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冬の童話祭2024

ゆきちゃんがうどんを食べる話

作者: 六福亭(さみ)


 ゆきちゃんは、うどんが大好きな女の子です。


 ある夜、ゆきちゃんはおふとんの中でこんな夢を見たのです。


 __ゆきちゃんがお家にいると、やすあきおじさんがやってきていいました。

「ようよう、ゆきちゃん! おいちゃんとうどんを食べにいこうや」

 そこでゆきちゃんはおじさんといっしょにいくことにしました。ゆきちゃんと、やすあきおじさんは、近所の「大介うどん」が大好きなのです。


 ところが、今、おじさんが連れてきてくれたのは、知らないうどん屋さんでした。

「ここ、大介うどんじゃないの?」

 ゆきちゃんはおじさんに聞きました。

「ちがうよ。ここは、“大好きうどん”さ。うどんが大好きなお客しかこないんだ」

 お店の中に入ると、ゆきちゃんは、ほっと安心しました。大介うどんと同じ中身だったからです。手を洗うシンクも、うどんをざるに入れてお湯にじゃぶじゃぶするおなべも、うどんの上にのせるおかずのたなもありました。

「ゆきちゃんは、何玉食べる?」

 おじさんに、こう聞かれました。おじさんはいつも5玉です。ゆきちゃんはいつも2玉、時々3玉も食べられるときがありました。


 3玉のうどんをさっとゆでて、ゆきちゃんとおじさんは列をすすみます。わかめと、おねぎと、肉ごぼうと、えび天をのせました。おじさんは、とり天と、たまごと、じゃこ天をのせて、おにぎりも買いました。


 席に座って、「いただきます」を言おうとしたとき、誰かがゆきちゃんのところにやってきていいました。

「そのおねぎ、おいしそうだなあ。ぼくも食べたいな」

 見ると、まっ白なうさぎが、耳をぱたぱたさせて、ゆきちゃんのどんぶりをのぞきこんでいました。

「いいよ」

 ゆきちゃんは、おねぎをうさぎのどんぶりに入れてあげました。うさぎはとても喜びました。

「ありがとう。かわりに、これをあげる。4つばのクローバーだよ」

 

 ゆきちゃんが、4つばのクローバーとわかめと肉ごぼうとえび天ののったうどんを食べようとしたとき、ごろごろと不気味な音がきこえてきました。そして、お店の中がぴかっと光ったかと思うと、ゆきちゃんのそばに大きな鬼がやってきました。

「ゆき」

 それは、かみなりさまでした。かみなりさまは、うどんを食べにきたのです。

「おいしそうなうどんだな」

「うん」

 ゆきちゃんは、かみなりさまに、にっこり笑って返事をしました。

「この、茶色いのは、何だ?」

「肉ごぼうだよ」

 ゆきちゃんはそう言ったあと、どんぶりをさしだしました。

「よかったら、あげる」

「ありがとう」

 かみなりさまは、ごろごろとかみなりの音をたてながら、雲のくずくずしたかけらをお礼にくれました。


 ゆきちゃんが、4つばのクローバーと、雲のくずくずと、わかめとえび天をのせたうどんの良いにおいをかいだとき、窓の外で誰かがとんとんとノックしました。

 窓を開けると、ふくろうがすーっと入ってきました。

「ホーホー、こんばんは、ゆきちゃん。ホーホー」

 ふくろうがホーホー言うから、ゆきちゃんもその真似をしてみました。

「こんばんは、ふくろうさん。ホーホー」

「おうどん、おいしそうだね。ホーホー」

 ふくろうは、ふわりと羽ばたいて、空中に浮かび上がったわかめをくわえました。

「あっ!」

 ゆきちゃんが大声を上げると、ふくろうはあわてて言いました。

「ごめんよ、ゆきちゃん。わかめのかわりに、いいものあげるよ。夜空のきれはしだよ」

 それはわかめそっくりに真っ黒でした。ふくろうは、きまりが悪いのか、はやばやと飛んで列に並んでいってしまいました。


 ゆきちゃんが、4つばのクローバーと、雲のくずくずと、夜空のきれはしとえび天をのせたうどんを食べようとしたとき、足下で小さな声がしました。

『ゆきさん、ゆきさん』

 それは、とても体が細い、トックリウミグモでした。いったい、どこから入ってきたのでしょうね?

『わたしにも、うどんを分けてくださいな』

 ゆきちゃんはちょっと迷って、えび天をウミグモにあげました。

『ありがとうございます』

 ウミグモは、列に並んでとったらしい、自分の体より大きな皿をゆきちゃんにくれました。

「これ、なに?」

『……の、天ぷらです。おいしいですよ』

 ウミグモの声はとっても小さかったのです。


 4つばのクローバーと、雲のくずくずと、夜空のきれはしと、不思議な天ぷらをのせたうどんが、ゆきちゃんの前にありました。

 けれど、ゆきちゃんはその時、ちょっと悲しい気分でした。うどんが、すっかり冷めてしまったからです。

 その時、お店の天井が開いて、夜空からお星さまがおりてきました。

『ゆきちゃん、いいものをあげましょうね』

 ゆきちゃんはとてもびっくりして、お星さまを見上げていました。

 お星さまは、湯気のたつおなべから、あつあつのおつゆをどんぶりに入れてくれました。

『天の川の水から作ったおつゆです』

 お星さまは、お客のみんなにつゆを配ってくれているのでした。特製のおつゆに特製のおかずをのせたうどんは、すごくすごくおいしかったのです。



 大晦日のお昼に、ゆきちゃんはお母さんお父さんと、おじさんと大介うどんに行きました。

「ゆきちゃんは、今日は何をのせて食べる?」

 お母さんが、ゆきちゃんに聞きました。

 ゆきちゃんは、すかさず答えました。

「4つばのクローバーと雲と夜空のきれはしと、天ぷら!」

 お母さんたちはびっくりしました。

「まあゆきちゃん、そんなものは大介うどんにはないのよ」

「あるもん! 大好きうどんにはあったんだもん」

 ゆきちゃんはがんこに言い張りました。かみなりさまや、ウミグモや、ふくろうやうさぎと食べた、あのうどんの味を思い出しながら。


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― 新着の感想 ―
[一言] うどん、良いですね! 可愛らしいお話でした。
2023/12/28 13:44 退会済み
管理
[良い点] とてもあたたかな、心がほわほわするお話でした 夢のおうどん、また夢で食べられるといいですね
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