29話 変態会計を認めないっ! その2
「あ、そういえば冬司の取っておき情報っての教えてくれ」
「よくぞ聞いてくれた。実は……冬様は最近、週末1人で帰ってるみたいなんだが」
そう、ほぼ毎日のように乗り合わせてくる冬司が、週末だけは用事があるらしく、別行動なのだ。
「その用事、実はなんだが……」
「あ、読めたぞ。つまり取っておきの情報は塩谷がストーカー的才能を発揮して突き止めた内容か?」
「そうそう僕のストーカー的才能を……って違う!! やってない!! ホントだって!!」
「塩谷、やはりお前……」
カマをかけてみると、あつらえたようなノリツッコミが返ってきた。これは自白と捉えるべきか、怪しい。
「いや怪しい……重要参考人?」
「ああ、もうっ! 毎度毎度……」
頭を掻きむしり項垂れる重要参考人……
俺がじっ、と見つめていると塩谷はワナワナと手に力をこめて主張を開始した!
「これでも僕は会長との言いつけを守りながら冬様と接してるんだ! 僕の我慢も知らないくせに……! 少なくともアンタらで百合が咲いている間はなるべく挟まらないよう努めてるてのッ! しかも僕はアンタらの中身知ってるからな!? そのせいで捗ってはいけないものが捗って……!あぁ……!」
いったい何を言っているのやら……
鬱憤を爆発させる塩谷に面倒くささを感じつつ、この地雷を踏み抜いた責任者を探す俺だったが、話を脱線させたのも他ならぬ俺自身であることを思い返し、贖罪がてら、話を本筋へ戻そうと口を開く。
「わかった。塩谷、お前も大変だったんだな。ひとまず塩谷の容疑は後で取り調べるとして、一旦冬司の話を進めてくれないか」
「もういい加減勝手に容疑をかけないでもらえるかな……? まぁいいか。ええっと、冬様の週末なんだが、なんと……」
迫真──冬司の怪しい挙動は俺もずっと気になっていた。
ゴクリ、と唾を飲んでもったいぶる塩谷の言葉を急かす。
「なんと?」
「──読者モデルやってるらしい」
「マジで?」
……勤まるのか? あの冬司に。
「ああ、マジだ。これ知ったのは親父の元同僚だった人の天下り先……げふん、再転職先まで挨拶に付き合わされた日の事だ。行った先はその人が代表やる会社の持ちビルで複合施設の……まぁ詳しくは言えんが」
常々前置きの長い奴だ。得意げなのも鼻につく。
「……中のテナントを見学する流れになったんだ。それである階のスタジオを回った時、たまたま撮影中の冬様を見かけて……」
塩谷の話から推察するに元同僚……つまり元警察官僚のあまく……転職先か。再転職と言ったあたり離職後2年、いや5年は経過しているのかもしれん。
持ちビルやら見学やらの単語を踏まえて警備会社、いや、もう少しグレーゾーンな企業へ仮定、さらに東京に複合施設を持つとなると……
「うん、大まかな目星はついた。きっと豊条の関連企業も絡んでそうだし、俺も見学できるかもしれん……」
「ほんと、普段鈍感のくせになんでそういうとこだけ鋭いんだアンタ? そしてやめとこうか」
「うーん、まぁ迷惑かける訳にもいかないし……断念するか。それにしても、冬司行動パターンから逸脱した位置情報記録……あれ読者モデルやってる時のかー……塩谷、なんだか誇らしいな?」
友人兼推しのメジャーデビュー……感慨に浸りながら、とす、とスマホを眺める塩谷の隣へ座る。
この男は偶然だったにしろ、その慧眼で現場に居合わせたのだ。さすが冬様ファンクラブ会長、侮れない。
「そうだなー……僕らの天使冬様なだけあって当然スカウトらしい。スマホに撮影写真も──いやちょっとまて会長。アンタ今うっすらストーカー自白してたよな」
「してないよ」
「笑顔!? 怖! え……でも今、位置情報記録って? え?……幻聴?」
失礼な。防犯上の都合から、超高校生級の美少女である推し兼悪友の位置情報を記録しているだけだ。ストーカー? シテナイヨ?
「そんなことより写真を見せてくれ」
「そんなことで済まされない発言が聞こえた気がするんだが……」
首を捻っている。ニコニコ笑顔でうやむやにできないあたり、塩谷は手強い。
「ああめんどくさいっ! どうせまた幻聴だろ! 脱線するな塩谷会計! しっかりしろ!」
「??……あれ?? ほんとに幻聴なのか……」
……しかしゴリ押しでまくし立てれば煙に巻けるらしい。
「ええっと、スマホだったか?……少しまってて……」
塩谷はそう言うと、スマホの背を俺に向け、なにやらいそいそとデータを探しているようだった。
「なにやってんの?」
「ファイル整理」
「ふうん」
俺はいつまで待ちぼうけを喰らえばいいのかね?
