第3章~清野さんからの相談
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(ここからは、清野さんのお話になります)
「俺には高校時代から付き合っていた深川梓咲さんっていう彼女がいたんですよ」
「けっこう仲が良かったんで、お互いに高2で初めてやっちゃったんだけど、その時は本当に幸せだな~と思いながら過ごしていたんだよね」
「でも、付き合って年月が経ってくるとお互いの両親にも紹介しないとならないし、プレッシャーがかかってきたんだよね」
「それでも、会ってみると意外にもお互いの両親には好印象だったんだよね」
「社会人になってから、俺も彼女も頑張って働いたから、それから数年後には結婚資金が溜まってきたんですよ」
「だから、このまま結婚するものいいかな?って、思ってはいたものの、なかなか踏み切れなかったんですよ」
「そこで俺が考えたのが、子供さえ出来てしまえばすぐに結婚するしかない!ってなるから、23歳になった頃から全くコンドームを付けなくなったんですよ」
「最初の頃こそは膣内射精の快感と開放感に満足していたんだけど、3年経っても全く子供が出来なかったんですよ」
「そこで俺は焦ったんです…」
「これは、TVでも特集していた不妊症ってやつなのか?」
「場合によっては、不妊治療もしなきゃいけないんじゃないか?」
「それに、不妊の原因は男性にもあるって聞いたので、俺も検査をする事になったんですよ」
「それこそ、メディカルチェックじゃないけど、不妊の原因を病院迄行って追究してみたんですよ」
「結果、彼女の梓咲さんには全く異常がなく、俺の精液検査で精子の量が少ないって事が判明したんですよ」
「詳しい事はよく分からないけど、俺の精子は一般男性の半分位の量しかなかったんですよ」
「病院の先生は、“今は精子が少ない男性も多いし全然気にする事はないよ”とは言ってくれたものの、それからは俺と彼女の仲は段々と悪くなっていってしまったんですよ」
「何せ、これから結婚しようと思っていた人との子供が生まれない…、っていう検査結果みたいなもんだったからね…」
「俺は愕然としたよ…」
「まさか、俺に原因があったなんて…」
「それでも、頑張れば子供が出来ると思って何回もセックスしたんだけど、全然ダメだったんですよ…」
「とうとう、梓咲さんから三下り半を言い渡されたんだけど、彼女は性格的にはとてもいい人なんで赤の他人と付き合って欲しくないな…、っていう葛藤に苛まされてしまったんです」
「それで、俺の中学校時代からの親友の谷本宏信君に彼女を紹介しようという事になったんですよ」
「彼は、高卒で就職したんだけど会社が2年で倒産してしまってね」
「それからは正社員になれずに、大手スーパーの食品売り場でアルバイトをしていたんだよ」
「でも、谷本君は腐らなかったんですよ」
「豊富な商品知識、天気や気温または近隣で行事があるかどうかを調べ尽くした適正な発注量の算定、元気ではきはきした感じのいい接客、業者さんとの折衝、スキルレベルを考慮した新人教育…とまあ、仕事という仕事はバリバリと熟していたよ」
「それに、彼は体が大きいから、多くの荷物をカーゴに詰め込んで力強く運んでいたんですよ」
「偶に統括マネージャーが異動して来るんだけど、谷本君の力添え無しでは借りてきた猫みたいって言われる事もあったんだって」
「早い話、社員より現場からの信頼の厚いアルバイトだったんですよ」
「ただ、彼は食品売り場の誰よりもバリバリと仕事を熟すけれど、長年に渡って悩んでいる事があったんですよ」
「それは、昔から女には全くモテなくて26歳にして童貞だったんですよ」
「俺は、そんな谷本君の為に何とか力になれないかと思って梓咲さんを紹介したんです」
「彼女はしばらく1人の時間が欲しいとか言っていましたが、俺が半ば強引に話を進めたんですよ」
「その時に、俺がこっそりと谷本君に教えた一言が後々問題になっちゃったんですよ」
「“俺は彼女と3年間中出しをしたんだけど全く妊娠しなかったんだぜ”ってね」
「そうしたら、彼は最初のうちこそは戸惑っていたんだけど、せっかくの俺からの紹介なんだからと付き合う事にしたんですよ」
「ここまでは良かったんですよ」
「谷本君は、約半年間肉体関係無しで真面目に付き合っていたんだけど、まあまあいい感じになった時に初めてのセックスを試みた訳なんですよ」
「それでも、谷本君はつい最近まで童貞だったから、そんなにうまくセックスは出来なかったんです」
「どうも、コンドームを付けると中折れするとかで、挿入時間はせいぜい1~2分が限度って言ってたんだよな…」
「それでも、ようやくゴムを付ける事に慣れた時、セックスをする直前にコンドームを切らしている事に気が付いたんだって」
「そんな時に、前に俺が言っていた事を思い出したんだって」
「“俺は彼女と3年以上中出しをしたんだけど全く妊娠しなかった”って事をね」
「それで、谷本君は梓咲さんに中出しをしていいか交渉したんだって」
「そうしたら、呆気なくOKしてくれたんだって」
「彼女も、俺と数え切れないほど中出しをして大丈夫だったから、気軽にどうぞしちゃったんだよね」
「それで、谷本君のタガが外れたのか、次のセックスからは一切コンドームを付けなかったんだって」
「すると、彼女は程なくして妊娠したんですよ」
