第八話:双刃
都内、最上沢高校───。
生徒の声やら楽器の音やらが、その白い校舎から聞こえてくる。
ギュイィィィィン……。
誰もいない空き教室にギターの軽快な音が響く。すると後ろの方で、友達の一人が自分を呼ぶ声がした。
生徒「おーい!〇〇〇~~!行こうぜー!」」
その少年…。ギターを掲げた金髪の少年はしゃがんだままの状態で後ろを少し振り返ると、小さく返事を返した。
…
放課後の人が少なくなったどこかの教室。
生徒「~~さーん!一緒に帰ろ〜!」
その少女…。何か読み物をしていた紫髪の少女は静かに本を閉じ声のする方へ振り返ると、小さく笑って友達の方へ歩いて行った。
…
???「───おい!何でこれが出来ねぇんだよ!!オメェはこんなのもまともに出来ねェのかよ!!なぁ!!」
巫狩「───ッ。」
またも大きく振り上げられた拳が、自分めがけて降ってくる。巫狩は何度もそれに耐える。
ガンッ!ガンッ!!
巫狩「…ッ。…ッ。」
痛みに耐えている途中、静かにそれを傍観している人物と目が合う。
巫狩「!」
母「…………」
巫狩「………ッ。」
ガンッ!ガンッ!
???「おい!ふざけてんじゃねぇぞ。このクソガキがぁ!!」
痺れを切らした男は拳を頭上まで思いっきり振り上げて、そしてそれを巫狩めがけて振り下ろした。
ブンッッ!!
巫狩「!!」
巫狩「───ハッ!」
ふいに目が覚める。閉め切った部屋のカーテンの端から、僅かに外の光が漏れている。
巫狩「……………」
少し体を起こすと、時計は朝の5時半を指していた。
巫狩「………。」
巫狩は何を考えるでもなく、再びベッドに横になったのであった。
水野「…何ですか?ここ」
水野はゼル、アリエスの二人と共にとある大きなガラス張りの部屋の前に来ていた。
ゼル「ここはな、仮想訓練室っつって、通称バトルオペレーションルームとか戦闘訓練室とかって呼ばれてんだ。」
巨大で透明なガラスの向こうには一見何も無い、正方形の模様がびっしりと描かれた部屋が広がっている。
水野「…?でも何も無いですけど…」
ゼル「…ちょっと起動させてみっか」
ゼルがそう言って赤いボタンを押すと、突然ビーッ!!と大きな警報が鳴り響いた。そして次の瞬間、壁に描かれていた正方形の中から次々と戦闘用のロボットや標的の的が飛び出したのだ。
水野「!!」
ガシャンッ!!ガシャンッ!!
飛び出した戦闘用のロボットはすごい勢いで手に持っている竹刀やら工具やらを振り回している。中には盾を装備している者もいて、かなり手強そうだ。
水野「こ、これって…」
ゼル「あぁ。」
アリエス「こうやって赤いボタンを押すと部屋が起動して、あちこちからロボットが飛び出してくるという仕組みですね。」
ゼル「あっおい!」
ゼルは言おうとしてたのにと言いたげな表情でアリエスを睨んだが、当の本人には別にいいでしょという顔で返されてしまった。
ゼル「んー…ゴホン。それで、中で一通り戦闘が終わったら、後で部屋から出てきた時にこのモニターに点数が表示されるってワケだ。」
水野「点数?」
ゼル「あぁ。ロボットつっても色々種類があって、射撃の的を持ってる奴もいれば、自分の竹刀で攻撃してくる奴もいる。それもただ攻撃すればいいってワケじゃない。ロボットそれぞれにウィークポイント…つまり弱点だな。それを叩かねぇと、得点にはならねェんだ。それどころか、叩く力が弱かったり的を上手く当てられなかったりすると、逆にロボットに攻撃されて蜂の巣…なんてことも、まぁ日常茶飯事だな。」
ゼル「そんなんだから、ウチは訓練室って呼んでても、他んトコじゃ『拷問部屋』とか呼ばれたりしててな。アハハ。」
水野「ちなみに、点数とかって聞いてもいいんですか?」
ゼル「…?あぁ。基本普通の奴、つっても特殊部隊だな。そういう奴でも大体は40台とか50台とか。まぁよくても60に乗れるかどうかだな。」
