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第24話 私はもうすく大人に

「お疲れ、大丈夫か」

 お客様がお帰りになられて、二人きりになったと同時にボスが心配そうに私を見ました。

「体調悪いんなら遠慮無く言うんだぞ」

「いえ、そういうんじゃないんです。ところでさっき倉橋さんとはどんな話をされていたんですか?」

 私はさっき倉橋さんにした質問を同じようにボスに投げかけました。深い理由はありません。ただの興味本位です。

「そうだな、好みの話とか」

「本の話ですよね?」

「なんだ聞いてたか。他は…ってそんなに気になるのか?」

「いえ別に、話したくないなら構いません」

「なんなんだ…そんな込み入った話はしてないぞ。世間話だ世間話」

 ボスは首の裏を掻くような仕草をしました。

「なら、酔ったときの話とかは聞いてませんか?」

「まぁ…そうだな。向こうが話したくないなら聞くべきではない」

「でもボスにも知って欲しくて、これなんですけど…」

 私はスマホの画面をボスへ向けました。

「小さくて読めん」

「はい」

 スマホを渡すとボスが目を細めて凝視しました。

 ボスに見せたのは先程の遺書です。要望通りに端末から削除はしましたが、それでは忍びないので撮っておいたのです。 


「これは…」

 たっぷりと時間をかけて読み終えた後、彼は口をもごもごとさせました。ボスが狼狽する姿を見たのは初めてのことです。

「こんな文章をあの状態で本当に書いているんだろうか」

「事実書いてるじゃありませんか。ボス、これはどうしたらいいんでしょう」

「どうって…」

 二人で腕を組んでしきりに悩んだ後、ボスが顔を上げて言いました。

「ま、なんとかなるだろう。とりあえず今日はもうあがっていいぞ」

「あ、ありがとうございます。あの、ボス」

「どうした?」

「実は私もうすぐ二十歳になるんです。だからその、一緒にお酒を飲んで欲しいなって」

「そうかそうか、分かった。楽しみにしておきなさい」

 ボスの声は誰にも分かるくらい上気していました。

「えへへ、美味しいの教えてくださいね。それじゃお疲れ様です」 

 

 帰りのさなか、気にも留めなかったボスの「楽しみにしておきなさい」という言葉がずっと引っかかっていました。意味を汲み取るのなら、何か催したりとかとっておきの秘酒があるとか、お店とかそういうことなのでしょうか。まだ私はお酒をちぴりとも味わったことのない子供ですから、ボスのお出しした何某に相応のリアクションを取れるか少し不安です。舐めた瞬間全身が真っ赤になってしまったらどうしましょう。

 そんなことを考えながら帰路について、自宅ではずっと倉橋さんについて考えていました。もはや恋と言えるくらい一途にです。もう一人の彼女が残した遺書、スマホの中で眠るそれをもう一度呼び起こし、眺め倒しては目を瞑り黙想してを繰り返すうちに眠気がすぐ隣にやって来て、私は朝を受け入れました。


 シフトの有無に関わらず、私は毎朝『Rコール』に行きます。ボスと供に目覚めの一杯を頂くことは私にとってもうすっかり日常で、代わり映えはしません。いつもコーヒーをカウンター席で受け取り、手を合わせてからちびちびと啜るのです。

 私が小さく欠伸をするとテーブル越しのボスに移りました。遠慮がちにした私と違って豪快にやってのけ、

「いつもはお前が移される側だったような」

「少々寝不足かもです私」

「今日は大学か?」

「そうなんです、これ飲み終わったらすぐ行きますね」

「ほれ、砂糖」

 ボスがそう言ってステンレスのシュガーポットをくださいました。早く飲み終えるにはこれに限ります。

「流石です、いただきます」

 小さなさじで砂糖を入れて、勿体ぶらずに飲み干しました。

「コップはそこに置いといていいぞ、行ってらっしゃい」

「えへへ、行ってきます」

 ボスは親切な方だと常々思います。倉橋さんがそうだったように、よく知らない人からしたら無愛想に映るのかもしれませんが、それでも浮いた話の一つや二つないのはどうも不思議でなりません。

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