か!!」


「救ってくれなんて……誰も頼んでないわっ!!」


「じゃあ、死ね!今すぐ死ね!!いや、ここで俺がぶっ殺してやるわ!!」


「はんっ!やれるものならやってみろ!槍の又左をなめるんじゃねぇ!!」


まさに……売り言葉に買い言葉だろう。収まる気配は微塵も感じられない。


「ちょ、ちょっと!やめなさい!!」


慌ててわたしはヌルハチ殿を、お松さんは又左殿を押えて引き離しにかかるが……両者は引き続き、お互い汚い言葉で罵り合って収まりがつかない。


それゆえに、いっそのことわたしの手でこの二人を鎮めようかと思っていたところ……


「うるさいっ!うちには病人がいるんだよ!喧嘩なら、他所でやりなっ!!」


バシャッ!!バシャッ!!


部屋の奥から現れた菜々さんが大きな声で二人を一喝したのちに、お玉さんと二人でこちらに向かって水をぶっかけてきた。もちろん、傍にいたわたしもお松さんも巻き込まれてびしょ濡れだ。


「ちょっと!何でわたしにまでかけるのよ!!」


「そうよ、菜々さん!悪いのはこの二人で、わたしたちは止めようとしていた側なのにこれは酷いわ!」


「そりゃあ、悪かったわね。でも、こうしなければ止まらなかったんだから、仕方ないじゃない?」


ただ、その菜々さんの目を見てわたしは確信した。これは、絶対わざとだと。


「菜々さん……こちらの方はね」


だから、その手で来るのであればと、わたしも反撃する。今、水をかけた相手が誰なのかを知らないようだから、その名を教えてあげることにした。清国の副皇帝・ヌルハチ殿であると。


「ヌ、ヌルハチ殿って……い、いや、いくら何でも冗談でしょ?そんなに暇なはずはないわけで……」


「おお、奥方殿!暇で大変申し訳ございませんでしたな!このアイシンギョロ・ヌルハチ……倅の許嫁殿の曽祖父殿が危篤と聞いてご挨拶にと罷り越しましたが、いやぁ、すみませぬな。ご迷惑をおかけしました!」


「あ……いえ、こちらこそ大変失礼な真似を!どうか、どうか、お許しくださいまし!」


ふっ……勝った。菜々さんが慌てて、風呂の準備をお玉さんに命じているのを見て、わたしはそう判断した。そして、客間に通されてから、順番に風呂に入るようにと勧められた。


「あれ?」


だけど、先にヌルハチ殿と又左殿が湯殿に案内されるのを見て、気が付いた。この中で一番偉いのはわたしなのだから、わたしが一番先に風呂に入るべきではないのかと。


「ねえ、お松さん。どう思います?」


「これはきっと、大政所様への意趣返しでしょうね。菜々さん、最近は丸くなってきたけど、簡単に白旗を挙げる人ではないので……」


それは同意見ではあるが、流石に濡れたままだと寒くなってくる。それゆえに、せめて着替えさせてもらえたらと思うが……そこに現れたお玉さんは、「寒いからどうぞこれを」と熱燗をここに置いて行かれた。


「これは……お酒よね?」


「それ以外に見えるのでしたら、お医者様に見てもらった方が……」


つまり、これを飲んで体を温めてくれという配慮なのだろうが、今のわたしは禁酒の身の上だ。非常に判断に迷う。これは非常時ゆえに飲むべきか、それとも飲まずにこのまま風邪を引くべきか。


「いいんじゃありませんか?これくらいの量なら大したことないですし」


「それもそうですね!」


そう……大した量じゃないんだ。だから、酔わないし、バレやしない。そう考えるともう手が動き出すのを止めることはできず、わたしは久しぶりにお酒を飲んだのだった。ああ、うまい!


お読みいただきありがとうございます。

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