第4章~飲み会の最後に
高玉「それで、何でその彼女は頑なに子供を堕ろそうとしたんだろう?」
岡野「やっぱり、正社員といえども1年目じゃ稼げないと思ったんじゃないかな?」
土井「でも、未成年の女性じゃないんだから、よっぽどの事があったんじゃないかな?」
高玉「ああ、多分これで当たりだと思うけど、結局は彼女のご両親からの大反対に屈したんでしょ?」
土井「でも、清野君と同い年なら今年で27歳だよね?」
岡野「初産としてはいい頃だと思うけどね」
高玉「分かる!分かるよ~、盤石な体制じゃないと不安で不安で仕方ないって事じゃないの~?」
岡野「バカを言うなよ!世の中そんなに計画通りにはいかないんだよ!どんなに辛くたって目の前にある問題を一つ一つ捌いていかなくちゃならない時の方が大半なんだよ!」
清野「まあまあ、そんなに興奮しないで下さいよ~」
岡野「そうも言ってられないのは分かるだろ!」
清野「はい…」
高玉「それで、何で彼女はそんなにも堕胎したかったんだよ!」
土井「そうだよ、お前の親友なら悪い奴じゃないんだろう?」
清野「そりゃそうだよ!あんなにいい奴はいないよ!ただ、彼にはいろいろと運がなかっただけだよ…」
岡野「ああ、もしかしてあれか~、男には評価されるけど女にはダメ出しばっか食らってるとか?」
清野「それが…、又聞きなんで信憑性に欠けるかも知れないんだけど…」
高玉「うんうん」
清野「先週、彼女の親友の長沢日葵ちゃんに地元でばったり会ってさ、咄嗟に梓咲さんの事を聞いたんですよ」
高玉「やっぱ、原因はお金じゃないの?」
岡野「いやいや、彼女の両親に学歴の事で反対されたからだろう?」
土井「もしかして、彼の両親に同居をしろと迫られてそれが嫌だったとか?」
清野(ゆっくりと首を横に振りながら)「いいえ、そうじゃないんです」
高玉「じゃあ、何で堕ろしたんだよ」
清野「それは、ただ単に谷本君の事が好きじゃなかったからなんだって」
岡野「えっ…」
清野「それなのに、出来ちゃったから中絶したって事らしいよ」
高玉「マジか…、そんな理由で堕ろしたんだ…」
岡野「子供に罪は無いのにな…」
土井「まあ、書類にサインして金さえ払えば堕してもらえるからな…」
清野「俺を含めて、欲しくても出来ない人はいっぱいいるのにね…」
(しばらくの間、一同は絶句している)
土井「あのさ、この際だから言っておくけど…」
土井「子供が欲しくないのに出来ちゃったからほいほい堕ろすとか、コンドームを付けると中折れするから中出ししちゃったとか、そんなのいい歳してふざけ過ぎだろ!」
清野「まあまあ、これは俺の友達の話なんだから…」
土井「いいや、言わせてくれ!」
土井「あのな、あんまり他の人には言わないで欲しいんだけどな、中絶で命を落とした水子の祟りって知ってるか?」
清野「いいえ、聞いた事がないですけど…」
土井「谷本君と深川さんだっけ?」(深川さん=梓咲さん)
清野「そうだけど…」
土井「そのご両人は、今後どんな人生を歩むのかは知らないけど、何も報いが無いって訳じゃないんだよ」
高玉「それで、何がどうなるんだよ?」
土井「それはな、そのお2人が人生の一番良い時に“お前らばかり幸せにさせてたまるかよ”って水子の霊が足を引っ張るんだよ」
岡野「い~、マジで怖いな…」
土井「それだけじゃないんだよ!そのお2人が人生の一番悪い時にも足を引っ張るんだよ」
土井「その時、だいたいの人はこう思うんだって」
土井「“あ~、どんなに大変だったとしても産んでおけば良かったな”ってね」
土井「まあ、こんな事を思うのは死ぬ間際なんだろうけどね」
(しばらくの間、一同は絶句している)
清野「それは…、水子の供養をすれば大丈夫なんでしょうか?」
土井「それが一番いいんだけど、このご時世ちゃんと水子の供養をしている人って少ないと思うんだよ」
清野「そうかもしれませんね…」
土井「していたとしても、望まれた子の流産とか死産の場合じゃないのかな」
清野「谷本君らの場合は?」
土井「う~ん、彼らがちゃんと水子の供養をしたかは分からないけど、最低限堕胎した子の事を忘れないであげる事だよ」
岡野「確かに…、この世から消えれば何でも有りじゃ可哀そうだもんな…」
土井「それと、胎児を堕ろした月間だけは、場所や時間に囚われず最低でも1回はその子の為にお祈りしてあげるといいんだけどね」
高玉「お…、俺は中絶なんてさせてないからな!」
岡野「幸運な事に俺も無いよ」
