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re:Alize (リアライズ)  作者: 蒼之ユリ
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第六話:蒼天

EST

・『Extraterrestrial Special Investigation Task Force』の略で、『地球外生命体特務捜査対策本部』を表す。

・地球外生命体の襲来を受けて、急遽政府によって作られた対地球外生命体用の防衛機関である。

・数々の人材と高精度な技術を集結させる事で作られた国家公認の機関。巫狩達もここに保護される事になる。



SFD

・特殊異分子探知装置(Special foreign molecule detection device)。

地球外生命体(ゾディアック)特有の未知の物質、エネルギーなどを発見、測定する事が出来る。

・ESTの職員、ZAQのメンバーなど限られた人間にしか所持は許可されていない。



ZAQ(ザック)

・『Zodiac Countermeasures Headquarters Top Secret Special Forces』の略。日本語に直すと『ゾディアック対策本部最高機密特殊部隊』になる。

・クレイ率いるEST直属の特殊部隊。メンバーは四人で、ESTが創設された後に実質的なESTの特殊任務を行う部隊として極秘で創られた。

・巫狩達の監視役として任命されるが、対象に危険が及ぶ際は全員武器の使用を許可されている。

???『…別に気負う必要は無いんだ』


???『被害こそ出ているが、全てが君のせいという訳ではない。』


???『むしろ君はよくやっているよ。クレイ君。』


クレイ『…………。』


EST本拠地内部、とある一室でクレイはある人物に呼び出されていた。


???『安心したまえ。もし何か起きても君は心配しなくていい。責任を負うのは、私一人で十分なのだから…』


クレイ『…ありがとうございます。』


???『君は本当によくやっているよ…。クレイ君…。』






巫狩(いがり)「…………ぅ……。」


巫狩が目を覚ましたのはとある病室だった。しかしこの見覚えのある風景に巫狩はすぐにどこであるかを悟った。


巫狩「ここは……」


ゼル「あぁ。ESTだよ。」


巫狩「!」


巫狩「ゼルさん…」


ゼル「目ェ覚ましたみたいだな。」


巫狩「ぼ、僕は…一体……。」


ゼル「どこまで覚えてるか知らねェが、あの怪物をぶっ飛ばした後、お前すぐ倒れちまったんだよ。」


巫狩「怪物…。」


ゼル「とりあえず今日は休みだ。明日までゆっくり休めや…。」


巫狩「あの、いま何時ですか…?」


ゼル「午後の7時。もう今日は何もする事ねぇからゆっくり休んどけ。明日になったら診察だなんだでまた忙しいんだからよー。」


じゃ、とそれだけ言うとゼルはコツコツ部屋を出て行ってしまった。


巫狩「あ…!」


巫狩「…まぁいいか」


 一瞬色々な事が頭をよぎったが、やはり面倒くさくなってきたので巫狩は素直に目を閉じる事にした。






翌日。


ガチャン、と部屋の扉が開かれる。


クレイ「!」


ゼル「…お、来たか」


自分を待っていた人間たちに対し、巫狩は小さく一礼した。


巫狩「……。」


 巫狩はとりあえずここに至るまでの経緯を話した。ゼルと図書館に向かった事。そこで怪物に襲われた事。そしてそこで、自らの『内なる力』が目覚めた事。


クレイ「…検査も異常無し。SFDも反応は無いようだ。」


ゼル「お前ェも今は何ともねぇんだろ?」


巫狩「はい…昨日の怪物の件についてですが…」


メルル「どっから来たのかっつー話だろ?」


メルル「あの騒ぎの後、職員の連中が中を見て回ったそうなんだが、そしたらそれはそれは大きな穴が見つかったんだと。」


巫狩「穴…?」


ゼル「オゥ。なんでも噂じゃ形を見るにモグラみてーにここまで掘ってきたんじゃねぇかって。それで人間が出てくるまで潜んでたんじゃねぇかって言うのが、今一番言われてる推測だな。テレビじゃ好き放題言われてるぜ。」


