第二話 翌朝
第二話です。楽しく読んでいただけると幸いです。
「なんだこれ?生を保証する?」
「誰のいたずらだ?」
「発信元を見つけ出せ」
アルカトラズの宣誓は少なからず悪い奴らの世界に反応を見せた。
今この時誰もが初めて見るこの宣誓を少し先の未来、裏の世界の住人達は『悪魔との契約』と呼ぶ。
少し先の未来、
「僕たちはどうやら悪魔らしい」天使の微笑みを浮かべながらとても楽しそうに笑うシロイ。
「そうか」俺から見れば悪魔に対して失礼だなとは思ったがそう答えたというそぶりのクロイ。
「僕たちのやるべきことはまだ始まってもいない、早く始めたいね」
遠くに目をやり、誰に言うでもなくシロイが言う。そして静かに頷くクロイ。
そして現在、深夜0時27分カールゴン邸にて
「こんばんはカールゴン、僕たちは君の生を保証するよ。ただし裏切りは許さない、僕たちに対して不利益が及ぶ行動は裏切りとみなすよ」
天使の微笑みによる恫喝、いや脅迫か。
「さっきのヤバい状況から逃れられたことを思い出せ。俺たちが行動した結果の証明だ」
悪魔による悪魔っぽい話し方。
いくらかは理解しだしていた。下手は打ったがバカじゃない、直感的に、そのあとに論理的に事態を飲み込む。
おれはカールゴンだ、ここで終わりはしない。自信を取り戻そうとしたその時天使が言葉を発した。
「先に言っておくね、君にはあの時生という選択肢は無かった。そして君に生という選択肢を与えたのは僕たちだ、だから君は僕たちの囚人、生は保証するけど君は僕たちの言うことに逆らえない。生きて捕え続けられる。ここからの解放は死のみだ」
取り戻しかけた自信はただの虚構だったようだ。裏の世界にかかわっていたからこそわかる死の影。間違いなくこいつらは俺の生殺与奪を握っている。
「何を望む?」
求めるものを与えなければいけない、カールゴンの中の生きるための本能の問いかけ。
「今すぐに具体的なものはないよ、その時が来たら伝えるからよろしくね。それまでは今まで通りにしてくれてればいいから。じゃあまたね」
まだ聞かなければならないことがあるはずなのに言葉が出てこない。やっと言葉を発せられようかと思ったとき
「あ、僕の名前はシロイ、こっちの人相の悪いのがクロイね。そして僕たちの組織の名前はアルカトラズだよ」
そう言い残して奴らは去っていった。
まるでこちらの思考と行動を読まれているかのようだった。そして得体のしれない重圧から解放されいつの間にか深い眠りについていた。
翌朝、目を覚まし頭が起き切っていないにも関わらず昨日の出来事を反芻する。
いたって普通の朝、昨日のままソファーに座ったままだ。拘束もされていない、いつの間にか眠ってしまったのだろうと推測する。
耳を澄ましても騒がしさは感じられない。やがて秘書がやってきていつもの執務につく。昨日と変わらない、いや、昨日よりも気持ちよく感じるのは気のせいか?
確かに昨日の夜ヤバいことがあった、それは間違いない。しかし今確実に生きていることも事実だ。
スキャンダルも鎮火してきているんじゃないかと感じられる。死の影も感じられない。助かった、
「やあ、昨日の今日だけど元気そうだね」
天使の顔をした悪魔が話しかける。助かってはいなかったようだ。
やはり昨日と同じ白と黒の2人が目の前に佇む。
「昨日伝えてもよかったんだけど、状況を飲み込んでからの方がいいかと思ってね、君の仕事を伝えに来たよ」
この笑顔だ、こいつがやばい。いくら気を張ろうともすべてほぐされてしまう。この声もだ。男だろうが女だろうが関係なく魅了するのだろう、抗うことを諦めさせ、従う快楽へいざなう。
「僕たちはここニューヨークを根城として組織を作りたいんだ。そういうことでよろしくね」
現れるときは突然姿を現すのに去る時はゆっくりと姿を見せていくというのは彼らのやり方なのだろう。緊張から徐々に解放されていくその感覚を体に刻み込んでゆく。生を実感させているのか。
抽象的な要求だが俺は生きたいのだ。思いつく限りの行動を起こす。
アルカトラズと言う組織の構築。何のための組織かもわからない、考えうる限りの柔軟性を持たせねば、表も裏の意味も含めて。
彼らへの裏切りは死なのだ。
アジト的なものも必要だろうか?州知事としての権限を使い、市で管理する物件を押さえる、色々と隠蔽しながら。
家具なんかも必要だろうか?いや思いついたものは全て用意した方がいいだろう。
ニューヨーク市民820万人にをないがしろにし、カールゴンは今日1日を2人の男達のために費やした。
新しいアジトにて、
「なかなかいいソファーだね、カールゴンは仕事のできる男みたいだ」新しい革張りの座り心地の良いソファーの上に跳ねるように座り込みご満悦のシロイ
「そうか」用意されたものとは違う安っぽいソファーに深く腰を落ち着けるクロイ。
「アジトってなんかワクワクするよね」秘密基地を見つけた子供のようにいたずらっぽくシロイが笑い、クロイはただ静かに頷く。