第十七話 3つの幸せ②
第十七話です
ゆっくりと時間の流れる心地のいい感覚を感じてもらえたら嬉しいです
「シロイ、今日はホットサンド作ってくれるんじゃないの?」暖かく包み込む春の日差しのようなリンダの声でシロイは目を覚ます。その日はいつもより早く起こされまだとても眠そうだった。
「クロイも起こすの?」いつも一緒の2人だったが念のためシロイに確認するリンダ。
「僕1人で作るんだ。クロイは起こしちゃだめ」シロイはそう言うと眠い目をこすりながら顔を洗いにバスルームへ駆けていく。
クロイの布団を肩まで掛けなおすとリンダはキッチンへと向かう。昨日の小さな約束を果たし、これから訪れる小さな幸せに胸躍らせながら。
「リンダは何もしちゃダメなんだからね」タオルで顔を拭きながらバスルームからシロイが叫ぶ。
そしてそのままキッチンへ駆けてくると、何か手伝おうと立っていたリンダの背中をまっすぐに伸ばした手でリビングまで押していき、椅子へと座らせる。
「僕1人で全部できるんだから、リンダはそこで待ってなさい」シロイはそう言うとまるでいつものリンダのつもりのように1人でキッチンへと入って行く。
キッチンへ入ると颯爽と踏み台を引っ張り出し棚を開ける。奥からフライパンの取っ手を掴み引っ張り出し、鍋をひっくり返しながら取り出すとすぐさま火にかける。続けて、冷蔵庫からベーコンを取り出すと今度は危なっかしくナイフで切り分けていく。
リンダがリビングのテーブル越しにキッチンの様子を伺うと、丁度その時いびつな形に不揃いに切り刻まれたベーコンがまな板の端に積み上げられていってるところだった。これから食べさせられる物への不安より、とても嬉しそうに料理をするシロイの笑顔につられ、リンダは同じように笑顔を浮かべていた。
「僕のホットサンドは世界一なんだからね、リンダはお利口さんに待ってなきゃだめだよ」時々監視するようにリンダの姿を確認しながら料理に集中するシロイ。
「楽しみね、おなか減ってきちゃったわ、シロイ」後片付けがいつも以上にかかりそうなキッチンの中でキラキラと輝くシロイを見つめ、こんな幸せな朝もあるものなのだなと妙に納得する。
パンを焼く香ばしい匂いと、ドリップされるコーヒーが醸し出すナッティーな香りがリビングに漂うころ、クロイがドアを開け入って来る。
「おはよう、クロイ」クロイが部屋に入ってくるとリンダが気付き朝の挨拶をかわす。
「おはよう、シロイの後片づけはやっておく」テーブルに向かいながら、キッチンを横目に見ると昨日の昼の様子を思い出しクロイがリンダに伝える。
「あら助かるわクロイ。もしかして昨日もあんなに散らかしながら作ったの?」今の幸せに浸りキッチンの散らかり具合には目を逸らしていたリンダはそれすらも幸せに変えてくれたクロイを見つめ、また自然と顔から笑みが溢れていた。
「シロイが楽しそうだからそれでいい。シロイの楽しそうな顔を見ているのは俺も楽しい」感情の表現が苦手なクロイだったがその時は笑っているつもりだった。そんなクロイの表情をリンダとシロイはいつも当たり前のように感じ取っていた。
「クロイはお寝坊さんだね、ご飯なら僕が全部作っておいてあげたからね」テーブルにホットサンドを運び終えるとシロイは両手を腰に当て自慢げに言う。
「うまそうだな」シロイの方をチラッと見るとクロイの関心は朝食の方に移ったようだ。
「昨日よりおいしくできてるはずだよ。アツアツのうちにみんなで食べよう」自分の作った朝食をみんなで食べる様子を想い描き、満面の笑みを浮かべるシロイにつられ、それぞれがそれぞれに喜びの表情を浮かべていた。
クロイに後片付けを任せリンダは仕事へと出かける。
「早く帰ってきてね」シロイがいつもの小さな約束を持ちかける。リンダへのささやかなご褒美を用意して。
「分かったわ、約束ね」いつものシロイの幸せをもたらす言葉ににこりと微笑み返事を返す。
いつものようにリンダが出かけた後はクロイがシロイの相手をする。
「ねえねえクロイ、昨日リンダと一緒に玉ねぎ切ってたらさ、なんでかわかんないけど涙が出てきたんだよね」今日は何をしようかと部屋の中を歩き回りながらシロイが話しかける。
「シロイが泣くとリンダが悲しむぞ」キッチンを片付けながらクロイが合の手を入れる。
「でも昨日のリンダは僕を見て笑ってたよ」クロイの声を聞くとサッとキッチンの方を見つめ不機嫌そうに返す。
「まあ、玉ねぎを切ったんなら涙ぐらい出るだろう」フライパンをシロイが取りやすいように棚の下の段に乗せながらクロイがシロイのご機嫌を治しに行く。
「でもリンダは泣いてないんだよ、ずるいよ」自分だけ泣いていたのが余程気にらなかった様子のシロイ。
キッチンに背を向けると不機嫌なまままた部屋の中をまたぐるぐると歩き出す。
「今日は昼間外で遊んで、その後リンダを迎えに行こうか」自分では手に負えないと判断してクロイはリンダの力を借りることにした。
「お迎え? 行く行く、絶対行く!」さっきまでの不機嫌さがウソのように元気いっぱいにクロイの提案に乗るシロイ。
今しがた出かけたばかりのリンダを迎えに行くと決まっただけでソワソワしだすシロイをクロイが制すように言う。
「迎えに行くのは日が沈むころだからまだ先だぞ」
しばらくその場でじっと我慢していたようだが1分と持たなかった。
「そうだ、リンダを迎えに行くまでこの前クロイが言ってた図書館行ってみようよ」
今日の予定が決まり満足そうに椅子に座り、クロイが片づけ終わるのを待つ。
シロイにとってリンダは憧れの存在であり、初めてできた大切な家族の1人でもあった。
そしてクロイもまたシロイにとって信頼すべき仲間であり、リンダと同じ大切な家族の1人であった。