クレイ「…ちなみに、穴の出処はない。」


巫狩「な、無い…!?」


クレイ「あぁ。どういう訳か、あんな巨体で地下を掘り進んできたにも関わらず元をたどってみると、地中のど真ん中で止まっていたそうだ。まるで地面の中で、突然その場所に生まれてきたみたいにな。」


巫狩「そ、それは…」


ゼル「だから、コイツの話を今はとりあえず信じるしかねぇって結論になったのが昨日だ。」


ゼルはそう言いながら、フワフワと近付いてきたメルルを親指で指さした。


クレイ「…私はあの時点で斬ってやっても良かったけどな。」


メルル「オイオイ…昨日の二の舞は勘弁してくれ」


ゼル「確かに、こいつが俺達を一人ずつ殺す為に仕向けた可能性も考えたが、まぁ昨日の事と言い役に立たなかったワケじゃねぇからなァ〜。」


巫狩「なるほど…そんな事が…。」


すると部屋の向こう側から小川と水野、そしてレオネルの三人がやって来た。


小川「おぉ!!巫狩じゃねぇか〜〜!!」


巫狩「小川…それに」


そう言いながら、巫狩は水野とレオネルの方にも一礼した。


小川「生きてたのか~~!!!」


巫狩「…まぁな。」


レオネル「無事で何よりだ。…昨日の事は聞いた。大変だったな。」


巫狩「…ありがとうございます。」


レオネル「これからどうするつもりだ?」


クレイ「まだ決まっていない。…というより、指示されていない。」


ゼル「様子見ってか…」


クレイ「という事だろうな。とにかく、全員気を引き締めておけ。」


クレイ「巫狩、ちょっと来い。」


巫狩「…はい。」




コツ、コツ…。


巫狩「…何ですか?」


クレイ「体調は大丈夫なのか」


巫狩「…えぇ。今は何ともありません。」


クレイ「そうか…」


クレイ「…………。」


巫狩「…あの、何ですか?」


クレイ「いや、特に何と言うことは無いんだ。だが、昨日の事もある。何か気付いたことがあればすぐに言ってほしい。あの力の事だが、今はどんな感じなんだ?」


巫狩「分かりません…あの時は必死だったので、どうやって自分で出したのかも…。でも、何となく『そうした方がいい』って言うのは分かったんです」


クレイ「無意識…という事か?」


巫狩「はい…今は、何も感じません…。」


???「聞きましたよ。事件のこと。」


巫狩「!?」


声の方を振り向くと、壁の影からスーツを着たとある老夫が現れた。


巫狩 (誰だ?)


クレイ「!」


老夫に気付くやいなや、クレイはバッと頭を下げた。


巫狩「!」


巫狩 (まさか…)


クレイ「巫狩も頭を下げろ。」


クレイ「この人の名は撓木(しなぎ)(みつる)。私の上官にあたる人だ。」


巫狩「…ッ。」


巫狩も慌てて頭を下げる。


撓木「良いんですよ。私なんか所詮、ただの老いぼれですから…。」


撓木「それよりも。昨日の事件、大変でしたね。あなたが巫狩さんですか。」


巫狩「…巫狩です。」


一応もう一度会釈程度に頭を下げる。


その撓木(しなぎ)という老夫に対し巫狩は、小柄と言うよりかは細々しいという印象と、クレイの上司にしては意外な人物が出てきたなと印象を抱いた。


撓木「大変でしょう…まだここに来て、間も無いというのに」


巫狩「いえ…少しずつですが、慣れてきました。」


撓木「そうですか…。それなら、良かったです。」


クレイ「撓木上官、一体…なんの御用で?」


撓木「いえいえ…たまたま、散歩がてらに此処を通っただけですよ。そうしたら、あなた達がいたので。」


撓木「それでは、私はこれで。これ以上、お二人のお邪魔をする訳にはいかないので…。」


 そうすると、撓木上官はスッと別の方向を向いて行ってしまった。クレイが一瞬あっと言いかけて止めようとしたが、すぐに姿勢を正して頭を下げていた。巫狩もそれに釣られるように頭を下げた。