ゼル「…俺は72。んでコイツが76。」
ゼルはそう言いながら親指を立てて隣にいるアリエスを指差す。
ゼル「そんでレオのヤローが80に乗ったっつー話で盛りがってる時に、90を叩き出したって奴の話が入ってきた。」
水野「それが…。」
ゼル「あぁ。俺達のリーダー…クレイだよ。」
アリエス「正確には92ですけどね。」
ゼル「…ッ!いいだろ別にそんな事!」
EST本拠地内、食堂────。
モグモグ…。
セス「んグッ…。それで?結局、フライドポテトはアメリカから出来たものじゃないの?」
巫狩「うん。元はと言えば『ポム・フリット』っていうベルギーの料理が発祥で、ベルギーの人がアメリカ兵に渡したのが始まりみたい。ちなみに『ポム』はじゃがいもで、『フリット』が揚げるって意味だよ。」
セス「じゃがいも(Potato)を揚げる(Fried)からフライドポテトか。でもそれって、本当はどっちもフランス語なんだよね?」
巫狩「まぁね。ベルギーは多言語国家なんだ。いくつか話す言語の内に、フランス語が入ってる。だからベルギーの人でも普通にフランス語を使ったり、料理に名前が入ったりするんだ。」
セス「そうなんだ…タゲンゴコッカ、タゲンゴコッカ…。」
小川「……。」
小川「…あの二人って…。」
レオネル「無?」
昼食ついでに二人の会話を遠巻きに見ていた小川が小声で話し出した。
小川「あの二人って、いつの間にあんな仲良くなったンスかね?」
レオネル「…そうだな。」
言われてみると、巫狩の表情がいつもに比べて随分柔らかくなっているような気がする。
小川「ハァ。なんだか寂しいぜ…。俺だけ一人、取り残されてるみたいでよ…。」
レオネルは小川に気付かれない程度に、面倒くさそうに鼻を鳴らした。
…
巫狩達はまたいつもの様に、二人で図書室を巡って時間を潰していた。
セス「それにしても、本当に誰もいないんだねぇ~…。」
セスは誰もいない図書室を見渡しながらそう言うと、立って本を開いたまんまクルクルと回って近くの大きなソファにダイブした。
ボフッ。
巫狩「ちょっと、おい...。気をつけろよ」
巫狩「……。」
巫狩は、自分の左手を見つめていた。
セス「…気になる?」
巫狩「えっ…!?」
突然自分の心を見透かされたようで、巫狩は少しドキッとした。
巫狩「……うん。」
少し沈黙があったかと思うと、巫狩が口を開いた。
巫狩「………怖いよ。」
セス「……。」
巫狩「すごく…怖い。まるで…自分が、自分じゃなくなってくみたいだ…。」
ギュゥッ…。
巫狩は静かにその左手を握り締めた。
セス「大丈夫だよ。」
巫狩「…?」
セス「巫狩くんなら、きっと大丈夫。一度は信じたんでしょ?なら大丈夫だよ。」
セスはそう言って、巫狩の左手を取った。
巫狩「!」
セス「それでも分からない時は…飛び込んでみるしか、無いんじゃないかな。」
セス「でも巫狩くんならきっと、大丈夫だよ。僕が保証する。」
セス「…それに」
最後にセスが顔を背ける時に、小さくこう呟いたような気がした。
セス「その人なら、ちゃんと応えてくれると思うから」
巫狩「…えっ?」
その時、ゼルが部屋に入ってきた。
ゼル「おぉ!ここに居たのか!見回りに行くから巫狩もついて来い!」
巫狩「……」
ゼル「事件が起きた場所とか、色々ウチが見に行かなきゃいけねぇ所があンだよ!ちなみに、ウチは全員強制で行かなきゃいけねェから、『行かない』とかは無しだからな!」
ブロロロロ……
小川「…今日は全員いるんすね」
ゼル「ぁン?言ったろ?全員強制だってよ~。」
巫狩「あの…」
クレイ「ん?あぁ。穀潰しならウチの職員が厳重に監視してるから、しばらくは大丈夫だ。」
水野「それにしても、こんな所まで来るんですね…」
クレイ「まぁな。全てがテレビで報道されているという訳じゃない。中にはこうして、人の少ない田舎とかで事件が起きたりもするんだ…。」
