第九話 終結
第九話です
シロイとクロイの日常を描いてみました。
なんか普通の人間ぽくて気に入ってます。
翌朝シロイが目を覚ますと部屋のソファーに座るクロイが話しかけてきた。
「今日の昼までは動きはなさそうだ」何も言わなくても様子をちゃんと確認してくれているクロイを見てシロイが嬉しそうな顔をする。
「まあ動くとしたら昼以降だろうね。今捕まえてる人達の管理者がロマーノに報告しに来るだろうからね」今のところ予定通りという感じでくつろぐシロイ。
しばらくソファーでまどろんでいたシロイが遅い朝食をとるためにキッチンへと入ってゆく。
トレイの上に2人分のコーヒーとホットサンドを乗せ運んでくる。
「クロイも食べるでしょ? 僕、このベーコンとチーズのホットサンド好きなんだよね」幸せそうにホットサンドにかぶりつくシロイ。
「ああ、うまそうだな、もらおう」シロイの幸せそうな顔を見ながらの食事は楽しいと思っているクロイ。
「砂糖は4つでいいの? ミルクも持ってきてるよ」2人の容姿とは正反対にブラックでコーヒーを飲むシロイ。
「いや、今日は5個入れる。少しエネルギーを補充しておく」エネルギーとしての砂糖を重要視しているのか、それとも純粋に甘いものが好きなのか分かりづらいクロイ。
遅い朝食をとり終わりくつろいでいる中、クロイが反応を示す。
「シロイの予想通りみたいだな、今連絡が入った」シロイの予想を裏付けるように情報収集をするクロイ。
「よーし、それじゃあみんなで最後の仕上げに行ってみようー」最後のお楽しみが嬉しくてしようがない様子のシロイ。
少し時間をさかのぼり、ドエイドのアジト。
今、サイラスは生きてきた中で最も焦っていた。
なぜ連絡がない? すでに日は昇り社会は動き出している。失敗した! そう判断するしかなかった。初めての失態、屈辱だ。
すぐにロマーノに連絡すべきだが状況が何もわからない。
だがしかしもう限界だ、これ以上は待てない、報告しなければ。
思考を切り替える。失敗したという結果を前提に今後どう動くべきなのかという思考へ。
起こってしまった結果は変えられない、どう動けば次の成功へ繋げることができる? 『どうすれば』、変えられない過去の事を考えても仕方がない、次『どうするか』が大切なのだ。
先ず、組織への報告だ、査問会は免れないだろう。卑屈になるな、今回の依頼に関して人選に抜かりはなかった。最良の選択だった自信がある。
思考を巡らす中で一つの言葉が頭に浮かぶ。「『イレギュラー』か……」ボソッと呟き組織への報告を終えると続けてロマーノに連絡を入れる。
「おはようございますロマーノさん、悪い知らせがあります」サイラスは単刀直入に切り出す。
「まさか、失敗か?」頭によぎり続ける不安を払拭したいそんなロマーノの救いを求めるための質問だった。求める答えはもちろんノーである。
「残念ながらその通りです。まだはっきりとは確認できてはいませんが状況的に見てそう判断するのが妥当だと思われます」ロマーノの期待を感じ取りその答えと今の状況を伝えるサイラス。
「なんてことだ、分かった。何か状況が分かれば連絡をくれ」いくつかサイラスと言葉を交わし、そう言うとロマーノは電話を切り、全ての意識をこれからの対応に向けていた。
そして先ずボスへと連絡を入れる。「ロマーノです、午後一番に伺います」
短いやり取りではあったがヴァレンティノにも重要案件であることは伝わっただろう、直接伝え対策を打たねば。しかし、打てる手が浮かばない、ロマーノにとって初めての経験だった。
時計が昼の12時を告げる頃ロマーノがヴァレンティノのところに到着する。しばらくして1台のワンボックスカーがやってくる。
後部座席のスライドドアが開くとシロイとクロイが降りてくる。
「今日は正面からヴァレンティノのところまで行くから通り道よろしくね、クロイ」そういうとスタスタと入口へ向かい進んでいくシロイ。
「分かった」後ろに捕えていた5人を引き連れシロイの後にクロイが続く。
入り口で護衛がシロイに何か言おうとした時にはクロイの影によって地面にねじ伏せられていた。
そしてそのままヴァレンティノの部屋に向かって一直線に進んで行く。
部屋の外の騒がしさにヴァレンティノとロマーノが扉に視線を向けた時、その扉が開きシロイとクロイが入ってくる。
「久しぶり、ヴァレンティノ。ロマーノも一緒だね」部屋にいた2人に微笑みかけるシロイ。
「届け物だ」クロイが連れてきた5人をヴァレンティノとロマーノの前に突き出す。
「お前らは……」ロマーノが何か言おうとするがシロイがその言葉を遮るように話し出す。
「どうする? まだやるの?」天使の微笑みを浮かべたまま決断を迫るシロイ。
ロマーノからの報告を受け次の手を決めかねていたヴァレンティノが重い口を開く。
「『イレギュラー』か……いいだろう、認めようじゃないか。お前たちと友好同盟を結んでやる」あくまで強者を演じるヴァレンティノ。
「お前たちの後ろ盾はいらない、俺たちは自分たちでその存在を肯定する」静かにクロイが言う。静かだが有無を言わせぬ威圧感を込めて。
「僕たちのやることに干渉しないこと、その約束さえ守れるのならこちらから何かを仕掛けることはないよ」シロイは天使の微笑みで威圧する。
「しかしそれではカールゴンの件の示しがつかない。俺たちはヤツから損害を被ってるんだ」メンツというところで譲れないヴァレンティノ。
「僕たちはカールゴンの生を保証している、僕たちは約束は必ず守る。あー、でも腕1本ぐらいなら折れちゃっても死なないよねクロイ?」初めに見せた真剣な眼差しのシロイは話し終るころにはいつものいたずらに満ちた天使の微笑みとなっていた。
「足1本でも大丈夫だ」クロイの感覚では腕や足はもぎ取るものだと思っているが、それでも死にはしないだろうと判断した。
「よし、いだろう。明日誰かを向かわせる、カールゴンの腕1本で手打ちにしよう」これ以上の譲歩を求めるのは得策ではないと判断し事の終結をヴァレンティノは宣言した。
こうしてヴァレンティノファミリーとアルカトラズの一件は終結したかに見えた。
しかしドエイドにて不穏な気配が動き出していた。