クレイ「…フゥ」


巫狩「あの人が…」


クレイ「あぁ。今の人が、撓木(しなぎ)(みつる)上官だ。どこかで会うかは分からないが、名前と顔だけでも覚えておけ。」


巫狩「………。」


その時、巫狩が窓の外の何かに気づいた。


巫狩「……ん?」


クレイ「どうした?」


巫狩「あれって、何ですか?」


巫狩は窓の外の正面入口を指差した。距離は若干遠いが、よく見ると入口の所でとある車が止まっているのが見える。


クレイ「あぁ、あれか。あれは遠征チームの車だな。…この前の事件の時に研究所に行っただろう?あんな感じでウチや研究所から、日本各地のゾディアックとかの疑いがある地域を調査しに、我々以外にも職員が確かめにいったりするんだ。それの帰りだろうな。」


巫狩「なるほど…」






 その頃、クレイ達が出ていった後の部屋では各々が自由に話し合っていた。水野は小川とメルルに、ゼルはレオネルと話していた。


レオネル「…どうした」


ゼル「分かるだろ。」


ゼル「この前の事と言い、昨日の事と言い…。化け物が出てくる頻度が明らかに短くなってきてる。この先何かあるんじゃねぇかって思うのは俺だけか?」


レオネル「……いいや、俺もだ。」


ゼル「あのヤローは言った。これからあんなのがどんどんやって来るってな。でもそれ以上に、なにか恐ろしいことが起きるんじゃねぇかって…そんな気がするんだよ…。」


メルル「おい」


ゼル「!」


レオネル「…なんだ?」


メルル「あの車には何が入ってる?」


そう言うと、メルルは窓の外へ視線をやった。


ゼル「ん?外?」


レオネル「…遠征チームの車だな。あれがどうかしたのか?」


メルル「………」




 話をしていた巫狩とクレイの元にゼルとレオネルが駆けてきた。後ろにはメルルの姿も見える。


巫狩「!」


クレイ「なんだ?」


ゼル「あの遠征チームの車を止めなきゃならねぇ!」


クレイ「何?」


ゼル「あの車からゾディアックの気配がするんだとよ!」


クレイ「──!」


メルル「間違いないぜ。あの中に絶対いる。」


レオネル「早く止めに行くぞ!」






職員1「あのー…何でこんな事するんですか?僕達はただ調査して帰ってきただけですよ〜…。」


職員2「…中にあるのは調査とかに使う為の機材だけです。」


EST本拠地の正面入口。遠征チームの乗っていた車は門の端に停められ、中の職員は検問を受けていた。


クレイ「…どうだ?」


ゼル「今検問中だ。」


ゼル「…職員は四人。他県への調査でここ数日本部を離れていたが、予定通りに今日帰還。中には調査用の道具しか見当たらず、特に変わった事はない…。」


クレイ「…どう思う」


ゼル「どうだろうな…。もしかしたら何か隠してるかもしんねぇし、人間のフリをしてる奴が居てもおかしくねぇ」


ゼル・クレイ「………。」


二人がじっと遠征チームの方を見ていると、隣にいたメルルが急に喋り始めた。


メルル「……おかしいな」


ゼル「…何がだ?」


メルル「…いねぇ。」


ゼル「ハァ!?」


メルル「さっきまでは居たはずだ。間違いなくここにいた。…だが今は感じねぇ。あの中にはもういねぇ。」


ゼル「ふざけんな!お前ェが居るっつうからわざわざここまで走ってきたんだろうが!」


メルル「俺だってわざわざこんな面倒な嘘なんかつかねぇよ!」


クレイ「…おいまさかお前、わざと私達を呼んでここまでおびきよせたんじゃ無いだろうな?」


メルル「違ェよ!そんないちいちめんどくせぇ事するか!」


レオネル「…どうしてだ?どうして急に敵の気配が消えたんだ?」


巫狩 (……。)