こうして僕たちは、ZAQの人達と共に事件や目撃証言があった場所なんかを見て回った(僕たちはこれと言って特に何もしてないが)。
水野「もうすっかりこんな時間…。」
暗くなっている外を眺めながら、水野が呟いた。
ゼル「本当だぜ。暗くてよく見えなくなる前に、とっとと帰ろうぜ……あっ!」
レオネル「?」
水野「?」
やっちまったと言わんばかりにうなだれているゼルの前には、赤いランプが点灯していた。
レオネル「これは…」
アリエス「あっ!アンタまさかッ…」
点灯しているこの赤いランプ。示すものは勿論。
レオネル「…ガス欠か?」
ゼル「…………。」
アリエス「ここに来るまでにガソリン確認してなかったんですか?!アンタ!」
レオネル「確か、今回の燃料担当はお前だったよな?」
ゼル「……わ、悪ィ…。」
クレイ「どうする気だ?このままじゃ帰れないぞ。」
周りを見渡すと、もうすっかり日が暮れている。
レオネル「…いや、まだあるかもな。」
ゼル「…?」
一瞬なんの事か分からなかったアリエスだが、すぐにレオネルが何を言いたいのか気付いたようで声を上げた。
アリエス「…?あぁ~!確かにそうですねぇ~。」
クレイ「?」
一方クレイの方はまだピンと来ていないようで、なんの事かさっぱりと言う顔をしている。勿論それは、巫狩達三人も一緒だった。
クレイ「一体なんの事だ?」
アリエス「あぁ、リーダーはまだ知らないんですね。実はこの辺は…。」
ゼル「……?」
ゼル「…………あっ!!」
ゼルもここに来てようやく何が言いたかったのか気付いたみたいで、冷や汗を流し始めた。
ゼル「ま……まさか!」
ゼル「ま、まっ……まさかッ!」
…
やぁ、みんな!
俺はゼル!
とある田舎町から都会に飛び出したひとり息子さ!
家ではばぁちゃんがいっぱい面倒みてくれたから、今度は俺が強くならなきゃいけねェってもんでこの街に飛び出して来た半端モンってワケよ!
でも都会はスッゲーところで、スッゲーヤツらがいっぱいいるんだぜ!
だからここで、俺もいつか強くなってばぁちゃんにスッゲーとこ見せられるようにって、いっぱい頑張ってきたのに、
それなのに、どうして、
どうして…
ゼル「どうして…こんな事に…。」
小川「うめェーーー!!おばあちゃん、これ本当に全部食っちゃっていいんスか!?」
レオネル「いただきます…ッ!」
クレイ「…………。(モグモグ)」
巫狩「………。(モグモグ)」
おばあちゃん「いいのいいの。どんどん食べちゃってねェ。まだいっぱい残ってるんだから。」
そこはゼルの祖母、つまり『おばあちゃん』の家だった。部屋の真ん中の大きなテーブルの上には、落ち着いた屋敷の雰囲気とは打って変わって、豪勢な食事が大量に並んでいた。小川が我先にと食事に手を出したようだが、どうやら箸が止まらないようだ。
アリエス「お母さん。まだ何か運ぶものがあったら手伝いますよ。」
おばあちゃん「ありがとねぇ。でももうこれで終わりだから大丈夫だよぉ。」
水野「…ンむッ!?これ美味しい!お母さん!これ何ですか!?」
ゼル「な…なんでこんな事に…。」
レオネル「…仕方無いだろう。お前がガソリンをちゃんと確認してなかったせいで、危うく我々がこの畑の中に取り残される所だったんだ。」
アリエス「本当ですよ。たまたまここが『あなたの祖母の家』の近くだったから良かったものの、ここが無ければどうするつもりだったんですか」
ゼル「ぅ…。そ、それは…。」
おばあちゃん「お風呂、沸かしといたから別々に入ってねェ。寝る所は上が空いてるから、好きに使って良いよぉ。」
ゼルの祖母がそう言うと、小川が勢いよく返した。
小川「ありがとうございます!!!!」
ゼル「……ハァ。」
クレイ「…そう言えば、明日について言ってなかったな。」
水野「明日?」
クレイ「あぁ。少し行く所があってな。…と言っても、別に大した用事じゃないんだが…。」
翌日────。