清野「どうしよう…、俺はこの先どうすれば…」
高玉「何言ってんだよ!堕ろしたのはお前じゃないんだろ!」
土井「あのさ、その2人に今でも連絡が取れる?」
清野「いえ…、もう完全に切れちゃったので…」
高玉「じゃあ、仕方がないね…」
清野「こうなったのも、全部俺の所為なのかな…?」
高玉「少なくともお前の所為じゃないだろ」
岡野「性教育が足りなかった彼奴らの所為だろ」
清野「それは俺も含めてね…」
高玉「それにしても、清野君の精子がそんなに少ないとはね…」
清野「俺も信じ難い話だったんでもう1回検査したんですよ」
高玉「それでどうだったの?」
清野「前回と同じ結果でしたよ…」
高玉「まあまあ、もうちょっと時間をおいてから検査をしないとそんなには変わらないんじゃないのかな?」
岡野「精子はストレスに弱いらしいから、精神衛生上有意義な事をした方がいいぞ」
高玉「お前の過度の筋トレも良くないぞ!それと休日はちゃんと休まないとな」
岡野「太陽の光を浴びない夜型の生活も良くないぞ」
土井「それでも、子供が出来るかどうかは男女の相性があると思うけどね」
岡野「清野君!次に付き合った女性が妊娠した時は絶対に堕ろすなよ!それが子供を授かるラストチャンスかもしれないからさ」
清野「分かりました、そのつもりです…」
高玉「何だよ、いつものお前らしくないな~」
清野「何か、今回の事で自信が無くなっちゃったのも否めないんですよね~」
岡野「まあ、元彼女の梓咲さんだっけ?次は失敗しないんじゃないかな?」
土井「でも、すぐに子供が出来るのってそうそうない事なんだってさ」
高玉(清野君に向かって)「最後に、お前が今回の件で教訓を得た事ってあるか?それだけ聞いたら今回はお開きにしようぜ」
清野「俺にとって大切な事柄は、他の人にとってはそうじゃないって事が痛い程分かったよ…」
岡野「そう言うなよ、思い通りにいかないのが人生なんだよ」
土井「それと、今日俺が言った水子の祟り事も忘れるなよ」
清野「はい」
高玉「じゃあ、これで解散だね!」
一同「お疲れ様でした~」
この日の飲み会では、重いテーマになってしまったものの、現在自分がこの世界で生きているという事について改めて考えさせられました。
ただ、こればっかりは失敗してから学ぶ…、というレベルの出来事じゃ済まされないだろう…、とも思いました。
今回のお話はいかがだったでしょうか。
ただの飲み会の一幕と思われるでしょうか。
それとも、何か思うところはあったでしょうか。
若気の至りで人口妊娠中絶される方は、毎年それなりにおられるかとは思いますが、それが26~27歳ともなればどうなんでしょうね。
売春婦が客の子を妊娠したとか、高校生同士での妊娠とかじゃない限り、安易に中絶するのはどうかと思いますが、それも人それぞれなんでしょうね。
今回は、男性側が原因の不妊についてのお話です。
これが明るみに出ると、本人のショックは測り知れないものがあると思います。
更には、親友が元彼女に膣内射精をした途端すぐに妊娠する…、何て、思ってもみなかった事でしょう。
谷本君は、彼女の妊娠を切っ掛けにアルバイトという不安定な職業から畑違いと言えど正社員に鞍替えが出来た訳ですが、子供を堕ろした事で彼に頑張れる対象がいなくなってしまったのは今後の人生に大きな影響があったんじゃないかと思われます。
人体の神秘について考えてみたのですが、健康な成人男女がセックスをすると、男の子が出来たり、女の子が出来たり、はたまた子供が出来なかったりと、結果的には様々なんですよね。
ただ、好きなお相手でも、経済力が無いと将来的に生活していけません。
なので、職業が安定していて家庭に協力的な人でもない限り、安心して子供は産めないのかも知れませんね。
まあ、人生は今が全てではないので、その時その時の流れにどう対応するかが肝心なのでしょう。
今見えている事、今思っている事、今の健康状態、今持っているお金、今大切な事、今決めないといけない事、今、今、今、今…と、我々は本当に短期的な事柄ばかりに追われ続けています。
それぞれがどう思うかは十人十色ですが、物事をもう少し長期的な視野で考えられていたならば、このお話の結果が変わっていたのかも知れませんね。
あと、中絶で命を落とした水子の祟りについては、昔から霊感があった父親から教わった事になります。
最後に、数ある小説の中で当方の物を読んで頂き誠にありがとうございました。
皆様の今後のご活躍を心よりお祈り申し上げます。