クレイ「…中へ戻るぞ。アリエスに情報部の方へ連絡しておくよう伝えておけ。」


 理由は当然巫狩にも分からなかった。四人は遠征チームの検問が終わるのを見守ると、すぐに中へ戻って行った。




 四人とメルルは急いで部屋に戻ったが、そこには先程入れ違いになったアリエスがいるだけだった。水野と小川の姿は見当たらない。


クレイ「アリエス!」


アリエス「えぇ。もう長野さんの方には連絡しておきました。警報は鳴っていませんが、今頃警戒態勢に入っていると思われます。」


クレイ「水野と小川は?」


アリエス「それが分からないんです。ちょうど僕が来た時に二人とも部屋を出て行ってしまって。携帯に掛けても二人とも繋がらないんです。でも、水野さんは確か部屋に行くと言っていたような気がします。」


クレイ「わかった。ゼル、レオネル。お前らは小川を探しに行け。私は水野の部屋に行ってみる。」




水野「フンフフフーン…フンフン…。」


 利用者の部屋に併設されている浴室で、水野は服を脱いでいた。シャワーを浴びる手前なのだ。


水野「…あれ?ドア開けっぱなしにしてたっけ」


廊下に続くドアが少し開いていることに気づいた。


水野「閉めとこ。」




ゼル「あ!居た!」


小川「…ん?なんスか?」


レオネル「ここに居たのか」


小川は無人購買でパンを買っている途中だった。その両手の中に3つも4つもパンを抱えているのが見える。


小川「えぇ。腹減ったし、メシまで時間あるからいっかな〜と思って。」


ゼル「…あのなぁ」


小川「?」


ゼル「なんで電話に出ねぇんだ?」


小川「電話?あぁ!ほんとだ!いや〜、てっきり使わないと思って電源切っちゃってて。すみませ…」


ゼル「…ッ!!」


ガッ!