水野「わぁぁぁ~~~!!!すごーーーい!!!」
ゼルの家を出た後、一行がやってきたのはなんと水族館であった。
ゼル「『視察』って理由でここまで来たのは良いけどよー、結局何の視察なんだ?」
クレイ「…さぁな。」
水族館の景色に圧倒されてか、水野の興奮は収まらないようだ。
クレイ「私達は巫狩を連れて東棟に行くから、お前らは水野と小川を頼んだぞ。」
ゼル「りょーかい。」
クレイはそう言うと巫狩、レオネルを連れて東の棟へ向かった。
…
ゼル「──にしても、随分広れェ所だな」
アリエス「そうですね。まぁ都内一の水族館って言うぐらいですから、大きさもそれなりにあるんだと思います。」
ゼル「ふぅん…。あっ!おい!あんま行き過ぎんなって言ったろーが!」
ゼルとアリエスは、興奮して次のフロアへ走り出した水野とそれに着いてく小川を呼び止めるように駆けて行った。
タッタッタッ…。
ゼル「…ったく、アイツら…。」
アリエス「ハァッ…。楽しそうですねェ。二人とも。」
小走りで追いながら、そう二人で話していた。もうすぐで追いつくかと思われた次の瞬間の事であった。
『キャアァァァーーーーーッッ!!』
ゼル「!」
アリエス「!」
突然、後ろから一般客の叫び声が聞こえたのだ。
アリエス「いっ、今のは…」
ゼル「──行くぞ!」
ゼルの掛け声とも言える叫びで、両者反対に駆け出した。ゼルは水野達の方向、アリエスは叫び声の方向だった。
ゼル「小川!水野!無事か!」
水野「ゼルさん!」
水野「この声は…」
ゼルが走ってきた方角から騒ぎが聞こえる。
ゼル「あぁ。俺らも急ぐぞ!一緒に来い!」
アリエス「こ、これは……」
一般客1「いやぁあぁぁあ!!」
一般客2「く、来るなっ、来るなァアッ!」
ゼル「──アリエス!」
アリエスは騒ぎの原因であるフロアの入口で立ち尽くしており、ゼルはフロア内の光景を一目見ることによって一瞬でその意味を理解した。
ゼル「なっ…」
ゼル「なんだ…コレ」
それはまさに『大群』であった。
水族館の大きな柱の一つを、黒い甲殻を纏ったカブトガニのような生物が覆い尽くしているのだ。その生物には角のようなものが二本生えており、一般客に襲いかかろうとしている。
『ギキャッ、ギキャッ…。』
『ギャキッ!』
化け物の一匹がこちらに気付いた。
アリエス「ゼル!」
ゼル「あぁ…。もう済ませてるぜ…。」
ゼル「…オメーら!後ろ離れんなよ!!」
化け物「ギャキャアァァッ!!」
ゼル「ブラックボックス!オープン!」
レオネル「リーダー!」
クレイ「あぁ!分かっている。」
クレイ達のいる場所、つまり東棟も状況は同じであった。レオネル、クレイと共にブラックボックスを解放しており、レオネルは盾、クレイは剣を構えている。
クレイ「此奴ら…。どこから湧いてきたんだ?」
クレイ「…巫狩、お前は私達の後ろに下がっていろ。」
巫狩「……。」
巫狩は言われるがままに後ろに下がった。しかしその後ろの影に一匹だけ、静かに化け物が近付いてきている事に気が付いていなかった。
化け物「ギキャアァアッ!」
巫狩「!」
クレイ・レオネル「!?」
クレイ「や、やばッ───」
クレイが『やばい』と口に出そうとしたその時だった。
巫狩「…ッ!」
ドガァアッッ!!
クレイ「!」
レオネル「あ、あれはっ…」
突き出した巫狩の左手がまたも変化している。そしてその腕は白く鎧のように硬化し、いつかのように迫り来る化け物を一気に吹き飛ばしていた。
巫狩「……」
巫狩 (…いつか、こうなる事が…分かっていたような…分かっていなかったような…)
巫狩は自分の左手を見ると、ふとセスの言葉を思い出していた。
巫狩「………。」
巫狩「飛び込む、か…。」
化け物「ギキッ!」
レオネル「──ッ!」
レオネル「フン!」
ドグシャアァッッ。
自分に近付いてきた化け物達を、レオネルが盾で一掃する。
ガラガラッ!!