…………ああ……待ちきれん!
「……じれったい、貸せ!」
「おわ……っとと」
俺が飛びかかると、塩谷はびっくりして立ち上がり、俺の背より絶妙に高い位置までスマホを持ち上げた。
よほどスマホの中身を詮索されたくないと見える。
元男子高校生的な推理を発揮するに、差し詰め、猥褻図書館電子版といったところだろうが……見るなと言われれば見たくなる!
「あっ、おい、なんで! 塩谷、そいつをみせろ! よっ! と、ほっ」
俺の背が縮んだからか、飛んだり跳ねたりしても絶妙に届かない……!
「色々整理してから見せるっての! だから1回離れてくれ!!」
塩谷はひたすら視線を上に上げ、何やら顔を赤くしている。
そんなに見るなと言われれば余計に……!
思い返せば塩谷は得意げにそのスマホで[スケベ画像]展覧会をやっていたような気もする。
だったらなにを今更隠し立てをするのか、水臭いじゃないか!
「そもそも、塩谷のスマホエロ画集なら知ってるし、なにを今更……」
「あぁぁい、ぃ今あっ、ああ当たってんだよッ?! その、会長の胸がですね?! この体勢!! その……とにかく離れて!? アアアンタは今の自分の姿、もうちょっと自覚しろ!!!!」
今?? 塩谷のスマホを奪おうと夢中に両手を伸ばす俺と、取られまいとピンと手を伸ばす塩谷……
少し汗ばみつつ、俺と塩谷の上半身は密着していた。
「……? え、あー……」
「……あぁあもう、ほんっっと……! 勘弁してくれ……」
どうやら俺は性転換以降、俺はこの手のドジを踏みやすい体質になっちまったらしいな。
今回は相手が塩谷のような理想だけが高い童貞友達(仮)だからまだいいが、これがもし、相手が女の子だった場合は……気をつけねばならん。
「……え、っと……ごめん? え? いや、でも塩谷って冬様以外に欲情しないんじゃ……?」
「……鏡見たことある?」
「ある、けど、塩谷だろ……?」
「……僕を何だと思ってるんの? いやもちろん僕は冬様第一だが。その上でこれは今後の会長のためを思って言っておくとな」
塩谷は立ち尽くす俺を一瞥し、やけに大きくため息をついたかと思えば「ああ、もうっ」とまた頭をかきむしって、真剣な顔をした。
「……アンタほどの美少女が!顔近いわ声エロいわフローラルな匂いするわちょこちょこ胸まで当たってるわってるわって状況で……! 悩殺されない男はいないんだよ……」
「……いや、中身……俺だぞ?」
「だとしても!」
すごい勢いで、力説されてしまった。
「塩谷は……悩殺されたのか」
「な、いや、だって仕方な……ノーコメントで」
「なんだそれ……」
「会長は! もっと自分のかわいさを自覚して! そして男の時の距離感を自制して! 被害者が増える前に」
被害者て……
「お、おう……」
あまりに真に迫った言い方をされ、納得……仕掛けたのだが、ふと、ある疑念が湧く。
「いやまて。塩谷、お前それ。もしかしていつもそうやって女の子落としてる? とか……?」
「はぁ!?」
「あ、あー! 絶対そうだろ! このヤリチ〇! 冬司だけでは飽き足らず俺にまで!」
「なんでそうなるんだよアンタ! 僕はマジで言ってるんだ! マジで! どうしてポンコツスイッチ入るかなぁ!」
「現行犯ー! はい、現行犯逮捕ですわ~っ! 貴方のスマホはヤリ〇ン容疑の証拠品として押収致しますから、おとなしく投獄遊ばせ♪──よっ、と」
俺は油断した塩谷のスマホを奪う。
「あ、くそ、ほんと返し──うわっ」
「ひゃっ」
スマホを取り返そうと勢いよく乗り出した塩谷の身体に押され、スマホを落とす。
そしてそのまま──
────どしん!
「うっ……」
「アイッ……テテ……」
バランスを崩した俺達は床に倒れた。
塩谷の顔が間近にある……
器用に跨る形で倒れてくれたおかげで塩谷に押し潰されずに済んだ。
が、尻もちをついた俺はおしりが痛い……!
と、そこへ。
────ガチャッ
「おまたせ~ お二人とも~……って……」
扉が開き、冬司と柚穂さんが生徒会室に戻ってきた!
現状は塩谷に俺が押し倒されている形になっている訳で……ってまた俺押し倒されてんのか……
「ねぇ塩谷君、なにやってんの……」
じとーっと胡乱な目を向ける冬司に塩谷が凍る。
「あー……えっ……とこれはー……」
新生徒会発足2日目にしてお約束をしっかり回収してしまうとは何事か。
そして何で俺がラッキースケベされる側なんだよ!
「修☆羅☆場」
……柚穂さんはなんでまた目を輝かせているのか。ラブコメ製造責任者に問いただしたい!
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