呑気に話す小川にたまらなくなったゼルが、小川の足に蹴りを入れる。


小川「痛ッ!?な、なにするんですか!」


ゼル「…フンッ!」


ゼルは鼻を鳴らしてそっぽを向いた。


レオネルはすぐにクレイに電話をかけた。


レオネル「…クレイか?小川君の方は大丈夫だった。」


クレイ「そうか。こっちもすぐに向かう。」




サアアアァァァァ……


水野「フンフフフンフフフーン…。」


シャワー室に水野の鼻歌が反響する。


水野「フンフフフーン…。」


ガチャ……。


キィ……。


鍵を閉めたはずの浴室のドアが開く。ゆっくりと、音を立てずに静かに開く。


サアアァァァァァ……


水野「……。」


水野「…!」


 体を流していた水野は、外の異変に気付き反射的にシャワーの栓を閉めた。


水野「………。」


 シャワー室のドア。扉の向こう側にじっと目を凝らし、水野が誰と口を開こうとしたその瞬間だった。


クレイ「水野か?」


水野「!」


水野「クレイさん?」


クレイ「あぁ。私だ。こんな時にすまない。」


クレイ「突然だが、EST内にゾディアックが侵入した可能性がある。安全が確認されるまで浴室の中で待機しててくれ。」


水野「…わ、わかりました」


クレイ「この後すぐにゼルが来る。私が部屋を出ていった後に鍵をかけておくから、あいつが来るまでは部屋の鍵は絶対に開けるなよ。」


水野「わ…わかりました。」


クレイはそう言うと、部屋を出ていって鍵を閉めた。


…ガチャン。


水野「……。」


 水野は確認の為に、恐る恐るシャワー室のドアから顔を出した。鍵はしっかり閉められており、部屋に何も異常は感じられなかった。


水野「…フゥ」


とりあえず体を流すためにシャワーを出す。一応早めにシャワー室を出る為に、水野は体を流すことに専念し始めた。



サアアアァァァァ……



???『……………。』



その真後ろに、透明で巨大な化け物が居るとも知らずに。




アリエス「変ですね…。」


アリエス「突然消えるなんて…瞬間移動でしょうか」


メルル「いや、違うと思うな。逃げた感じもしなければ、離れていった感じもしねぇ。ヤツはまだ近くにいる。そんな気がするぜ」


巫狩「隠れているって言うのは?」


アリエス「…?」


メルル「隠れているだと?」


巫狩「もしくは潜んでいるっていう方が正しいのかもしんないけど…。こっちが相手の位置を探知できるように、相手も自分の位置とか気配っていうのを消せるんだとしたら、いくら怪物だったとしても隠れる事は可能なんじゃないかな」


メルル「じゃあなんだ?俺達が化け物を見失ったあん時も、ソイツは車の影にでも隠れてたっつーのか?大体前も後ろも囲まれてるあの状況で、どうやったら俺達全員にバレずに隠れられるって言うんだよ?」


巫狩「…見えてないのかも。」


メルル「ハァ?」


アリエス「…見えてない?」


巫狩「はい。もしかしたら…見つけられないんじゃなくて、初めから見つけてたのかも。それがただ、僕たちには見えてないってだけで…」


メルル「…そうか……。」


アリエス「透明って事か……」




水野「ふぅ~~…。」


シャワーを浴びて、服に着替え終わった水野は部屋を出ようとしていた。


ポタ…ポタ…。


水野「…?あれ?」


水音に気付き足元の周りを見てみるが、濡れているところはどこにも無い。


ポタ………ポタ………。


水野「おかしいな……」


水野「…………。」


水野「───ッ!!」


 ふと後ろを振り向くと全身を蒸気で濡らした、明らかにこの世のものでは無い怪物、異形の者がそこに立っていた。体格は2メートル未満で、クラゲのようなぶよぶよの皮膚に透明に透き通った身体。よく見るとその中を薄い緑や黄色などの神経が通っている。


水野「こ、こ、これって、これって」


 あまりにも突然の事態に言葉が出てこない水野。この狭い密室に、怪物とこれまで気付かずに同じ部屋にいたという恐怖が一気に襲ってきたのだから無理もないことである。


水野「う、あ、あっ。」


あまりの事態に正常に体が動かない。ガクガクの足で何とかドアにたどり着き、震えながらも鍵を開け扉を開く。



───バタンッ!



 ドアが開かれる時とほぼ同じタイミングで、外の廊下へと倒れ込む水野。一縷の望みをかけ周りを見渡すがそこにクレイの姿は無い。


水野「い、いや…いや…っ!」


自らを守る術はそこには無い。必死に手を振り回し、化け物から逃れようとするが、腰が抜けてしまって走ることも出来やしない。


化け物「……………。」


化け物はゆっくりと近づいてくる。


水野「い、い──!」


恐怖に飲み込まれ、ついに声もあげられなくなったその次の瞬間であった。



???「おい、クソッタレ」


化け物「……?」



ドガァァンッッ!!



化け物「!!!」


銃声とともに、化け物の透明な胴体に盛大に穴が空く。


水野「!?」


反射的に声の主の方を振り向く。水野はそこに立っていた男の名を呼んだ。


水野「ゼ、ゼルさん!!」


ゼル「大丈夫か水野!はやくこっち来い!」


化け物「ギエッ!!キィエェッッ!!」


ゼル「どうやらよォ、車には乗ってたんじゃなくて、後ろにしがみついてたって感じだなァ~~。」


ゼル「……なるほどな…」


ゼル「透明になれる訳か。どうりであの時は気付かねぇはずだぜ。そりゃ見えるはずねぇもんなァ」


化け物「ギェッ!!ギェッッ!キエキエッ!」


ゼル「キレたのか?そりゃ悪ィな。なんたって…このままくたばってもらうんだからよ!!」


ガアァンッ!!ガァンッ!!