その時、偶然真横で崩れたレオネルと同じぐらいの高さの壁の瓦礫がレオネル向かって倒れてきた。しかしこの時化け物を相手にしていた事により、本来ならば対応できるはずの壁の瓦礫に対し、レオネルは一瞬反応が遅れてしまった。
レオネル「!!」
フワッ……。
突然、レオネルの前に橙色の小さな光のようなものが漂って来た。背面をよく見ると羽のようなものを確認する事が出来る。
レオネル「──!?」
そしてその光はレオネルに向かって倒れてきていた瓦礫にぶつかると、瞬く間にそれを光で包み込み元の形の大きさに戻ったのだ。
そしてそれは近くで交戦していたクレイの元へ飛んでいく。
クレイ「ッ!」
ザンッ!ザンッ!!
クレイ「───ッ!?」
化け物「ギギッ!?」
謎の光は交戦しているクレイの前に現れると、突如大きく光を放ち出した。するとそこにはレオネルの前に存在していたはずの壁の瓦礫が現れ、化け物達の攻撃を防いだのだ。
クレイ「…ッフン!」
ザシュッッ!!
化け物「ギキャァッ!」
攻撃を防いだ隙に化け物達を斬り倒す。クレイは巫狩の方を確認した。
クレイ「あ、あれは───」
レオネル「この、力は……ッ。」
巫狩の姿が、あの時の怪物に変化している。
全身は白の鎧に包まれ、左腕だけに留まらず体中の至る所が硬化されているのが分かる。
そして左手の上には、先程クレイ達を助けたあの橙色の光が複数漂っていた。
巫狩「……………。」
巫狩イツキに、新しい能力が芽生えた瞬間だった。
ゼル「オオォオォッッ!!」
ダンッ!ダンッ!!ダンッッ!!
ゼルの砲弾が周りの敵を一掃していく。
アリエス「………ッ。」
アリエスと共に後退する二人。しかし。
ミシミシッ……
水野「…?」
バギッッ!!
アリエス「!?」
突如、後退していたアリエスと水野達の間に、左側の壁が崩れた事で化け物達が雪崩込んできたのだ。
水野「!!」
小川「や、やばッ──。」
化け物「ギキャァァアアァァァッ!!」
誰もが間に合わないと思った、その時だった。
???「───ッ!」
ドグァアァンッッ!!
水野「!?」
小川「えッ!?」
アリエス「!?」
突然、化け物達が後ろに吹っ飛ばされたのだ。
???「───ったくよォ、せっかく水族館にまで来たってのに、これじゃあ楽しめやしねェじゃねェか」
???「全く…どうやら私たちには、そういう縁は無いみたいですね。」
水野「───ッ。」
それは巫狩でも、ZAQのメンバーでも無かった。
???「……ッフン!」
右手には白い大きな斧。水野たちと同年代に見えるその金髪の男は、仕方がないと言った風に鼻を鳴らした。
???「…………。」
その隣に立つ落ち着いた雰囲気の紫髪の女。これも金髪の男同様、水野達と同年代に見える。
謎の男「準備はいいか、楪さん」
謎の女「…いつでも。」
謎の男「…ッ!」
謎の男と女『──チェインジ!!』
キュオオォォォォォオオ……ッッ
二人をそれぞれ黄色と紫色の光が包んでいく。
やがて光が収まると、水野達はその光景を目にして驚愕した。
水野「───!」
それは『とある白い鎧』に身を包んだ二人だった。
男は黄色と白が混ざった獣のような鎧。女の方は紫と白が混ざっている。
水野達はまだ気づいていないが、これは巫狩の鎧とよく似た形の姿なのであった。
謎の男「…ッシャア!行くぜ!!」
勢いよく男が駆け出した。そして右手に持った白くて巨大な斧を大きく振り回すと、見る見るうちに水野と小川の周りにいた化け物達を一掃していったのだった。
バンッ!バンッ!バンッ!!