「それが何と!彼女は谷本君とセックスしてから最初の月経が来なかったんですよ」
「谷本君はその事を真っ先に俺に伝えてくれたよ」
「“避妊しないでヤッてたら速攻で出来ちゃった”ってね」
「谷本君は焦っていたけど、俺はマジで喜んだね!」
「だってそうだろう!俺があれだけ不妊で苦しんだのに、谷本君がいとも簡単に達成してくれたんだから!」
「やっぱり、妊娠しやすい男女の相性ってあるんだなって…」
「それでも、複雑な思いはあったけどね」
「ああ、やっぱり原因は俺にあったんだってね…」
「ただ、ネックだったのは谷本君がアルバイトって事だったんですよ」
「だけど、そのタイミングで社員登用制度っていうのが出来たんですって」
「そこで、彼は上司に相談したんですよ」
「今度、うちの会社で現場のMGからの推薦があれば、社員登用制度が適用されるって話を聞いたんですけど本当ですか?つい最近、不肖ながら彼女が妊娠しちゃったんで、自分もそれに応募したいんですけど」(MG→マネージャー)
「彼のその一言に、売り場で働く方々は諸手を挙げて賛成してくれたんだって」
「統括MG、MG、一般社員の皆さん、パートの皆さんが、“谷本君ならきっと社員になれる!”って後押ししてくれた上に、翌週には店長の推薦状を持って大手スーパーの本部に面接に行ったんだって」
「彼は、慣れないスーツを着用して緊張気味だったんだけど、売り場の誰もが社員になれると信じて疑わなかったそうです」
「そうしたら、本部の連中は谷本君の日頃の働きを全く考慮せずに、彼が高卒なのを散々馬鹿にして一切話を聞いてくれなかったんだって」
「それでも、谷本君は腐らなかった…、というか腐っている場合じゃなかったんですよ」
「彼が意気消沈して職場に戻ったら、統括MGをはじめ売り場の皆さんから“お願いだから辞めないで!”と懇願されたそうだよ」
「そこで、彼が再びやる気を出したら、今度は別の問題が発生したんだって」
「今度は、彼女から子供を堕ろしたいと懇願されたそうなんです」
「それで、谷本君はアルバイトなのがダメなんだと思って、電話一本で依願退職して正社員で採用してくれる会社を2週間で見付けたんだよ」
「何でも、中規模の建築会社に入れたとかで嬉しそうだったよ」
「これで、谷本君はようやっと軌道に乗ったと思ったらしいんだけど、彼女がどうしても堕胎をしたいと聞かなかったんだって」
「それで、仕方なく谷本君が大金を叩いて中絶したんだって」
「そうとも知らず、後日俺がお祝いを持って谷本君の家に行ったら、既に子供は堕ろし後だったんですよ…」
「その時のやるせない気持ちったら、言葉では言い表せなかったね」
「俺は彼に問い詰めたのね」
「困った事があったら何で俺に相談してくれなかったんだ!ってね」
「そうしたら、“理由は言えない…”とだけ言われたんだけど、そんな彼を俺は思いっ切りぶん殴ったんだよ」
「彼は殴られているのに“ゴメン”ばかりを繰り返していたんだけど、このまま何も語らない訳にはいかないと思ったんじゃないかな」
「それで、彼から聞いた言葉が今でも忘れられないんですよ」
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(ここからは、谷本君の語りになります)
「俺は、女房子供を養わないとならないから、死ぬ気になって就活をしたんだよ」
「正直、切磋琢磨して力をつけた仕事を離れるのは辛かったよ…」
「それでも、将来の事を思うと正社員以外は考えられなかったんだ」
「だから、少しでも給料が高いところにチャレンジをしたんだよ」
「そうしたら、全くの畑違いではあったけど正社員になる事が出来たんだ」
「でも、梓咲さんから“それでもどうしても堕ろしたい”って哀願されて断れなかったんだ…」
「それでも俺は、仕事が落ち着いた頃に彼女と結婚しようと思っていたんだ」
「だけど、子供を堕ろしてから1週間後に言われた言葉は“私と別れて欲しい”の一言だったんだ」
「理由を聞いても教えてくれないし、“それじゃ”って冷たい感じで言うとさっさと帰って行ったんだよね」
「もう、訳が分からないよ!」
「だから、俺の事はもうほっといてくれよ!」
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(谷本君の語りはここまで)
「彼は泣いていたね…」
「その後、谷本君とはギクシャクしてしまい、俺は親友を失ってしまったんです」
「俺は、彼女を失い、親友を失い、授かったばかりの元彼女の子供すら見る事が出来なかったんですよ」
「1年前の俺は、“ああ、もうすぐ梓咲さんと結婚するんだ”なんて思っていたけど、子供が出来なくて彼女と別れたばかりか、親友の人生まで狂わしてしまう事になるなんて…」
「俺はあの時、何にもしなければ良かったんじゃないか?」
「いや、彼が正社員になれた事だけは良かったじゃないか」
「でも、こんなのあんまりじゃないか…」
「俺が何とか出来なかったのか…」
「そう自問自答している毎日なんですよ…」
「こ、これで俺の話は終わりです…」
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(清野さんの1人語りはここまでになります)
自分は、その話を聞き入っているうちに、酔いが醒めたような気がしました。