ガァアンッッ!!ガアァンッ!!!


 化け物の胴体が撃ち放たれる火薬によって、まるで水滴のようにびちゃびちゃと吹き飛んでいく。


化け物「ギッ……ギガッ…!!」


ゼル「流石に効いたろ、このまま撃ち続けてれば……」


ゼル「……ッ」


 ゼルは驚愕した。化け物は大事そうに自分の穴の空いた体を撫でていると、何と触れられた箇所が瞬間的に復活するのだ。


ゼル「なっ…バカなッッ…」


化け物「………ッ!」


今度はこちらの番だと言わんばかりの勢いで、怪物は攻勢に転じてきた。


ゼル「──ッ水野!俺の後ろに隠れてろ!」


水野「はい!」


化け物「ッッ!!」


ブォンッ!!ブォンッッ!!


ゼル「うぉっ!コイツ……ッ!」


ゼル (避けるのは簡単だが食らう訳にもいかねぇ!しかもすぐに回復して来やがるッ…!)


ブォオンッッ!!!


ゼル「うおぉっ!?」


水野「きゃっ!」


ドタンッ!


 化け物の攻撃範囲が思ったよりも広かった為に、避ける際にゼルは水野と倒れてしまった。


ゼル (やべっ…!)


バアァンッッ!!


ドグシャァッッッ!


化け物「ギェッッ!」


ゼル「ッ!?」


ゼル「な、何だ!?」


倒れた勢いで発砲したのか、あまりの強さに吹き飛ばされた化け物がよろめいた。


ゼル「い…いま、俺が撃ったのか?それに…。」


ゼル (何だ…?)



オオオォォォ……。



ゼル (武器が…青く、光ってる?)


その時、ゼルはもう一つの事に気付いた。


ゼル「!」


水野「痛ったた…。」


ゼル「今…お前が触ったのか…?」


水野「え…?」


 水野の手をよく見てみると、右手の甲がほのかに青く光っている。


水野「え…!?な、何これ…?!」


ゼルは自分の手に持っている銃を静かに見た。


ゼル「………そうか……」


水野「な、何がですか?」


ゼル「水野、手伝ってくれ!」


水野「はい…!?」




化け物「ギッ……キキ……。」


化け物「───!」


 それはこれまでとは違う光景だった。ゼルは両手で銃をまっすぐ構え、水野がそれを後ろから支えるように右手で銃の胴体を持っている。


ゼル「……一回きりだ…。ちゃんと抑えとけよ…ッ!」


水野「…ッはい!!」



化け物「キィィィイィィイイ!!」



 奇声とともに化け物が襲いかかってくる。その時だった。


キュオオォォォオ………。


 銃の胴体を支えている水野の右手の青い光がさらに光を増していくのだ。そしてそれは銃身へと伝わり、銃口の青い光が最高潮に輝いたと思われたその瞬間───。



ドグアァァアァアンンッッ!!!!



化け物「──ッ!」



バグォオオオォオオン!!!!



 天を衝くような蒼天が一帯を包んだかと思うと、凄まじい勢いで化け物の体が吹き飛んだ。化け物の胴体含め、背後にあった壁やコンクリートでさえ剥き出しになるほどの威力である。

 化け物の方はというと、もはやかろうじて下半身が残っているであろうかという状態であった。


水野「………。」


ゼル「………。」


事が終わって、少しの沈黙を挟んだ後に水野が口を開いた。


水野「あの…ゼルさん、これって……。」


ゼル「…まぁ、今はいいんじゃねぇか?」


水野「へ?」


ゼル「とりあえず、成功を喜ぶってことでさ…な?」


水野「………。」



水野は、少し黙ってから笑った。



水野「そ…そうですね…。へへ…。」


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