ゼル「…ッ!」
大量の化け物を相手にしていたゼルと化け物達の間に先ほどの男が乱入してきた。
ゼル「なッ!?なんだコイツッ!?」
謎の男「邪魔させてもらうぜッ!──楪さんッ!」
謎の女「……ッ!!」
そのユズルと呼ばれる謎の女が男へ向かって右手をかざすと、男の持っていた斧がまばゆい黄色のオーラを放って輝き出した。
謎の男「行くぜ~~~~ッッ……!!」
謎の男「───オラァッ!!」
男が一度斧を振るうと、まばゆい程の光は一つの大きな斬撃となって、化け物達の団塊をはじき飛ばしたのであった。
ドゴォオオオォォォッッ!!!!
化け物「ギギャァアッ。」
ゼル「こ、これは……。」
するとフロアの奥の方から突然大きな音が響いた。
ゼル「!」
クレイ「お前ら!無事か!」
ゼル「クレイ!それにお前ーらも!」
奥の部屋から出てきたのはクレイ達であった。レオネルと変身した巫狩の姿も見える。
ザザザザザザザ…………
不利なのを察してのことか、化け物達が引いていく。
アリエス「怪物が……。」
レオネル「…無ッ?誰だ?味方か?」
ゼル「待ってくれ。コイツらは俺達のことを助けてくれたんだ…。」
レオネル「…?コイツら?」
謎の男「………。」
そうして、水族館での一件は段々と収まっていったのである。
EST本拠地────。
クレイ「…で?その能力はいつから使えたんだ?」
謎の男「えーっと、確か俺が楪さんと出会ったのが1ヶ月くらい前だから…ちょうどその位の時期っスかね。」
レオネル「………。」
ゼル「まさか巫狩達の他に、まだこんな奴等がいたなんてな〜…。」
クレイ「どうして自分で名乗り出ようとしなかった?」
久我と呼ばれる男「一つは、実験だなんだって言って何かの材料にされんのが怖かったからっスかねー。もう一つは、ただ純粋に面倒くさそうだから!」
謎の女「………。」
アリエス「…二人は巫狩君達と同じ最上沢高校に通う高校三年生で、どうやら今も普通に登校しているようです。」
クレイ「フン……。」
クレイは一つ鼻息をつくと、目の前に座っている二人の高校生を交互に見た後に、小さく名前を呟いた。
クレイ「『久我翔太郎』と『伏見楪』、か…。」
アリエス「…どうするんですか?一応周りは知らないようですが、学校には行ってるんですよね?」
クレイ「…このまま行かせるしかないだろう。突然学校に来なくなったら、それもそれで不自然だしな。」
翔太郎「あっ!俺のことは翔太郎って呼んでください!久我久我って名字で呼ばれるの、苦手なンス!」
クレイ「……。」
クレイは、また一つ鼻息をついた。
水野「あの、楪さんはいつからその力を使えるようになったんですか…?」
楪「…?私も、皆と同じように事故にあってからこの力が身についたの。…でも、一人で戦える能力じゃなくて。このままじゃいけないって何となく思ったの。誰かを助けられるようにって、誰かを守れるようにって…。そんな時に翔太郎君と出会ったのよ。」
水野「…そ、そうなんですね…。」
水野「………。」
水野は一人、洗面所でこれまでの事を思い返していた。
…
(クレイ: …という訳で、お前たち三人にもそれぞれ学校に行ってもらうことになった。そろそろ行き始めないと不自然なのでな。順は水野、小川、巫狩の順で行き始めてもらう。詳しいことは後で話す。以上だ。)
…
水野「…………。」
…
(翔太郎と楪:──チェインジ!!)
(翔太郎: …ッシャア!行くぜ!!)
…
水野「……。」
…
(楪:誰かを助けられるようにって…)
(楪:誰かを守れるようにって…)
(楪:そんな時に、翔太郎君と出会ったの。)
…
水野「…誰かを助けられるように、か…。」
???「ウラヤマシイノ?」
水野「───ッ!?」
ガタッ!!
鏡の向こう側。水野の右後方にソレはいた。
白と青の鎧。硬化した体に獣のような顔。
水野「嘘……。」
水野「まさかこれって……。」
水野蒼に、力が芽生え始めた瞬間である。